「第七幕︰再びミヤコへ」
バタバタしながらも久々の投稿です。
作中の時間経過とか容易に忘れるねコレ。
【廃屋の2階がまるごと消滅。原因解らず】
――――――やっちまった。
気紛れに開いたSNSのニューストピックス。そこへまずはじめに現れた活字たちが、忘れられれば忘れたかった記憶を無理くり頭に押し込んでくる。
「いやまぁ、こりゃマズいよな。どう考えてもな…」
ニュースになった、という事によって生じる問題はこの街に都市伝説を新たに生み出すだけに留まらない。
本堂家を初め、数多くのご近所魔術師にマークされている四条家は、その影の力についてもある程度はどんな能力かどうかは知れている。
つまり、昨夜コレをやったのが影使い、なおかつ四条家の誰かであり、もっと言えばその中でも最もアクティブな存在である四条智晴の仕業とみてほぼ間違いないといったレベルに魔術師側は把握している、というワケなのである。
魔術であれ影術であれ、あらゆる異能は神秘の流出をタブーとしている。加えて相手が俺たちを同じ魔術師の一派とみなしている以上、(普段は除け者にするくせに)彼らが総出でお咎めに来る事があってもおかしくない。
そんな訳で、普段は物静かなウチの爺さんにもこっぴどく叱られ、とぼとぼ学校へ向かった矢先のネットニュース。泣き面に蜂に刺された子が更にデカい蜂に刺されても足りないくらいの追い討ちと言っていい。
「ま、それもそうか。暫く夜は出れないかな…」
とはいえ、ここで歩みを止める訳にも行くまい。
今後は爺さんの目もかいくぐって、より穏便に街へ繰り出す必要がありそうだ――――。
「あ。」
「あっ。」
考え事を中断して頭を上げた途端、遠くの人物と目が合った。
本町薫。
最初の夜に残した、最も気がかりだった存在だ。
なるべく心配を押し殺し、いつも通りに声を掛ける。
「よ、薫。今日も早いな」
「お早う智晴。君こそ早いな、今日は部活か?」
「まぁな。でも三年ともなれば殆どお役御免な感じだけどな。そっちは?」
「はぁ、何を言い出すかと思えば……。生徒会に身を置き続けてる以上、私だけ忙しくない訳ないだろう。今でも色々と任されるの何のだ。山の如しだ。」
「あ…そっか、そもそも三年にもなって駆り出されてるってのがおかしいのか。生徒会長が板につきすぎるのも考えものだな、そりゃ。」
「そうさ。というか、私はもう正式には会長ではないハズなんだがな…。」
うん。紛うことなきいつもの薫だ。
変わらずに会話が出来ているという事は、あの夜の事は殆ど覚えていないか忘れたかしたのだろう。
ならば、ヒントを与えるような事をわざわざするまでもない。そっと溜息を吐き出す。
「あー!そうだ思い出した!」
「えっ…?え、ぇええ!?」
「フッ、何を気遣って私に言わなかったのか知らないが、智晴…。」
「はい…。」
「お前たち…こっそり防衛軍を再興してたなーー!!」
やや強めにポカポカと叩かれる。
良かった。もっと核心を突かれたかと気が気でなかったが、やっぱり覚えてはいなさそうだ。
「な〜んか寺島がそわそわしてるから問い詰めてみたら、三成とも組んでるらしいじゃないか!完全に私をハブってるなと思ってからは結構ヘコんだんだぞ!」
「い、いや悪かったって…何だ、薫ってほら、生徒会にも呼び出されてるわけだし邪魔しちゃ悪いかなぁとか…」
「私の仕事は今の生徒会長に少しでも余裕を持ってふんぞり返って貰う為の手伝いみたいなモノなんだ。その気になれば休めるんだよ!全然!!」
アレ、なんか任されてる仕事とか言ってなかったか。
もしかして、本人は大御所OGの気持ちで通っているものの、実際は先生から後輩にまで可愛がられつつ言い様に使われてるっていう類の…いや、やめておこう。
「全く、私だってハラツカ防衛軍のメンバーなんだから…何かやるんだったら次からは私も混ぜるんだぞ!」
「…はぁ、わかった。次からはしっかり呼ぶよ。」
「ふふん。話が早くて助かるな!次はいつなんだ?」
「次は来週かな。水曜日。」
「よし、水曜日だな!絶対いく!」
ま、ホントは今日なんですが。
「うし。急で悪いが集まってくれてありがとな。」
「問題無い。問題は早急に解決するに限るからな。」
「おうよ。」
「おうよ!」
――――――――――「おうよ!」――――?
予定していた面子に加え、本日はふくれっ面の新メンバーが加わっている。
「おい!なんで今日なんだ智晴!聞いてないぞ!」
「おい、誰だ薫にバラしたのは?」
「スマン、俺だ。会話が噛み合わなくてバレた。」
苦笑しつつ挙手する一茶。
今日は突如バイトが休みになったのでミヤコへ行こうという話をしたのは、この二人以外にいない……筈だったのだ。
もしもの事にならない時間には当然帰るつもりだが、万が一を考えて薫は参加させない予定だった。
しかしここまで問い詰められては致し方無し。彼女も連れていくしかないだろう。
やむを得ず薫も連れ、何だかんだでかつての「ハラツカ防衛軍」のメンバー総出でミヤコへ行く事となった。
「…ふふふ。」
それが心底嬉しかったのかどうなのか、薫は終始嬉しそうな顔なんてしながら歩いていた。
ミヤコに入った事で、調査は大きく進展した。
街へと張られた巨大な結界。その片鱗と思われるものを目撃したという情報がここに来て数多く入ったのだ。
勿論こちらは俺だけでこっそり集めた情報ではあるが。
更に、目撃されたその分布と大きさを照らし合わせてみたところ、どうやら結界はその基幹部分をミヤコの上空へと配置しているようだ。
そのうえで三船島町までに及ぶ「パーツ」を散らばせ、魔力を中継する事で倉間市全域へと大きな結界を張っていた。想像以上の規模で魔術が行われている。
しかし、それだけの魔術を長い間展開しつづつけるというのは技術的にも魔力的にも困難を極めるし、何より目立ってしまう。
あの夜、突然力の禍をぱっと感じなくなったのも、園長先生とやらが特定の時間を経て「収集」を終えた合図だったのだ。次回はそこで隙が突けるとベストだが…。
「うーぃ、智晴ー!今日はもうイイんだろ?なんか食って帰ろーぜーー!」
「あっ……ああ。いいぞ、そうしよう!」
「智晴…?どうしたんだ、ボーっとして?」
さすがに何か勘づいたのか、後ろにいた幸樹が声をかけてくる。
「え、いや気にするな。ちょっと考え事。」
「そうか。ではサクッと一茶をなだめてやってくれ。」
「おう。…って、アイツどこ行った?」
さすがは思い立ったらすぐ行動がモットーの男。すぐ近くで話していたと思ったのに、煙も残さず消え去っている。
と、
「おいコラ!止めろって言ってんじゃんか!」
怒鳴るような一茶の声。
おいおい。
ミヤコまで来て喧嘩沙汰なんてゴメンだぞ…!?
「幸樹。」
「…はぁ。」
二人して溜息をつき、一茶の声がしたと思しきデパート内のフードコートへ小走りする。
そこには――――――。
「だから行かないと言ってるだろうに。いい加減に離してくれないかな。」
腕を引かれ、嫌悪感に満ちた表情の薫。
「急につっかかってきたと思ったら何なんだよお前は!離してくれって言ってんだろ!」
敵対心を向けながらもどこか腰の引けている一茶。
「ね〜ぇ〜、もう別にいんじゃね〜?コイツノリ悪いしさ〜ぁ。」
とりまきA。
「そぉだよ〜ぉ、ツッキーこの後も一緒にカラオケ行くって言ったじゃ〜ん。はやく行こ〜?」
とりまきB。
「いやいや全然分かってないな。この吸い込まれる程澄んだ瞳をみすみす見逃すなんて僕には……………げっ。」
おそらくもっと多くの女子へも振り撒いているであろう甘いマスクとキラースマイル。
を、俺の顔を見て一瞬で硬直させた本堂月乃がそこには居た。
「お前…何でここに。」
「そっ、そっちこそ…。あ、ああぇと、コイツは別に大した知り合いでも何でもなくてね…?」
すかさず仮面を付け直して応対する本堂。
だが、そんなフォローはどうでもいい。
「丁度良かった…おい、少しツラ貸せ。」
「フッ…まぁいいか。君の麗しい友達に免じて応じてあげない事も無い。」
その時、俺だけに見せたその顔は、既に昨夜のそれと変わらなかった。
「えぇ〜〜、ちょ、ツッキー!?」
「ゴメンね、カラオケはまた今度にしよう。日も暮れちゃうし、今日は僕に免じて先に帰ってもらえるかい?お願いだ。」
「うぅ〜ん…まぁ、ツッキーがそこまで言うなら…。」
「うん、帰ろっか。じゃあまた学校でね!」
「ああ、またね。」
とぼとぼと帰っていくとりまきJK達。
さて。俺の方はどうしたものか。
「すまない、少しこいつと話をしても良いかな。そんなに時間はかけないから。」
素直に待ってもらう他あるまい。この先何があるか分からないが、「大した事ない」結果に済ませて何とか一緒に帰るほうが最もナチュラルに済ませられる。
「ああ、別にいいぞ。幸樹、薫、そこのたい焼き食って待ってねぇ?」
「またカスタードじゃないだろうな。邪道だぞアレは。」
「んだよ薫。いーだろカスタードウマいぞ〜?」
「いやウマいとかは関係なくだな…」
先にパッパと切り替えてフードコートへ向かう二人。
「そういう訳だ。……あまり遅くなるなよ、智晴。」
「ああ、悪いな。」
彼なりに何かを察してくれたのか、幸樹がそっと耳打ちをしてから二人を追って消えた。
「……あれはあれで物わかりのいい奴らだな。何、アレどういう趣旨の取り巻き?」
「何って…お前の引っ提げてる低俗な繋がりとは違うよな。そりゃ。」
「……何か言ったか?影使い。」
「ああ言ったさ。詳しく聞きたきゃついてこいよ。」
無言で階段を登っていく。
デパートの屋上は駐車場が占めている。
無骨で車も殆ど停まっていない殺風景な空間へと辿り着いた。
夜の屋上に三度冷たい風が凪いだ後。
静かに、互いの殺意は最高潮へと達し、激突する。
書きだめしたいですね。なるべく…。




