目覚めし者の夢35
支給されたスマートフォンの表示を確認する。対象の居場所はラジオ局の建物の屋上、電波塔の根元に位置するペントハウスのようだ。
「依頼主から入手した資料によれば外部からの確認は困難。ラジオ局内部に侵入し可能な限り接近せよ、ね」
元々はドローンによる調査を予定していたが、状況は変更となった。
俺たちがレジスタンスのキャンプから逃れる途中、向こうで状況が変わったようだ。
――依頼主は随分積極的だ。まあ、ラジオ局など電波監督局の管轄のど真ん中のような施設だ。何らかの資料を持っていてもおかしくはない。
「或いは……」
どうしても俺たちにその配信者の正体を突き止めさせたい理由でもあるのか――と、陰謀論が染ったかもしれない。
まあ、ともかく。上からの指示であればそれでいい。件のラジオ局の前に広がる広大な陥没エリアの片隅、まだ真新しい階段の一番上から降りていく先に目を落とす。
「建物周囲に敵影無し」
「了解」
恐らく二層との行き来のために誰かが設置したのだろう階段は、下り切った先で開けた場所に出る。事前に状況を確認しておくのは必須だ。
幸い情報通り周囲は静まり返っていて、崩れ落ちた一層の残骸が転がる以外には何もない。
その広場を目指して何度も折り返しながら階段を降りていく。
日の当たる一層から、その一層の影のさす二層へ。階段を降り切ると、再び薄暗い二層がお出迎えだ。
「正面は……封鎖されているな」
「駐車場横に職員通用口がある。そこから入れそう」
スポンジのようにボロボロになったコンクリートバリアによって塞がれている正面入り口を迂回し、建物の横に位置する駐車場へ。数台の乗用車が放置されたまま朽ち果てているその横を通り過ぎて、小さな扉の前に移動する。
「……?」
「どうしたの?」
背後からのエリカの問いに答える前に、間違いのない事をもう一度手の中で確認。
「開いている」
ドアノブは抵抗もなくスムーズに開く。まるで今でも誰かが定期的にメンテナンスしているように。
その意味はすぐ後ろで見守っていた相棒も分かったようだ。
扉の丁番側に立ってノブを掴んでいた俺を追い越して扉を挟んで反対側に移動すると、即座に自らの装備から内視鏡を取り出して待機。
それを確認して極僅かな隙間だけをつくると、エリカがそこから内視鏡を入れて内部を確認。数秒の後にそれを引き抜くと、即座にプライマリーに持ち替えた。
「周囲に敵影無し。静かに素早く」
「了解だ」
答えてから人一人が通過できる必要最小限にだけ扉を開き、それを合図に相方が中に滑り込む。
それを見てから間髪入れずに俺も続く。
入った先はちょっとした小部屋に繋がっていて、正面の観音開きの他には倉庫と思われる扉が左右にあるだけ。
「クリア」
「クリア」
その倉庫も念のため確認するが、中に何かあるという訳でもない。ならば正面だ。
もう一度内視鏡を差し込む。
「敵影無し。上に登る階段を確認」
どうやら一階は無事に進めそうだ。
それが例外であったと知らされるのは、二階に登ってすぐのことだった。
「止まって」
階段を登り切る手前でエリカが制止する。
「前方、編集室にLD兵が入っていく。連中が中にいる」
報告を受けながら、階段を上る前にスマートフォンのカメラで撮影した各階の案内図を確認。この階には編集室の他にもいくつか部屋があるが、部屋の数自体は少ない。
「アルファ1よりCP」
「こちらCP」
LD兵がいなくなったことを確かめてからエリカが呼び出す。
「建物内でLD兵を発見しました。まだこちらは見つかっていませんが、巡回しているものと思われますオーバー」
もし、ただの巡回ではなく俺たちと同じ相手を探しているのだとすれば面倒だ。
急がなければ手遅れになるかもしれない。
その考えはエルマさんにもあったようだ。
「CP了解。連中の目的は不明だが、レジスタンスの襲撃から考えて、我々同様Dr.ナックを探している可能性はある。先に見つけられると面倒だ。急いでペントハウスに向かえオーバー」
「了解。捜索を続行します。アルファアウト」
通信を終え、俺たちの意思は決まった。
「進もう」
「了解」
先に彼らを見つけ出し、必要ならそれを保護する。
エルウィン氏のように連れて逃げる必要があるのかは分からないが、Drナックの正体が分からないまま死んでいました、という事態は避けたい。
編集室からLD兵が出てこないことを確かめてから更に上へ。
三階も四階も五階も、警備部隊が既に入り込んでいるのは同様だった。
一体何を探しているのか、或いは何もない事を確かめているのか、彼等は数こそ少ないものの廃墟となった薄暗いラジオ局内を巡回していて、上に登るごとに俺たちの焦りを強めさせる。
最上階である六階にはまだ手が及んでいなかったのは幸運と言うべきだろうか。
複数の部屋に分けられていて、その間を縫うようにして廊下が走っているその中を、俺たちは探索していく。
「ない……」
LD兵のいないことで一度生まれた安心は、更に強い焦りとなって戻って来た。
間違いない。何度探してもペントハウスに向かう方法が存在しない。
それどころか、この階の案内表示にはそもそも上に向かう階段が存在しないのだ。
恐らく後になって――恐らく無許可で――ペントハウスを増設したのだろうが、だとしてもそこに通じる階段が存在しないというのは説明がつかない。
別の階段が存在するのか?いや、それはないはずだ。他の階でもこの階でも、案内表示にある階段は俺たちが使っていたものだけだ。
ではエレベーターか?だとするとお手上げだ。既に電源を喪失して久しいこの場所では動かすのは絶望的であるし、仮にそれが可能だとしても各階にいるLD兵たちに見つからずに動かすのは不可能だ。
それに、そもそも後から増築した場所にエレベーターシャフトを延伸するような大工事をすれば、それらが案内に残らないはずがない。
つまり、あるはずなのだ。
だが、見つからない。
「……」
どうするべきか。
こうしている間にもLD兵が上がってくるかもしれない。
「ッ!」
「どうした?」
その状況で、不意にエリカが足を止めた。
彼女の指が、天井の一点を示す。
「あれ、他の階のものと違うよね?」
その指の示す先には、後から増設されたと思われる無線式の監視カメラが設置されていた。
そのカメラのすぐ脇に天井裏に繋がるハッチが一つ。一つの仮定が頭に浮かんだのは、俺も彼女も同じだっただろう。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




