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土竜・オブ・ザ・シティ  作者: 九木圭人
目覚めし者の夢
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目覚めし者の夢30

「なっ――」

 咄嗟にエルウィン氏の口を抑えたのは、我ながら機転が利いていたと思う。

 あと少しでも遅ければ彼の声で俺たちの位置を連中全てに知らせてしまうところだったということを、その手と口の間から漏れた少しの音が教えてくれた。


 幸い、その漏れ出した音をかき消すぐらいには、背後の柱に叩きつけられたチェスターの体が崩れ落ちていくそれの方が大きい音だった。

「ふん……」

 興味を失ったようにブローカーが漏らし、射撃競技の選手のように片手で突き出していたその拳銃をゆっくりと降ろす。

 どうやら驚いているのは俺たち三人だけのようだ。ブローカーが銃を降ろしたのと同時にそれぞれが持つM4とUMPを降ろした少年兵たちには一切の動揺は見られない。

 そのうちの一人がブローカーに近寄って何かを耳打ちするが、流石にその声までは拾う事は出来なかった。


「……そうか」

 何かの報告だったのだろう。それを受けたブローカーはそれだけ返し、それからすぐに指示を待っていると思しき彼らの方へと踵を返す。

「よし、奥へ進もう。死体はこのままでいい」

 その号令一下、彼を中心にして奥=俺たちの進行方向へと進んでいく一団。

 連中の姿が見えなくなってから10秒。二人に見えるように手でカウントしてから彼らの消えた方向に目をやると、ちょうど一番奥の壁面に設けられた観音開きの扉が開き、中に彼らを呑み込むところだった。


「あれは……?」

 その向こう側に何があるのかはここからでは分からない。十分な広さの通路のようなものが更に奥へと伸びているが、その先がどこに通じているのかは分からない。

 そして彼らの目的もまた、一切手がかりを残さないうちに、全員が通路に進んだタイミングで扉はぴったりと閉じられた。


「行ったか……あっ」

 と、同じものを見て安全だと判断したのだろう、エルウィン氏が一気に駆け出す。その行き先は言うまでもない。

「チェスター!同志チェスター!!」

 誰かに聞こえるという心配もお構いなしの声が響く。

「クソッ!」

 慌てて後を追い、彼と彼が呼びかける死体を囲むようにして辺りを警戒するが、幸い周囲に敵影はなく、奥に見える扉もぴたりと閉じたきり開く気配はない。


「ああ……同志……」

 大声を警戒する必要はもう無いようだった。

 エルウィン氏は死体のそばに両膝をついて、素人目に見ても既に手遅れと分かるその男の亡骸の、新たに穴の開いた顔を覗き込んでいた。

 気の毒ではある。だが、生憎俺たちの意識はそちらにばかり向けていられない。


「連中、一体何が目的だ?」

 陰謀論者のコミュニティーに接触し、それどころかスピットファイアや野良モグラにも金を握らせて三層への侵入方法を探っていた。

 ただの廃墟探索ではないという事は、発見した男を恐らく用済みとなって始末したことからも明らかだった。

 加えてあの少年兵たち。どういう関係かは分からないがブローカーに従っている彼らが何者なのかも分からないままだ。


「さっきの会話。録音は?」

 扉の方に意識を向けながら尋ねる。

 どうやら扉以外にも、その手前の柱にはここに降りてきた時と同様の階段が設けられていて、また二層に戻れるようだ。

 と、そこまで確認したところで返事が無い事に気付く。

「……おい」

「……ッ!?えっ、あっ、ごめん!なに?」

 らしくない反応。

 少なくとも俺の知る限り、エリカが現場でぼうっとしていたのは今回が初めてだ。

 何かを考えている――というよりも、ひどいショックを受けて心ここにあらずといった有様で、呼びかけられたことで自分がそういう状態にいたことにやっと気づいたようだった。


「……大丈夫か?」

「あっ、うん。ごめん。もう大丈夫」

「さっきの会話だけど――」

 と、そこで質問の内容に頭が追い付いたようだ。

「それは大丈夫。集音と一緒に録音していたから」

「なら、いいんだが……」

 一瞬間を置く。

 それと同時にその一瞬で己の中で議論が交わされる。

「さっきの連中に、何か思い当たる事でも?」

 その一瞬の末に出した答え。流石に見て見ぬふりには無理がある。


 他人の過去をあまり嗅ぎまわるべきではない――自分がされて嫌な事は他人にもしないと考えてはいるが、それでも、かつて同じ逆さフクロウのパッチを付けた同じような少年兵たちを見かけた時の反応と併せて、彼女が連中の事=商店街や都市モグラが歓迎していないブローカーにつき従っている連中について何か知っているのは明白だ。

 となれば、身の安全の為にも確認しておく必要はある。


「えっと……そうだね……」

 どちらともとれるそんな言葉を、普段のハキハキした彼女とは別人のようにぼそぼそと呟く。

 その視線は俺から離れて地面に落ち、その言葉と共に「知っているけどどこまで話していいのか分からない」と、この上なく雄弁に物語っていた。

「昔ちょっと……。あ、でも!」

 言葉にしながらどういう方向で行くのかを決めた――そうはっきり分かるぐらい、後付けに元のテンションに戻る。

「今は彼等の味方じゃない。その……信じてもらえるかは分からないけど、でも……とりあえず今は信じて」


 それが真実なのか、はぐらかしたのかは、今の俺には分からない。

 だが今ここでこいつを信じないという選択は出来ない。

 後で改めて、エルマさんや社長にも話す必要はあるかもしれないが、とりあえずそれが出来るようになるまでは――そしてそれが出来た後でもそうする必要があれば――俺はこいつを信じるだろう。


「ああ、分かった」

「……ありがとう。それと、ごめん」

「構わない――」

 頭を切り替える。一応の決着はついたことにして。

「誰にだって秘密はある」

 俺だって話せない秘密があるのだ。

 本当はこの世界の人間ではないという、とんでもなくどでかい秘密が。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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