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土竜・オブ・ザ・シティ  作者: 九木圭人
目覚めし者の夢
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目覚めし者の夢29

 支給されたスマートフォンの集音機能はここでも役にたった。

 喧嘩――というよりもチェスターという男がブローカーに食ってかかっている音声がしっかりとインカム内に響く。

 その声は、争点がただのいざこざであるとか、単に小競り合いであると言った様子ではないことを表している。


「こいつはどういう事か納得のいく説明をしろ!!これは貴様の差し金か!!?」

 今にも掴みかからんばかりのチェスター。

 対してブローカーは余裕を崩さず、いきり立つ相手に薄ら笑いを浮かべるだけ。

 直感:挑発している。


「何の話だ?君こそどういう事か説明してくれないかな?」

 その目的は不明だが、奴は必要以上に余裕を見せている――相手の言葉を真似てからかうような態度までとって。

 そしてその望み通りだったのだろうか、激昂したチェスターの両手が、ブローカーがスーツの上から羽織った薄汚れたトレンチコートに掴みかかる。


「しらばっくれるな!俺たちのキャンプを警備部隊が襲撃している!!」

「ほう、それは一大事だな。こんなところに居ていいのか?」

「貴様ッ!!」

 チェスターの右手が振り上げられ、しかしすんでのところで自制が働いたのだと、その振り上げられた軌道をゆっくりと逆に降りていく拳が語っている。

「……貴様が情報を売ったのか?俺たちのキャンプを奴らに――」

「ひどい言いがかりだな。これでも私は君たちのスポンサーのはずだがね」

 インカムに聞こえたその言葉に、俺は反射的にエルウィン氏の方に目をやった。

 続いてエリカが彼に見せている画面。字幕は俺の耳に聞こえた言葉を正確に表示している。


「初耳だ。だが……同志チェスターはキャンプの補給責任者で、独自のルートを通じて格安で食料や薬品を調達していた。まさか……」

 内緒話のような小さな声。しかし俺の耳にはしっかりと、インカムから聞こえる怒号と同じように聞こえている。

 作戦前にエルマさんが突き止めたローダーたちの画像。確かに大規模な輸送だった。レジスタンスの詳細な規模は不明だが、商店街からの買い付けと、ローダーを雇用してのその商品の輸送を定期的に行うとなれば構成員の金銭的負担は尋常なものではないはずだ。

 彼らがそんな状況でこの集団を維持し続けたのはそういうからくりがあったのか。


 だが、だとしたらブローカー側に何の利点があると言うのだろうか――その疑問は、浮かぶと同時に当の本人の声でインカムに流れてきた。

「私はスポンサーとして、君たちの貢献には十分感謝している。君たちのお陰でこうして、散々骨折りさせられた三層への入口を確保したのだからね。流石にここを根城にしているだけはある。野良モグラやスピットファイアのような連中にまで金を渡して探らせていたが、やはり部外者とゴロツキでは話にならなくてね」

 今度は俺とエリカが目を合わせた。

 目的が何かは分からないが、奴は三層の入口を探していて、チェスターはそれを探すのと引き換えに奴の金銭的支援を引き出していたようだ。


 と、同時に思い出す。商店街でのカプシス氏の依頼を受けた時の事だ。

 俺たちはスピットファイアの拠点に潜入した際、連中が外部から支援を受けているのを発見した。それが具体的に誰からの支援かまでは分からなかったが、奴の話が本当ならそれで説明ができる。

「スピットファイアだと?お前は――」

 その名はチェスターも聞き覚えがあったようだ。尋ね返すその声に、ブローカーは平然と応じる。

「いやはや、あいつらに関わったのはとんだ失敗だったよ。せっかく連中のメンバーの何人かの保釈金まで用意してやったというのに、探していた他の野良モグラと殺し合うわ、言う事を聞かずに三層は三層でも環境調整区域で私的な用事にかかずらう始末だ。組織の壊滅に合わせて関与した痕跡を抹消したからいいようなものの、とんだ無駄になってしまった。そこに来て、君のこの大発見だ!まったく、持つべきものは優秀なビジネスパートナーだよ」


 嬉しそうに笑うブローカー。

 言葉を失うという表現をそのまま表情にした顔でその姿を見ているエルウィン氏。

 彼らにとってスピットファイアがどういう組織だったのかは分からない。だがその反応を見る限り、自分たちとは異なる――そして恐らくは侮蔑の対象だった――組織だという認識があったのだろう。

 その驚き方はエルウィン氏のみのものではなかった。

 ブローカーと向かい合っているチェスターもまた、先程まで振り上げていた拳を、今は地面に垂直にだらりと垂らしている。


「貴様……一体……」

 同時に掴んでいた手からも力が抜ける。

 得体の知れない怪物――目の前の相手がそうとでも映っているのだろうか、チェスターの声はどことなく震えている。

「「「ッ!?」」」

 ブローカーの背後から不意に聞こえてきた足音に俺たちが反応した時、当のブローカー本人もまた、そちらに振り向いていた。

「そんな……!?」

 そして、今度驚きに声を発し、ギリギリのところでそれを押し殺して最低限のボリュームに抑えたのはエリカだった。


 現れたのは、彼女と同年代ぐらいと思われる数名の少年兵。

 俺たちと同じような装備に身を固めた彼等は、全員が滑るような動きで柱の間から現れ、ブローカーとチェスターを囲むように各々の銃口を向ける。

 彼等のプレートキャリアの胸の辺りに一様に並んでいるのは、第八環境調整区域、そしてスピットファイアの拠点で遭遇した連中と同じ逆さフクロウのパッチ。


「な、なんだ!?お前達――」

 事態の飲み込めないチェスターを振り返りながらブローカーは告げる――それまでと打って変わった冷酷な声で。

「君たちの考えている者ではない」

 奴がスーツの上着の下から引き抜いたサイレンサー付きのハンドガンをその答えと共に相手に突きつけると、ほとんど同時にくぐもった銃声が耳に届いた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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