目覚めし者の夢26
「来やがったか……」
その姿に漏らした声に、相方のそれが被さる。
「隠れて!」
幸いと言うべきか、レジスタンスたちはバリケードに張り付いて迎撃する気でいる。
余りにも無謀。だが、今はこちらの事で手いっぱいだ。
俺たちはすぐ近くの柱に身を隠す。
「同志アンバニ!こっちに――」
エルウィン氏が途中まで口にした呼びかけは、乾いた砲声と、前進する装甲化外骨格の頭上を通過していく砲弾が遮った。
「わっ!!?」
「なっ、なんだ!?」
「落ち着け!落ち着くんだ!!ただのスモークだ!!」
突然視界全てが煙幕に覆われて一度は浮足立ったレジスタンスたちを、アンバニが一喝する。
流石に彼らの中で一目置かれる存在であるだけはある。彼のその一言で、水を打ったようにレジスタンスたちは静まった。
――そこまでで良かった。だが、その一目置かれる号令者は、その後の指示を致命的に誤った。
「怯むな!煙幕の向こうを撃て!!」
叫ぶなり、手本を示すように彼のライフルが口火を切った。
当然、周りの者達が示す反応は決まっていた。
――そしてそれを見て、その後の流れが目に浮かんでいた俺たちの反応もまた、決まっている。
「やめろ!撃つな!!」
「撃たないで!すぐに逃げて!!」
彼等は俺たちが逃げるまでの間目を引き付けてくれた。勿論それはこちらの勝手な見立てだが、それ故に俺たちにはそれだけで十分だ。
我々は手いっぱいだ。だから自分で気付いて逃げてほしい。どんな馬鹿でも目の前でむざむざと殺されるのを望む者はいない。
だが、煙幕に向かって唸り続ける銃声はそんな俺たちの声を簡単にかき消していく。
「な、なんだ……」
「あれだけ撃たれて……」
そして、煙幕の切れ目から現れた装甲化外骨格は、そうした抵抗さえも一瞬で蹴散らしていく。
「ッ!!!」
頭を引っ込め、身を縮こませる。
連中の後方にいた一体、バイポッドをフォアグリップ代わりにしてMGを構えたその個体が、金切り声を上げる得物でもって、目の前の抵抗者たちを一瞬で薙ぎ払っていった。
「くぅっ……!!」
自分が身を隠しているコンクリート製の柱が、発泡スチロールのように削られていくのが背中越しでも分かる。辺りに着弾した銃弾が床だろうが壁だろうがバリケードだろうが打ち砕いていくのを見ていれば。
この時間にして僅か2~3秒程度の掃射だけで、残っているレジスタンスなど半分もいなくなってしまっていた。
射撃の為に自らの安全を忘れて全身を晒している者がほとんどだった彼らは、決して信じたくなかっただろう現実=自らの銃弾が迫りくる敵にかすり傷さえ負わせることが出来ないというそれを前に、呆然と立ち尽くしてしまっていた。
「クソッタレが……!!」
その中にあってほぼ唯一闘志を失っていなかったアンバニは、突然俺のすぐ近くに置かれていたビールケースに飛びついた。
と、そこで俺も我に返る。掃射は既に止んでいる。
進行方向を目視。数台の車と一定間隔に並んでいる柱以外にここから先に遮蔽物はない。
結論:今を逃せばチャンスは永遠に来ない。
「行け!走れ!!」
号令と同時=エルウィン氏とエリカが走り出すのと、火炎瓶を一つ引き抜いたアンバニが、その口に突っ込んだウエスに着火するのと。
「ッ!」
咄嗟に俺も一つ失敬してから相方たちを追う。
もし追いつかれた場合、こちらの手の中にある武器で連中の装甲に対抗できそうなのはこれしかない。
「がっ――」
と、瓶を引き抜いた瞬間、アンバニの体が後ろに勢いよく吹き飛んでいったのが見えた。
火のついたビール瓶が、それまで彼のいた辺りに落ちて、そして――口のウエスから着火した。
「ッ!!」
爆発的に火炎が広がっていく。その周囲に、走るように。
「クソッ!」
毒づいて走り出す。この後の展開は容易に想像できる。
「ッ!!」
真後ろから地響きのような音。
そして背中に感じる熱。想像通りの展開=ビールケース内に一斉着火が起きているのだという事は振り返らずとも分かった。
「走れ!止まるな!!」
驚いて振り向いているエルウィン氏に叫び、彼のすぐ後ろまで追いつく。
地下駐車場の中央部を抜けた辺りだろうか、足がもつれそうになるエルウィン氏と、その上で彼を更に走らせようとした俺のすぐ横で、放置されたセダンがバシ、バシと音を立てた。
「クソッ!来やがった!!」
エルウィン氏の背中を押して先に行かせ、同時にその向こうで先導しているエリカに叫ぶ。
「そのまま突っ切れ!!」
「どうする気!?」
セダンのボンネットに隠れた俺に彼女が叫ぶ。
だが、本当の意味は疑問ではない。
そしてその本当の意味さえ、彼女は内心で否定している。
つまり、お前正気か?という呼びかけと、誰かが足止めしなければこちらに気付いて追いかけてくる一体の装甲化外骨格は止められないという事実。
「ッ!!」
更に辺りに金属に穴の開く嫌な音が響き渡る。
奴の持つオートマチックショットガンが、そこに込められた12ゲージのバックショットが、シカの代わりとばかりに俺たちを狙っている。
この距離で遮蔽物があればまず致命傷にはならない――恐らく、それすら知り尽くして威嚇のために発射している。
実際、連中の本当の戦い方はよりシンプルな形。即ち左腕に装備した、ほぼ全身を隠せるそのバリスティックシールドと全身に纏った装甲で敵の反撃を無効化しつつ必中の距離まで近づいて、一発で仕留めるというやり方だと言う事は、こちらに迫る一体の後ろ、その迫りくる装甲を照らし出している炎の中で、レジスタンスたちを一方的に殺戮している連中を見れば明らかだった。
「……ッ」
つまり、奴をもう少し引き付けられるという事。
そしてその時が、唯一の反撃のチャンスだ。
奴の装甲が全く耐熱性や難燃性を備えていないなんてことは考えにくいが、それでも炎は多少の足止めは可能なはずだ。
「ッ!!」
不意に、数発の銃弾が俺の頭上を越えて奴のバリスティックシールドを叩いた。
その射線の根元=扉の前に到着したエリカが、迫って来る装甲化外骨格の頭を狙って正確に撃ち込んでいる。
「よし……!」
多分、俺は相方に恵まれているのだと思う。
彼女はよく気が付くし、それを分かる形で教えてくれる。
「行け!」
タバコは吸わないが、道具として持ち歩いていた使い捨てライターを取り出すと、火の灯ったウエスによって辺りを赤々と照らしている手の中の瓶を、ボーリングのように転がした――銃撃に対する反射的な対応なのか、装甲に任せずバリスティックシールドを持ち上げた=膝から下が盾の範囲から外れている装甲化外骨格の足元に向かって。
「ッ!」
そして即座にプライマリーを向け、ウエスの炎を目印にして一発。
「よしっ!」
即座に体を起こして、助けてくれたパートナーの方へと走り出す。
足元で爆ぜた火炎瓶によって炎に包まれた装甲化外骨格が、反撃に転じる事もなく後退していくのを視界の隅で確認しながら。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




