24-王国脱出
仕事の都合が投稿が大幅に遅れたというか休止してました。
これからまだまだゴタゴタが続くので、また休止期間があるかもしれませんが、少しずつ投稿を再開したいと思っています。
また本来はこのあとは以前の話の修正作業を予定していましたが、タイミングがタイミングなので暫くは新しい話を投稿したいと思います。
「ケイト、旅に出る。仕度を頼むぞ」
屋敷に戻るなり、俺はケイトを見つけて言いつけた。
「東の大陸まで、ですね?」
「察しがいい。荷物は最低限度だ」
まさか獄中の魔族をさらって王都を脱出しながらいくとは夢にも思ってないだろうが、ここ数日のエルゲンの様子からその意図を察知していたようだ。
驚きも、動揺もなく、ケイトはごく自然に答えた。
「いつ出発なさいますか?」
「明後日だ」
時間は早ければ早いほどいい。
あいつらの処遇もどうなるかわからない、助けようとした矢先に処刑されても困る。
そのままケイトと出立の準備の詳細を話しあった。
馬の手配、衣類、地図、携帯食料、金銭、必要なものは多くあり、しかし半ば王都からの脱出に近いために、荷物を多くするわけにはいかない。
ケイトの知恵を存分に借りつつ、旅の計画を練る。
脱走の旅になるので、ここを出る手筈も、普通とは少々異なる。
細かい、そして不審な俺の要求を、ケイトはまったく咎める、それどころか疑問に思う様子もなく受け入れていた。
「かしこまりました。それと・・・旅はお一人で?」
「そうだな」
少し考える。同行者はどうするべきか。
正確には一人での旅ではなく、あの魔族共も一緒だ。ついでにいえば不快な頭の声もである。
とはいえ、こいつらを旅の仲間とカウントしていいのかは大きな疑問だ。
となればたしかに助力者はほしいが、そうなると――
「ギュンターはいけるか?」
「流石に、それは無理かと。ギュンター様の帰還は王国にとっても待ち焦がれていたもの、しばらくはここを離れられないでしょう」
ギュンターならば、実力、知識、権力、どれをとっても問題ない上に、奴の性からすれば魔族の逃亡にも気にしないだろうから、同行者としては申し分なかったのだが。
「エルゲン様、リジェンダさんやフィリアはどうでしょうか?」
「リジェンダは学業の途中ではなかったか?」
たしか彼女は騎士学校とやらに今だに通っているし、卒業まではあと数年は必要だったはずだ。
「はい、ですが彼女ならば休学をしてでもエルゲン様に同行するかと」
「まぁ、あれもあれでそれなりに優秀という話だ。一応本人に確認しておけ」
戦闘力は未だ俺には劣るだろうが、まがりかりにも学園に行っている以上は一般知識についてはエルゲンより上だろう。恐らくは。
「はい」
「次はフィリアだが・・・」
彼女は恐らく同行に問題はないだろう。だが問題は実力面だ。
今回はただの旅というわけではない、王国からの、いや下手すれば人類圏からの脱出となる。
彼女がいても足手まといになるだけではないか?
「たしかにフィリアは戦闘能力こそありません、ですが年齢の割りに知識は豊富です。特に国外の知識を持ってますし、きっとエルゲン様のお役に立つかと。それに旅では雑用も必要になりますから」
こいつは妙にフィリアを推してくるな。
この説得にはケイトには珍しく、力が篭っていた。
「そうだな、フィリアも同行させよう」
よくよく考えてみれば、足手まといならばその場で切り捨てればいいだけだ。
それから、旅や脱出に必要な準備を命令する。
基本的には買い物や馬の手配だ。
どうやら、リジェンダやフィリアは同行を了承したらしい。リジェンダにいたってはかなり気合が入っており。
「騎士学校での特訓の成果を、エルゲン様のために役立ててみせます!」
などと息巻いて迫ってきた。
一方のフィリアは、ここが住みやすい環境らしく、旅自体には乗り気ではないようだったが、俺に反逆するような意思は見えない。
ついでに二人にも魔族を脱獄させる事をいっておいた。場合によっては協力してもらうし、そうでなくても旅の途中でいつかはバレるだろう。ならば事はさっさと済ますに限る。
「えっ!?はい、それがエルゲン様のご意思なら」
リジェンダは驚いてはいたが、俺の意思に関してはイエスマンなので問題なかった。
「はい、わかりました」
一方のフィリアは特に動揺もなく受け入れた。
生まれの影響なのか。フィリアは、どうにも博愛主義的な思想をもっている。
それ故に、このこともすんなりと飲み込めたのだろうか。
「準備をどうするかはケイトに伝えてある。今から始めろ」
準備を命じて、俺はギュンターに適当に旅出を伝える。
ギュンターは「そうか」と、無関心ではない様子だが淡白に返してきた。
俺のほうも、準備をしなくてはな。
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日が一つたち。脱走までいよいよ明日となった。
旅の準備は順調すぎるほど順調だ。
アーガネルト以外の公爵御三家の子息連中、ようするにシェイルにザンにトワイラの面々がいる家も色々と旅の手配を手伝ったようだ。特にバドゥラン家が手配した名馬は脱走には役に立つだろう。
勝負は明日。とりあえず今できるのは休息をとるぐらいだ。
そんな時、リジェンダが訪れてきた。
その手には剣が握られている。いつも持っている細剣ではなく、グラディウスにも似た、刀身が短く肉厚な剣だった。
その材質は、翠魔金。
武器としての素材としては並、しかし魔力を蓄えることができる素材。
それはいつだったか、エルゲンが何気なく武器屋で選び、今も彼女が使っている細剣の素材でもある。
「エルゲン様」
「その剣はなんだ?」
とはいいつつ大方の予想はついている。
「明日からの旅に備えて、私からのプレゼントです」
「ふん、どうやって手に入れた?武器屋にはこんな武器はなかったはずだが」
王国の武器屋は主に王国剣術に適した、細く、長い剣を扱っている。
「実はしばらく前から注文してありまして・・・」
「それが今日届いたのか?」
「いえ!実は前々からあったんですが、タイミングが掴めなくて・・・」
届いたのならその日に渡してしまえばよかろうに。
「まぁ、受け取っておこう」
俺が使うのならば、翠魔金の武具は強力な性能を発揮する。
形状も申し分ない。旅の役には立つだろう。
「エルゲン様」
「なんだ?」
「今回は誘っていただいてありがとうございます」
何故感謝するのか。
そもそも、最初はリジェンダを誘うつもりはあまりなかったのだが。
リジェンダは妙な所も多い、今回もそれが発現しただけだろう。
「同行を許したからには役にたってみせろよ?」
「はいっ!」
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「あいつ、本当に来ると思う?」
「うん」
コユキとスズネが閉じ込められている牢は居心地はそこまで悪くない場所ではあったが、そうであっても暇は持て余す。
せっかく二人で一緒にいるので、その暇は会話によって潰していた。
その内容の多くはとりとめもないものであったが、エルゲンが来てからは彼についての話題が多かった。
「コユキは、あいつの事を信じてるのね」
「うん!」
無邪気に答えるコユキ。
スズネとコユキは、小さい頃から家族同然に過ごしてきた。
だからスズネには、コユキにこういった不思議な面があるのを承知している。そして経験則から言えば、コユキのこういった発言は結果的には正しい場面が多い。
スズネの精神状態が平静を保っているのならば、コユキを信じて、結果的にはエルゲンを信じていたかもしれない。
だが、故郷を滅ぼされ、その相手である人間の一員を、彼女は感情的にどうしても信じる事はできずにいた、しかしそんな思いとは裏腹に――
「手筈は整った、さっさと出ろ」
牢の扉は開き、エルゲンが現れた。
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エルゲンの力を持ってすれば、彼女達を牢屋からだすこと自体は用意だった。
方法としては頭が低いあの王を使ったり、ギュンターを利用した権力でどうにかする方法と、強引に魔法や潜入能力で突破する方法があった。
しかしエルゲンとしては、ここで完全にベイス王国との縁をきってしまうつもりはない。
よって、犯人がほぼ確実に判明する前者の方法はとらず、魔法を使用しての脱獄を選んだ。
方法としてはごく単純で、仕掛けられた魔法的、物理的なトラップを排除してから地下を掘り進み、城壁、正確には床をぶち抜いただけだ。
元の世界であったら、穴を音を立てないで掘り進むのには相応の労力が必要だが、魔法が使えるならば問題はない。ただし王国側もそれを見越しているのか、途中でいくつものトラップがあったが。
とにかく、無事に二人を連れ出し、現時刻は昼まっさかりだ。
「昼・・・?」
幽閉されている故に時間感覚がずれていたのか、スズネは不思議そうにつぶやく。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「黙ってついてこい」
スズネは怪訝な顔をするが、エルゲンは構わず進んでいく。
脱出計画が昼に行われる事に疑問を持っているのだろう。
たしかに、夜逃げという単語があるとおりに、昼より夜に逃走するのが一般的だろう。
しかしエルゲンはその辺りはしっかり考えていた。何も無策に昼という時間を選んだわけではない。
道をはずれた人気の無い場所へ移動していく。
しばらくして現れたのは人影・・・フィリアだ。
スズネは人影に驚いたようだが、これも無視。
「とりあえず貴様達には着替えてもらう。そのままでは目立つからな」
俺は言い放って目を背ける。
こんな小娘にデリカシーがどうこうもないだろうが、それをぎゃあぎゃあ喚かれて計画に支障が出ては困る。
「こんにちは。私はエルゲン様の従者でフィリアといいます。以後よろしくお願いしますね」
「よろしくね、フィリアちゃん」
「・・・よろしく」
見ためどおりの人懐こい性格なのか。コユキのほうは友好的に挨拶をする。一方でスズネの心中はやはり複雑な様子だ。
「それではお召し物を替えさせていただきますね。私もお手伝いします」
主にスズネが、もう少し抵抗する可能性もエルゲンは考えていたが、すんなりと二人は着替えに移る。その手際も悪くない。多少は現状を理解できる程度の脳みそはあるようだ。
エルゲン自身も普段の服装ではない。ローブのようなものに身をつつみ、フードで顔を隠している。
今回の作戦は基本的に変装しての王都脱出だ。夜にこそこそするよりも、素性を隠して人ごみにまぎれたほうが有効だとエルゲンは考えていた。
スズネやコユキはさらし者のごとく、勇者の凱旋の馬車の一つに捕らわれていた。しかし何かの配慮か、頭の声によってそれに注目していたエルゲンさえも、その容姿を詳細にそこで見てとることはできなかった。
あの時のメインイベントはギュンターと勇者。一般人はその馬車に目もくれてないだろうから、スズネとコユキを判別するのは不可能だ。
よってエルゲン以外は軽い変装で十分に一般の市民を装うことができる。エルゲンはさすがに立場上、それなりの者が顔を知っているために、念のために不自然にならないぎりぎりのスタイルで顔を隠していた。
ちなみにリジェンダがいないが、彼女は外門で馬の用意をしながら俺達をまっている手筈になっている。場合によっては切羽詰った状態で外にでる必要がある時のためだ。
「エルゲン様、準備ができました」
フィリアはさっさと荷物をまとめて言った。
コユキもスズネも、和装から王国では一般的な服装に変わっている。
スズネは角を隠すために帽子もつけて、人間以外の何者にも見えない。
「よし、ついてこい。通行人にまぎれるぞ」
エルゲンは三人を先導して歩く。
現在地の道のはずれから一般路に戻り、それから大通りへ。
さすがに王都の昼の大通りだけあって人通りは多い。
もちろん、避けることもなく、普通の住民として、リジェンダが待つであろう外門へ進む。
以前にも一度通ったことがある道であり、迷う事もなかった。
何事もなく・・・。
このまま進んでいく。
(まずいぞ)
突然にして久々の脳内の声だ。その声は緊迫している。
そしてそのわけをエルゲンはすぐに察知していた。
「走れ」
「ちょ、ちょっと」
詳細は説明されていないながらも、スズネはエルゲンの意図を理解はしていた。
すなわち自分達はただの通行人として、このまま王都にでると。
だからこそ、そのエルゲンの行動にとまどった。
「はい」
「スズネちゃん、早く」
フィリアはさすがに多少は驚いた様子であったが、エルゲンには従順だ。
普段はその常識的な思考から、エルゲンに反抗的と言われる彼女も、本質的にエルゲンには忠誠を誓っている。なんだかんだで、エルゲンは彼女の命の恩人なのだ。
一方でコユキはエルゲンに従うどころか、積極的に走っている。彼女もエルゲンや、その脳内の声と同様に気づいたのだろうか。
「どういうこと?」
こごえでスズネがエルゲンに問う。
それに簡潔にエルゲンは返す。
「既に見つかっている。振り向くなよ」
その言葉にスズネは息を飲んだ。
その後は文句もなく走る、走る。
しかしそう時間がたたないうちに、その追っ手はおいついた。
恐るべき身体能力で、背後から跳躍、俺達前に立つと振り向きざまに剣を向ける。
(ちっ。よりにもよってこいつか)
俺達の前に現れた一人の追っ手。
最も優れた勇者と呼ばれる青年。アレクだった。
呼応してエルゲンも剣を抜く。さすがに通行人もざわめいている。
「俺が足止めする。走り抜けろ」
スズネにそっとみみうちする。スズネのほうもそれを了承したようで、コユキやフィリアに伝える。
フードを隠した俺と、立ちふさがる勇者。
さすがに5歳の俺と、青年の勇者では相当な体格さだ。
勇者は特別体格が優れているわけではないにしろ、俺は相当の不利を負っている。
抜いたのは、翠魔金の剣ではなく、王国の一般的な剣。
これも身元をさぐらせないための措置だ。
「おとなしく、投降してくれ。そうすれば、彼女達以外は見逃そう」
その彼女達というのはスズネとコユキだろう。
しかし甘い男だ。
声をだすとバレる可能性があったため、エルゲンは無言で剣を構え、そのまま斬りつけられる動作に移行する。
さすがにアレクも戦闘の意思を感じとったのだろう。彼もそのまま構えに入り――
交差。アレクの剣とエルゲンの剣がぶつかり・・・はじかれたのはアレクの剣だった。
彼の名誉のために言っておくと。本来の彼であれば、エルゲンの剣ごと、その体を真っ二つにするだけの膂力を持っている。
なのにエルゲンがこうしてアレクの剣を弾いたのは、精神の動揺と、それによる手加減の失敗だ。
先の一件でわかるように、アレクはコユキとスズネを嫌悪しているわけではない。むしろこんな少女が捕らわれて、と同情的な感想を抱いている。それこそ場合によってはエルゲンの代わりに彼が彼女達を連れて脱走していたかもしれないほどに。それでも王国が彼女らを管理しており、脱走を見て見ぬふりはできずにここまで来たものの、いざ対面してみればその念は強く表れてしまった。
そして相対したのがエルゲンというのも悪かった。彼は顔こそ隠しているものの、それでも人間の子供というのは外目にわかっていた。善良な精神をもっているアレクは、どうしても彼を真っ二つにする選択肢はとれない。当然、手加減が必要なのだが、アレクは子供と本気の、それこそ命の取り合いになるような勝負をしたことはない。彼の前にいたのは、いつだって恐るべき力をもった魔族なのだ。そして彼自身も大きすぎる力を持っているのもまた手加減を失敗させる要因であった。
他にもいくつか精神的な動揺を引き起こしている要因もあり・・・
そうしたもろもろが重なって彼は失敗した。今の彼の剣は真実の子供にも押し返される軟弱な剣だ。
とにかく、実際に子供に相応な手加減以上の手加減をしてしまったうえに、相手は一般の子供はるかに凌駕しているエルゲンだ。魔活によって強化された力は、兵士にも勝るとも劣らない。さらにエルゲン本人も知覚していないが、脳内の声もエルゲンに助力を行っていた。これによる強化も含めれば熟練の剣士程度の一撃にはなっているのだ。
剣と力の実力差は裏返った。完璧な形でエルゲンはアレクの剣を弾き飛ばす。もちろん、その隙を逃すエルゲンではない。追撃の素早い横なぎがアレクに直撃し、胴を深々を切り裂いく。明らかな致命傷。
ここでコユキとスズネ、そしてフィリアが戦闘の脇を抜けて走り去っていく。
有利な状況。だが、エルゲンは内心で結果に僅かな驚きを抱いていた。
(手ごたえが浅い!?)
アレクは手加減をしていても、エルゲンがアレクに手加減をする理由など一切ない。
エルゲンはアレクの胴をそれこそ真っ二つにするつもりだった。
ところが結果は致命傷。それにエルゲンは危機感を感じた。
直後、とんでくるのは文字通りの鉄拳。とっさに剣でガードしたエルゲンの、その剣を見事に叩き折る。続いてエルゲンを殴りつけるものの、エルゲンはそれを難なくよけ、カウンターを決める。
元々焼き付け刃の剣技より、エルゲンは殴るほうが得意だ。そして勇者は格闘戦はほとんど経験していない。ここで、双方の得意分野の入れ替わりによって技量の優秀さがエルゲンに大きく傾く。
もちろん膂力と体格の差は以前として圧倒的。しかしアレクはここまでやられて、なお手加減をしている。エルゲンが万が一にでも死なないようにと。
甘ちゃんめ。エルゲンは内心軽蔑しつつ、殴る。殴る。殴る。
その拳にももちろん手加減のての字すらない。全て相手を殺すつもりで打ち込んでいるし、実際にその拳はアレクの鼻骨を、肋骨を、顎骨を砕いている。
「ッチ」
(まずい!)
エルゲンは舌打ちをすると。先に逃げたスズネ達を追う形でアレクから逃亡した。
この戦い、圧されている。
即座にそう判断したからだ。
アレクは即座にエルゲンを追う。
最初につけられた剣による致命傷は、そのほとんどが回復していた。
(あいっかわらず馬鹿げた回復力と腕力だ。おまけに格闘戦に対応してきてやがる!)
理由は脳内の声が語った通り。
いくら殴ろうとも、あいつは回復する。魔術をつかった気配はない。アレクの中に宿っている不明瞭な力が活性化しているわけではないことも、エルゲンにはなんとなくわかる。
つまり自然治癒力なのか。そうであればあいつはとんでもない生物だ。少なくとも軽く人間を超えている。
これ以上の戦闘は無意味。逃げるに限る。
しかしアレクは走る速度も人間を超えている。だがエルゲンには次の策があった。
ここは王都。昼の大通り。例え戦闘によって逃げる者が発生して、なお通行人は山ほどいる。その中から魔力が低く、抵抗されにくい個体を選び・・・
魔法で捕らえ。打ち出す!
速度の負荷、Gで気絶するほどのスピードでうちだした一般人が、しかし目標はわずかにずれ、アレクとはややズレた方向に飛ぶ。
「・・・・!!」
アレクは弾かれたように、急停止、そのまま横へとびつつ一般人を受け止める。
エルゲンが狙ったとおりの行動を起こしたアレクは、大きく距離をあけられる。
これが昼に移動した理由の一つ。
そしてまだまだ通行人は多くいる。避けることは簡単だ。だがそうすれば通行人は大怪我を追い、最悪死ぬ。アレクはそれを見過ごす事はできない。
魔活で体を極限まで強化して走り、多くの人間を次々に打ち出す。
やがてエルゲンはアレクを振り切って逃走することに成功した。
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「・・・エ・・・。ご無事でしたか」
走っているフィリア達に追いつくと、フィリアが一瞬名前を呼びそうになるが、すんでのところで気づいたようだ。
続いてスズネがこちらに問いかける。
「勇者は?」
「一応撒いた。すぐ追いつくぞ」
一度は撒いたが、元々あいつは、恐らくは逃走してしばらく時間が空いてからこちらを嗅ぎつけるほどの、なんらかの嗅覚をもっていた。
これで一安心などとは言えない。
何か、あと一手必要だ。
「フィリア。お前の旅の同行は取り消しだ」
フィリアは神妙な顔でエルゲンを見る。
「此処で死ね。なんとしてでもあいつを足止めしろ」
「・・・っ」
短く、フィリアは息を飲む。
そして・・・
「かしこまりました」
頷く。
「アンタ!」
「だめだよ!エル君」
(おいちょっと!てめえ!)
コユキとスズネ、とついでに脳内の声が即座に抗議の声を上げる。
「いえ、構いません。もとよりこの命はエルゲン様に与えられたものです。エルゲン様のために死ねるのならば本望です」
本人自ら、二人の講義を抑える。
リジェンダならばともかく、フィリアには断られる可能性もあると思っていたが・・・
「ここで俺や貴様達が残るわけにもいかんだろう。十分な足止めができるか、不安ではあるが現状ではこれが最善だ」
これ以外にはないという事はない。例えば、エルゲンが先日の魔物を倒した魔法を使えば、いかに勇者といえどミンチ以下になるのは避けられないはずだ。
だが、それをやれば一発で俺の仕業だとわかる。フィリアの命よりは、今の俺の立場のほうが有用だ。
フィリアの荷物は、既にスズネに渡されていた。俺がいない間にいかなるやり取りがあったのは不明だが、都合はいい。
「いくぞ」
もっとも、最悪の場合はそれをやらなければならない可能性もある。そこはフィリア次第だ。
フィリアはその場に残り。
エルゲンは再び先導する形で走り。
コユキとスズネも後ろ髪はひかれつつ走る。一番足が遅いフィリアも居なくなったことで、逃走するスピードも上がっていた。
そして驚くことにそれ以降、勇者の気配はピタリと止まった。フィリアがよほど上手くやったのか?元を言えば最初から生かそうとするつもりは無かったとはいえ、こうなると少々損をしたかもしれない。反抗的なただの使用人見習いだと思っていたが。
外門近くまで走ると、8頭の馬を用意していたリジェンダいた。あっちのこちらに気づいているようだ。
「フィリアさんは?」
近くまでいくと小声で聞いていた。
「今回は同行しないことになった。お前が馬を4頭牽け」
「・・・はい!」
若干、心配げな表情を見せたが、すぐにその顔は押し殺して同意した。
4人でさっさと準備をすます。もともとこういう事態も見越してリジェンダを置いていただけあって、1分もかからず準備は終わり、外門から8頭の馬が飛び出す。
こうして、波乱の中でエルゲン達の旅は始まった。
これで2章は終了です




