目覚めし者の夢34
「中々やるじゃない」
弾と消耗した諸々、そしてメディックポーチの中身を補給する最中にエルマさんが俺の耳元で囁いた。
「……知っていたんですね」
「申し訳ないとは思っているよ。けど本人の同意なしにべらべら話す訳にもいかないだろう?誰にだって秘密はある」
たった今自分で言った言葉が返って来る。
「まあ、それはそうだ」
それに事実として、秘密は秘密のままの方が俺にだって都合がいいのだ。なのに相手にだけ全て公開せよというのはフェアじゃない。そんな理不尽な要求は出来ない。
――そうだ。理不尽な真似はしたくない。俺だって理不尽な要求ばかりされてきたのだ。もう充分理不尽な目に遭っているあいつに、それ以上そんな目に遭わせたくはない。
「これでよし」
装備品を整える。持つべきものは揃った。
「よし、待たせたな。行こう」
振り返った先にいた件のパートナーへ。
「うん!よろしく」
ようやくいつも通りの彼女に戻った。
目指すは正面に見えている電波塔=もう一つの依頼の目的地だ。
「ダイヤはこちらで商店街の病院に運んでおく。ここからなら、まっすぐ進んで陥没エリア横の非常階段で二層に降りて、正面から放送局内に入れるはずだ」
エルマさんがそう言って送り出してくれる。
「今のところ特に周囲に敵影はないが、警戒するに越したことはない。慎重にな」
「「了解」」
やり取りを終え、それからエリカが付け加える。
「そうだ。先程話したブローカーの録音、共有しておきます」
どうやら俺が到着するまでの間に、例の一件についても報告が済んでいたようだ。
「そうしてくれ。場合によっては、ダイヤを運び込んだ後で商店街の連中にも話をする必要があるかもしれない」
まあ、そうだろう。
商店街からすればブローカーの存在は営業妨害な上に、彼らのケツ持ちである国家警察局内のスミス派=サイストックにあえて介入せず、その環境に捜査の手が及ぶことを恐れた犯罪者を誘い込むという考え方からすれば、正体不明・制御不能な存在など野放しには出来ない。
野放しにしているように見えて、その実一番確実な制御を求めているのがスミス派だ。その思惑に従わない危険因子は速やかに排除しなければならない。
「……その時、ブローカーと一緒に誰がいたのかについても報告はするよ」
念のため付け加えられたエルマさんの言葉に、エリカは迷いなく頷いた。
「……大丈夫です」
エルマさんの言葉が何を意味しているのか、それが分からない彼女でもないだろう。
その上で、彼女の選んだ結論がそれだ。
――言い切る前にあった僅かな沈黙を経ての答えだ。ならばそれ以上、他の人間が揺さぶるべきではない。
「……分かった。なら、二人とも行ってこい」
その事を多分俺よりも理解しているだろうエルマさんに送り出されて、俺たちは歩き始めた。
「さっきの写真だけどさ」
「うん?」
歩き始めて少ししてから、不意にエリカが口を開いた。
周辺に敵影はない。話しながらも目は常に間断なく辺りを警戒している。
「第375偵察ユニット……一緒にいたあの子たちは、皆軍に引き取られたって」
解散後に会ったことはないけどね――そう付け足しながら、彼女は何かを思い出したようにそう漏らした。
「なら、あの中に混じっている可能性は低いって訳だ」
「うん。多分ね」
その言葉に込められた意味は何となく察した。
「いいんじゃないか。それで」
「え?」
「プロダクテッドと言ったところで、全員知り合いって訳じゃない。親しかった奴とそうでなかった奴がいて、顔すら合わせた事のない奴だっている。それら全てを同じように扱えなんて、無理な相談だ」
俺だって多分そうする。
「……そっか」
「俺ならそうする」
その一言が彼女の中の重荷を下ろさせたのだと思うのは、多分俺の自惚れだろう。
だが、それでも彼女にとって一切なんの意味もなかった訳ではないと、その後に俺に向けられた言葉に対して思うのは、きっと自惚れにはなるまい。
「ありがとう。……本当に、ありがとう」
「……気にするな」
それきり、その話は終わりだ。
俺たちは歩き続ける。正面にそびえ立つ電波塔。その前に広がる広大な穴と、その周囲を囲むボロボロの規制線に向かって。
その穴に設置された階段を下りた先、二層にある放送局の入口から中へ進めば、いよいよ第二の依頼のターゲット、Dr.ナックとご対面だ。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




