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土竜・オブ・ザ・シティ  作者: 九木圭人
目覚めし者の夢
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目覚めし者の夢32

「そいつを降ろせ」

 一応の警告。だが、効果は予想した通り。

「黙れ!お前たちは政府の手先だ!」

 ため息を一つ。残念ながら、俺の頭と舌はこのいかれた名探偵を説き伏せる方法を知らない。


「さっきも言ったように、もし俺たちが政府の手先で、あんたたちを狙っていたのだとしたら――」

「うるさい!お前たちが外の人間に見せる演技だってことは分かっている!俺たちに全てを見せる訳がないってこともな!!」

 厄介なタイプの陰謀論者だ――そうでないタイプの奴がいるとは思えないが。

 自説の矛盾点を頑として認めないタイプかと思ったが、矛盾点を指摘されてもそれを認めた上で「矛盾を解くカギを相手が隠している」とすることで更に頑迷に自説を信じ込むとなると、説得のしようもない。


「大方モーラー・アルファとかいう組織だってお前たちのカバーシナリオだろう?」

「そう思うならそれでいいよ。だがあんたの親父さんが死んだのは本当だ。それで弁護士がうちに相談に来たのもな」

 もう口調を取り繕うつもりもない。

「ふん、そんな話、政府側の人間ならいくらでも情報を手に入れられるだろうよ。何しろ政府は個人情報なんて屁とも思っていない!お前達政府は国民を家畜化して管理する60人会議の代理人なんだからな!」

 叫びながら、俺とエリカに交互に銃口を向けるエルウィン氏。

 打つ手なし――うんざりして彼女の方をちらりと見ると、どうやらそれが俺たちの共通見解に出来そうだった。


「大体、お前たちが政府の差し金だってことはな、姿を見れば分かるんだよ!」

「へぇそりゃ凄い。部隊章でも入っていたかな?それとも身分証を見せたっけ?」

「アルファ2挑発しないで」

 たしなめられて口を閉じる。だが、今のが水を向けることになったようだ。


「あのブローカーとか言う奴の周りの連中、あれを見て思い出した。それに、お前だ!」

 銃口が指し棒がわりにエリカの方へ。

「お前もあの連中と同じだ!お前らはみんなプロダクテッドだろう!!」

「ッ!!?」

 その聞きなれない単語の意味は、しっかりと脳みそにインプットされていた。

 その指摘が的外れなものではないと、向けられた銃口から実際に撃たれたように歪んだエリカの表情が物語っていた。


 このアシュファーラにおいても、日本と同様に少子化は深刻な問題となっていた。

 今から30年以上前から既にその傾向はあり、合計特殊出生率が1.50を下回る年が続いていた。

 時代は冷戦の真っただ中。即ち、少子化が恐らく日本よりも切迫して将来的な労働人口の減少、ひいては国力の衰退、そして有事の際の兵力の減少として危惧されていた。

 故に、時の政府は決断を下した。平時であれば思い付きはしても人道やら人権やらを理由に実行できないだろうプランを実行に移した。


 イデアの家。そう呼ばれた実証実験施設が首都郊外に造られた。

 0歳~12歳までの身寄りのない子供が全国から集められ、施設内で養育される。

 彼等は施設内での成績を基準に人生のプランを決定され、以降はそのプランに則った人生設計が与えられる。

 そうして育てられた子供たちの最後の義務が、男女とも18歳になった時点での精子と卵子の提供だ。

 集められたそれらを、当時の遺伝子工学に基づいて、もっとも確実に受精し、かつ健康に育つ可能性が高い組み合わせで受精させ、代理母から産まれたその子供がまた同じ施設で育つ。


 将来的には国内に複数個所に増設する計画だったこの国民生産計画の実証実験施設の全容が国民に明らかになったのは、既に卒業生の受精卵から産まれた子供が育てられ始めた後だった。

 そうした子供たちは俗にプロダクテッドベビー(製造された子供)、或いはただ単にプロダクテッドと呼称された。

 遺伝子を選りすぐった一点もののデザイナーベビーですらない、最も効率よく人口を維持・増加するための製品としての子供。


 当然、問題視されないはずもなかった。

 いや、それだけならば或いはまだ擁護する者もいたかもしれない。

 問題は、そのプロダクテッドたちの“配備先”だ。


 当時は冷戦たけなわ。それも第一の仮想敵国であるラゴア民主国と地続きのこの国だ。

 そして有事の際、兵卒と下士官はどれ程多くとも多すぎるということはない。

 加えて戦争とは敵部隊と会敵する最前線だけで進むものではない。破壊工作、ゲリコマ、暴動やテロの扇動――銃後の戦いはいくらでもある。

 そうした事態に対応するため、また前線における軍の負担軽減のため、警察や軍を補完するための準軍事組織。イデアの家出身者のおよそ半数は、表向きは全寮制の国立中高一貫校とされている訓練施設へと進学する。


 このルートが国民の知るところとなり、どちらも解散させられたのは、今から数年前のこと――らしい。

 結局、知識としてインプットされていても、さして意味を見出せなければその知識は眠っているという事だろうか。今まで考えつかなかったが、エリカや、あの逆さフクロウの少年兵たちの可能性として、一番考えられるルートじゃないか。


「お前達プロダクテッドは政府の犬だ!国の産み出した人間だ!」

 エルウィン氏が叫ぶ。

 実際、解散させられた訓練施設に在籍していた者は軍や警察に編入されたと聞く。

 狂った陰謀論者ではあるし、彼の主張にはいくらでも矛盾はあるが、少なくともその部分においてだけは一定の筋が通っていると言える。


「大方軍や警察がスパイとしてお前たちを送り込んだんだ!!俺たちとDrナックが目障りだったのだろうからな!!」

「犬……か」

 エリカの口からぽつりと漏れたそれは、自身に向けられた怒号の中にあって、不思議なほどしっかりと聞きとれた。思わずエルウィン氏がその自説を一度止め、俺も彼女の方を振り向くほどに。

「……本当に、そうだったら良かったのにね」

 その震える言葉と裏腹な、屈託のない笑顔。

 それによって呆気にとられた状態からの回復は、エルウィン氏よりも俺の方が少しだけ早かった。


「ッ!!」

 その隙をついて銃身をはたき落す。

「あっ――」

 相手が反応した瞬間には、エリカから射線の外れたそれを相手の腕からもぎ取って180度反対に向け、そのまま銃口で鳩尾を突く。

「ぐっ!!?」

 奴がよろめき、体を「く」の字に折り曲げる。

 そのまま、弾倉で顎をかち上げるように押し付けつつ、足を刈って倒すと、錆の浮いたその銃を放り捨てて右手でまだ弾の残っているセカンダリーを抜いて突きつけた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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