23-黒と白と
王からの許可証を携えて特別牢へ行く。特別牢は王城内に存在するため、距離は近い。
見張りは許可証と光の勇者を見ると、すんなりとアレクとエルゲンを通した。
特別牢は一般的な牢とは違い、特殊な事情を持つもの、例えば他国の貴族だったり、将軍であったり、そうした者を収容する牢だ。
ここ最近王国は平和であったため、特別牢にはほとんどが空でありその一つに少女達が居るのみ。
一つの牢に、二人共入っているのは彼女達の希望によるものらしい。
幸いなことに、この牢は比較的小奇麗であり、鉄格子等で区切られているわけではなく、しっかりと壁と扉、そして食事を受け渡すための小窓がある。
牢というよりは現代的な舎房に近いだろう。
アレクは見張りから渡されていた鍵を使ってから、扉をノックする。そのまま扉に入って面会になるのだが、少々セキュリティに問題があるのではないか?
それを含めての許可証だったのかもしれない。
「はい、どうぞ」
以外にも返事はあった。
エルゲンとアレクは牢の中に入る。
中には二人の少女、エルゲンは一度は馬車にいた彼女達を確認していたが、その時は窓は小さく、よくは見えなかった。
そして改めてみた彼女達にほんのわずかに驚く。
一人は純白の、長い髪をもっていた少女だ。二人の少女は、そのどちらもリジェンダと同年代の少女に見える。ここまでは特に何もおかしな点はない。
もう一人の少女は、黒髪。前髪は所謂ぱっつんであり、長く伸ばした髪を後ろでまとめている。そして二人の少女は、そのどちらも和装、着物を着ていた。
特に黒髪の少女はその顔立ちも含めて完全に日本人に見える。その頭についた二つの角さえなければだが。
一方の少女は、その純白の肌と純白の髪はおよそ日本人らしくはないものの、外見的には人間と異なることはないただの少女だ。
これが、魔族なのか。
「何のようよ」
不機嫌を隠そうともしないのは黒髪のほうだ。
すぐさま、白髪の子はそれをとめる。
「だめだよ、スズネちゃん」
ま、既に捕まっている以上、反抗的な態度よりは従順を演じるほうが得策だろう。
(この子達は・・・・・・アヤカシと・・・・・・なんだ?)
脳内の声がいうアヤカシとは、恐らく黒い髪のほうだろう。日本人的な勘もあるが、白いほうは普通ではない。脳内の声がわからないというのも無理がない。
エルゲンも少し前に仲間入りしたが、勇者には精霊の力を得ているらしく、魔力が普通とは異なって見える。端的にいえば異物があるような感じだ。
白い髪の子の魔力、それは異物そのものだった。勇者達の中にある異様な感覚、それそのものが白い子だった。
「その、調子はどうかな」
エルゲンが思考している間に、アレクが切り出す。
「いいわけないでしょ!」
一気に激昂する黒髪。それはそうだ、エルゲンにも今のは挑発か何かかと思えてしまった。
アレクの様子を見るにそういうわけではないのはわかるが。
「ごめん・・・・・・ごめん」
「謝るぐらいなら、最初から何もしなければいいのよ!」
アレクは俯く。
黒髪が言うことは尤も。
魔王の討伐自体その理由はあやふやだ、そんなもので戦争をおこされ、仲間を殺され、捕らえられて、それで謝られたって怒りしか浮かんでこないだろう。
「こんな・・・こんな奴にお父様とお母様は・・・・・・!」
つぶった目から涙がこぼれだす。
それもしかたない、エルゲンから見てもアレクはふざけているようにしか見えない。その表情を除いては。
「さて、茶番はそろそろおしまいにしてもらうか」
「あんたは・・・・・・」
黒髪の少女の視線は、アレクに向けられたものに比べれば多少は和らいでいる。
外見のせいだろう。俺の容姿は5歳児でるし、周囲の人物曰くかわいらしい、ときている。
「お前は魔族の中ではアヤカシと呼ばれる存在、間違ってはいないか?」
「そうよ」
別段、隠すようなことでもないのか、正直に答える。
「その服、白い髪の服もそうだが、それはアヤカシの特有の服なのか?」
「・・・・・・そうね」
黒髪の顔に浮かんでいるの表情は疑問。
突然、まるで世間話でもしているかのような内容に、その意図が見出せないのだろう。
「料理はこの王国のものや、他の魔族と違いがあるか?」
「ええ、たしかにアヤカシの料理は少し特殊ね」
「ふむ、しかしお前が捕らわれの身であるということはアヤカシは壊滅したのか?」
「!・・・・・・、そうよ。あんた達のせいでね」
「ッチ」
思わず舌打ちする。
エルゲンは、アヤカシというものの文化が、日本じみているのを偶然とは思っていない。
何故アヤカシの服は和服とにているのか、王国ではそんなものはないのに。
それは謎だ、だから解き明かしたいと思う性がある。しかしアヤカシが壊滅してしまった以上は、それも難しいだろう。
それに彼女達を救出する作戦にも影響する。アヤカシが壊滅しているのなら、そこに彼女達を預けることはできない。別の魔族達が受け入れてくれればよいのだが。
「話題を変えるぞ、そちらの白い髪。お前は何者だ?アヤカシではあるまい」
後半は半分はったりだ。もしかしたら他にはない性質をもつアヤカシという線もなくはないのだから。
「うん、私は妖精だよ。雪の妖精」
「妖精・・・・・・精霊とは違うのか?」
「君の言っている精霊と私が知っている精霊が違うかもしれないけど、私はたしかに精霊に近い存在だよ」
「もしや、魔族ではないのか?」
「そうだね、私は違うよ。でもスズネちゃんの家族だよ」
「そういうのはいい」
どうせ種族は違ってもそう過ごしたとか、そういう事を言いたいのだろう。
「私はコユキ、貴方は?」
唐突に名前を聞いてきた、なんなんだこいつは?
「エルゲンだ」
隠す気はないので教えておく。
「エル君、だね。よろしく」
にっこりと。笑顔でそう言う。
なんだこいつは、かつてないほど馴れ馴れしい。
「どういうつもりよ、コユキ」
「エル君は、悪い子じゃない。と思うよ」
これが人を見る目がないという奴か。
さて、そろそろあの話を切り出したいところだが、アレクが邪魔だな。
「おい、貴様」
「あっ、なんだい、エルゲン君」
「お前はこれ以上聞きたい事はないのか?」
「僕は・・・・・・うん、ないよ」
「ならばさっさと出て行ってもらおうか。貴様が居ると進む話も進まなくてな」
実際はそうでもない。
追い払うための方便だ。
「ごめん、それじゃ鍵。終わったらちゃんとかけるんだよ」
「わかっている」
思いの他あっさりと勇者はひいた。
危険だとか、何か言われると予想していたが、まぁ楽になるのならば問題はない。
勇者が牢を出たあと、魔力を使って近くに潜んでいないかを調べる・・・・・・ふむ、特に扉の近くで待機というわけでもないようだ。
「これで本題に移れる。貴様ら、ここを出るつもりがあるのならば俺が手引きしてやる」
二人の少女は一瞬だけ驚き、黒髪の少女はそれから馬鹿にしたような表情をする。
「あんたみたいな子供に、何ができるっていうのよ。っていうか怪しすぎるわよ」
さすがに怪しまれるか。
(おい、貴様。こいつを信用させる方法は何かないのか?)
エルゲンは自分にだけ聞こえるような小声で言う。もちろん対象は謎の声だ。
(いやーさっきから考えてたんだけど、ないわ)
(ゴミが)
(ドストレートに罵倒された!?)
「スズネちゃん、エル君なら、きっと大丈夫だよ」
「はぁ、あんたは何を根拠にしてるのよ」
「勘かな」
「勘ってねぇ」
「どうせ貴様らは底辺にいるのだ。今更状況が悪くなるのを恐れるなど愚の骨頂だろう?少しでもチャンスがあるならば是が非でも掴み取るのが当然だ。それとも、ここの居心地が気にいったのか?」
「誰が!」
「スズネちゃん・・・・・・」
コユキは上目使いで黒い髪の少女を見る。
「うっ。わかったわよ・・・・・・それで、どうやって抜け出すの?」
「それは俺に任せておけば万事、心配はない」
「ふん、たいした自信ね」
「問題はそれ以降だ。俺はお前たちを東の大陸まで送るつもりだ」
黒髪は目を丸くする。
「なんであんたはそこまでするのよ」
「どうせ、そこまでしなければお前らは生き残れまい。それとも城さえ抜け出せば戻れる算段でもあるのか?」
「そりゃ、そうだけど」
「ああ、今回の話だが、当然、見返りはもらう」
(おいおい!見返りなら俺がやるって話だろう!)
「お前、コユキとかいったか」
「うん、何?エル君」
「貴様が妖精というのならば、精霊のように俺に力を貸すことはできるか?」
「う~ん。精霊みたいにはいかないけど、ちょっとだけなら貸せる、かも。ごめんね、やったことがないからよくわからないんだ」
「まぁいい。貴様が俺に協力を誓うことが条件だ」
「うん、わかったよ」
あっさりと、コユキは頷いてしまった。
「ちょっと!どうしてコユキがそんなことを――」
「無事に送るためにも、力の出し惜しみをすべきではないからな」
「大丈夫、スズネちゃん。私なら大丈夫だから」
「コユキ・・・・・・」
笑顔のコユキと、対照的に不安げな黒髪。
エルゲンは心の中で舌打ちをした。コユキとかいう妖精の存在がよくわからないのだ。
なんでこいつは、そう、最初からこいつは不安も不満もないような、そんな顔をしている。そしてこんな状況下で、事あるごとに笑顔になるのだ。
その笑顔には何も含むものがないような、純粋なものだからこそエルゲンは理解できない。
こいつは住んでいる場所を滅ぼされ、そしてまともとはいえ牢にぶち込まれているのだ、それでニコニコしているなんて普通ではない。
妖精というものは、そういうものだろうか?
エルゲンは、コユキに喉に小骨がつっかえるような、嫌な不安を感じていた。
だが、そんなもので止るわけにはいかない。頭の片隅で警戒しながらエルゲンは話を進める。
「いいか、まずこの王都から出るまでの計画だ。しっかり頭に叩きこめ」
エルゲンは、王都の脱出計画を話しはじめた。




