22-捕虜へ
(ふぅーううう)
「先ほどは随分おとなしかったじゃないか」
(いやーあいつは只者じゃないからな。慎重にもなるってもんよ。というかあっさり俺の事言いやがったな!)
「手札として、貴様を消し払う手段の一つぐらい手に入れておくべきだろう」
にやりと笑みを浮かべるエルゲン。
(うひっ、おっかな!)
「それより先ほどの話の続きだが」
(そうだよそうだよ、男なら女の子を助けるのは当たり前だろ。さっさと救出しちゃおうぜ!)
「阿呆か貴様」
助けるつもりなどないし、もしあったとしても今すぐに突貫というのは頭の悪いやり方だ。
「見返り次第だ、何かあるのだろう?」
(そこはほら、俺には未来予知ができるから――)
「たまたまあの女共が捕虜になっていることを知っていただけだろうが」
(ギクゥ!な、何故それを)
確証はなかったが断定的に言っただけ。所謂ブラフだ。
「ともかく、貴様が何か俺に利益を提示しなければ救出をする気はないな」
(わかったわかった。真面目に言えば、まぁ魔力かな。エルゲン君って魔法の威力は強いけど、魔力の総量ってあくまでそこそこレベルだろ?ギュンターにも負けてるみたいだしな)
一応エルゲンの魔力は、規格外の龍位の次である天位の等級であり、相当に多いはずだ。
が、この霊体に言わせればあくまでそこそこらしい。
「魔力を譲渡できるというのか?」
(たぶんな、ためしてみるぜ)
脳内の声が言ってからすぐ、身体に魔力が満たさせれる感覚がする。
体感だが、普段の2倍も、3倍も、下手するとそれ以上の魔力が身体に蓄えられている。
しかし直後に、その感覚は消失した。
(ほら、できたろ)
「一時的なものなのか?」
(そうだな、ずっとってのはちょっと根性いりそうだ。それは成功報酬ってことで)
「だが、貴様がそれを素直に渡すとは・・・・・・いやそのときはあの女達を殺せばいいだけか」
(さらっと酷いこと言わないで!?ま、まぁ他にも知識とかさ、色々あるから役に立つぜ。俺)
「いいだろう、あの女達は助けてやる」
エルゲンは乗り気になった。それだけ報酬が彼にとって良いものだったのだ。
謎の声が言うとおり、エルゲンは導力は非常に高い。異常なほどであったが魔力はそうではない。
たしかに高いが、指摘どおりにギュンターにも負けている。
そして一般的に魔力と導力、どちらが重要かというと魔力だ。
魔力があれば何度も魔法が使えるのは当然として、それが魔法の技術の習得を早めることになる。
さらにいえば過剰な導力など必要な場面はほとんど存在しない。あの”空の偵察者”でさえ、もっと弱い威力でも倒せたかもしれないのだ。
単純な力押しでは最強というメリットはあるものの、それだけで魔法を制することは不可能なのだ。
「で、実際に救出するプランを考えなければなるまい」
(それはパパっと行ってパパっ連れ去って――)
「その後のことだ」
勇者の存在という不確定要素を除けば、連れ出すことは難しくはないだろう。
問題は連れ出したあとだ。さすがに屋敷で匿うのは無理がある。
「連れ出した後、どうすればいい?魔王討伐の捕虜ってことは十中八九、魔族のはずだ。匿うことはできんぞ」
(ん~~~。そうだな~~ほら、そのまま東の大陸まで行けばいいんじゃね?)
「ほう、そんなに気軽にいける距離なのか?」
嫌味ったらしく言う。
(うん、難しいな)
「俺も東の大陸への移動は考えなかったわけではない。だがリスクが測れん」
エルゲンは移動の危険さも、他国の情勢も、魔族がどれほど忌避されているかもわからない。
よってそれらを考慮して計算すべき、旅のリスクも当然ながら不明だ。
それに・・・・・・
「聞くしかないか」
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(あはひ、美人メイドさんじゃないですか!)
「東の大陸への旅・・・・・・ですか?」
エルゲンはすぐにケイトをつかまえ、そのまま旅のリスクについて聞いた。
「そうだ、俺とリジェンダだけで、東の大陸まで行くことを想定した場合、どうだ?」
「そうですね、西の大陸の東の端、特殊国家ヴァーティまでならばそう難しくはないと思われます」
この世界には元いた世界にあるような、厳重な入国審査はない。
もちろん検問はいくつかあり、そこで荷を調べられるような事はあるが、それぐらいだ。
だから、まともな移動手段さえあれば旅をするのはそこまで手間ではないらしい。
「それでも野宿などは猛獣に教われる危険がありますし、盗賊が襲ってくる可能性もあります。しかし馬車等を使えば一日で別の町村に移動できますし、盗賊ならばエルゲン様やリジェンダ様の敵ではないでしょう」
「時間は、どれぐらいかかる?馬車を使う前提だ」
「そうですね、トラブルがなければヴァーティまで2ヶ月といったところでしょう」
「わかった。仕事に戻れ」
「はい、わかりました」
ケイトは恭しく一礼をしてから仕事を再開し、エルゲンは外出の準備のために移動する。
(これは以外と楽勝そうっすね。さぁさぁ救出の準備をしましょ!)
「馬鹿が、一番重要な情報が不足している。東の大陸がどう占拠されているかだ」
他にも仕入れたい情報はあるが一番はこれだ。
(んんん?)
あの捕虜は、首都であり、王である魔王が討伐されたからこそ捕らえられたのだ。
となれば東の大陸は敗残国であり、西の大陸のいずれかの軍勢が占拠行動を起こしているはずだ。 その度合い自体では、この計画そのものが実行不可能であるし、逆に有利になる可能性もある。
と、エルゲンは考えていたのだが。
(占拠っていうか、あいつら魔王倒した全部が西の大陸に戻っちまったぞ?)
「何だと?・・・・・・既に魔族は全部倒されたのか?」
(いや、んなわけないだろ。エルゲン君は馬鹿だなぁー)
取引を終えたら八つ裂きにしてやる。
「どういうことだ、殲滅も、占拠もせずに魔王を倒しただけで、帰還だと?それでは魔族はまた力を蓄えるだけだ」
(ん、たしかになぁ。今頃あいつらは復興とか、新しい魔王選びとかしてんじゃねえか?)
「それでは、魔王の討伐に何の意味があるというのだ」
魔族が獣か何かだとすれば話もまだわかる。だが人間と同じような知性体だ。
ほうっておけは戦力を増強するだけ、一刻も早く占拠するか殲滅しなければ同じことが繰り返される。
そうなれば魔王を倒したって何の成果もないに等しい。
ギュンターや、あの王はそれすらも気づけなかったのか?もしくはそれに気づいた上で?
「きな臭い話だな」
まだまだ情報を集める必要がある。次は・・・・・・
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「どうぞ、エルゲン様」
兵士に案内され、王城のある一室の扉をくぐる。
「よくきたな、エルゲン」
「こんにちは、エルゲン君」
(うひょひ!あつぁ!)
執務室にいた一人はキングレオン王、こいつに会いにきたのでいるのは当然、しかしもう一人は予期していない人物だ。
中性的な優男は先の魔王の討伐者の帰還の際にギュンターの隣にいた人物、勇者だった。
「エルゲン、こちらは勇者アレクだ。勇者の中でも最も優れた男だよ」
「そんなことありませんよ。僕に力をくれている精霊のおかげです・・・・・・初めまして、僕はアレク、君のことはギュンター様から聞いているよ、とてつもない魔法の才をもっていて、頭脳も天才、そいて――」
もったいぶってから笑顔で言う。
「性格が最低に悪い」
「何故貴様がいる」
「ふふふ、ギュンターさんの言っていたことは本当だね。顔はこんなにかわいらしいのに」
「ちょうどアレク殿がワシを訪れていてな、せっかくなので許可をえてお前にも入ってもらったのだ」
口調は違うのはアレクがいるからだろう。
それでもエルゲンを待たせたくないからアレクがいる最中、入室を許可したのだろう。
「都合はいい、か。貴様ら、何故魔王を討伐した?」
途端、アレクとキングレオンの表情がに影がさす。
問題がある話題だったのか、それともキングレオンとアレクの両者がいるために避けたい話題なのか。
どちらにせよエルゲンには関係はない。
「何故とは?人族の脅威たる魔族の王を――ゴホン!」
エルゲンのそんな事は聞いていないという視線を察することができたのか、王は咳払いをしてから言い直す。
「何か、気になることがあったのだな?」
「魔王を倒したのならば東の大陸をそのまま制圧するか、魔族を皆殺しにしてしまえばよかった、いやそうしなければならない。なのにこの勇者や兵士共はすぐ帰ったのだろう?それはどういうことだ」
「・・・・・・」
キングレオンは押し黙り、何かを考えている、いやこれは決断をしようとしている。
変わりにエルゲンに質問に答えたのはアレクだ。
「魔王はね、魔族や魔物を人族へと放ち、戦いを生んでいるだ。だから・・・・・・でも」
(やれやれ、だな)
アレクが口ごもったのは、それが正確にはエルゲンへの回答になっていないことを察したのだろうか。そんな理由があったとしても東の大陸を占拠しない理由にはならない。
それとも、別に理由があるのか。
「エルゲン君。一月ほど前に魔物が王都を襲ったんだってね」
「その通りだ。それが?」
「その時には既に魔王を討伐して、ここにくる最中だったんだ」
「何が言いたい?」
「本当に、魔王が・・・・・・。東の大陸を攻めて、魔王を倒すのはただしかったんだろうか・・・・・・」
(少なくても魔王は他の魔族も、魔物もけしかけてねえぞ、ってか魔物はこっちでも手を焼いていたんだぜ)
「俺が聞いた限りでは、魔王は別に魔族や魔物を差し向けているわけではないようだな」
「それは・・・・・・君は、それは誰から?」
アレクは驚いたような顔をする。
「貴様が知る必要はない。逆に、貴様は魔王の情報をどこから得たのだ」
自分の事は話さず、その上で相手の情報先を聞く不遜すぎる態度だが、人がいいのかアレクは素直に答える。
「それは・・・・・・教国の、法王様から・・・・・・」
教国、既に何度か話題にでているが。帝国やこの王国とならぶ巨大な国家の一つだ。
「もしや魔王討伐の指揮をとっていたのは教国か?」
「細かな指揮は勇者達がとっていたらしいが、勇者や各国に此度の遠征をよびかけ戦力を要請し、作戦を計画したのは教国だ」
「なるほど、きな臭いことだ。王国も全く無関係ではないようだが」
キングレオンがピクリと震える。
王国もギュンターや兵士を送った以上、共犯なのは確定だろうに。
「今は、東の大陸に人はいないのだな?」
「何かの理由で個人的に渡っているような者がいないとは限らないが、組織だって駐屯している集団はないはずだ。アレク殿、これは正しいですかな?」
「はい、僕もそう認識しています」
「それなら構わん。これで用事は一つは済んだ。王、あの捕虜達はいまどうしている?」
「それは、今は特別牢に入れているが」
「生きているなら会わせろ」
「お、王様。僕も面会を望みます」
「ああ、それはよいが」
エルゲンをちらっ、ちらっと見ている。
「一緒で構わん」
その言葉を聞いて、王は筆と紙をとった。




