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悪党転生  作者: えこーと
2 東旅編
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25-東へ

 エルゲンは座って、パチパチと燃える焚き火を見つめいた。

 王国から馬が出たあとは今の所――といってもあれからまだ数日しか経っていないのだが――順調だった。

 今はとある森で野宿をしている最中である。

 本来、馬にのっていれば1日以内に別の町や村に移動可能だ。よって王国内の旅であれば、野宿は必要ない。それでもエルゲン達が野宿しているのは、少しでも早く王国から離れるためだ。

 同行している三人は既に眠っている。

 交代で見張りといった行動は、睡眠時間が延びてしまう可能性があるために行っていない。野獣や野盗の対策はトラップを使っている。よって本来エルゲンも寝る時間だ。

 しかし、多少落ち着いた今だからこそ、やりたいことがあった。


「そろそろ約束を果たしてもらおうか」


(気が早くない!?まだまだ全っ然、東の大陸についてないじゃん!)


 それは脳内の声との交渉だ。

 先日の一件。フィリアの事には脳内の声もそれなりに腹を立てていた。

 しかし割り切るタイプなのか、一日経った頃には声はいつもの感じでエルゲンに対応していた。


「アレを見た以上。いつまでも悠長にしている暇もないからな」


 アレというのは勇者の事だ。あの時は実質的にはこちらが目的を果たして勝利しているし、エルゲンの立場上は大きな魔法が使えないという不利があった。しかし立場や地形的な不利で言えば相手も同じ、いやアレクのほうが大きな枷になっていただろう。

 アレクがそういったしがらみを捨て、本気になった場合、どの程度の力を発揮するのか全くの未知数だ。とはいえエルゲンの本心はそれにたいして危機感というほどのものは抱いていない。


(大丈夫、大丈夫、その時はちゃんと魔力は渡してやるから)


「信用ならん」


(そんなぁ~。ま、いいけどさ、ただ時間がかかるぜ。それに魔力を渡しきったら、俺の意識もなくなっちまうだろうからな)


「そうか。それはどうでもいいが、お前は勇者について何か知っている風だったが」


(どうでもよくないよ!?だが勇者については俺もお前に教えないといけないと思っていた所だ)


 脳内の声が真剣味をおびる。


(ええと、前にあの男と話した感じだと勇者についてはあまりしらないよな?)


 あの男とは恐らくギュンターのことだろう。


「ああ、精霊とやらの力を持っている事と、28人いることぐらい。そして俺はなんとなく勇者の異質な力を感じることができる。これぐらいだ」


 脱出時にいち早く勇者の追跡に気づいたのもこのおかげだ。エルゲンは魔力の感知はそれなりに優れている。しかし魔力の感知といっても様々な制約がある。だが勇者の異質な力はエルゲンにはとても感知しやすく感じた。


(そうだ。じゃあ今回は詳しく勇者について説明しておくか。主に能力についてな。まず王国にいたあの5人あれが勇者の中でも最強のグループと言われている。んでその5人の勇者はそれぞれ光の勇者、炎の勇者、水の勇者、土の勇者、風の勇者と呼ばれていた。アレクは光の勇者だな。俺はこの5人の能力なら知っている)


 何故知っているのか、この脳内の声には謎が多かった。


(まず光だが、こいつの能力は馬鹿力と再生能力、あと身体の頑丈さだな。特に、膂力がやばい。本気をだしたあいつは素手で城壁だってぶち壊すぞ。あいつの本領はその力にまかせたガン攻めだ。ド級の攻撃を何度も、連打して相手を防戦に追い込み、その防御ごと粉砕する戦法ともいえない暴力。これが奴の真骨頂だな)


 単純な身体能力の向上。

 シンプルだけにやっかいな力だ。

 根本的な身体能力が5歳の子供でしかないエルゲンと相性の悪さもある。


(次に炎。こいつは弓使い。弓に炎をまとわせてくるんだが、その火力が半端ない。ただ魔法的な力だからエルゲンには対処しやすいか?んで土は重戦士。こいつは防御力重視、それから土の壁をだしてきたり、嫌らしい戦いをしてくるな。だが攻撃面ではそうでもない。水は魔術師タイプ。水とか氷とかを色々打ち出してきたり、あとは分身とかか、結構トリッキーに戦うタイプだし、これもお前とは相性いいだろ?それからスピードの風。こいつは軽い装備を着込んだタイプの戦士で短剣で戦ったり投擲してきたりする。一発一発の威力はないが、こいつはスピードがかなりある。一人で全方位からナイフを飛ばしてきたりするしな)


「あの勇者に比べれば、割合、対処が楽そうな連中に聞こえるな」


(事実そうではあるだろうが、余裕そうだな)


「当然だ。どんな奴が相手であろうと、戦えば俺が負ける事はない」


 実力で勝っていることと、勝負で勝つことは別だ。

 あの勇者、アレクはたしかにエルゲンを上回る実力をもっているのかもしれない、だがとにかく勝負に弱い。次に遭えば負けるのはあいつだ。


 そもそもエルゲンは、アレクを面倒に思っているが、深刻に存在を危惧しているわけではない。本当にアレクを恐れているのならば、最初に刃を交えたあの時に、空の魔物を撃墜したものと同じ魔法を叩き込んでいた。間違いなく周囲に被害はでるが、そんなことはエルゲンが知った事ではない。

 それをしなかったのは、つまりそこまでするほどでもない相手と認識しているからに他ならない。

 結果としてフィリアを失ってしまったが、これももはや説明する必要はないだろう。エルゲンにとってフィリアとはその程度の存在だったという事だ。

 現在急いでいるのも、別に勇者に追いつかれないためではない。いや、もちろん追いつかれないことに越したことはないが。


(ふっふっふ、随分頼もしいじゃないか。よっ!大将!)


 声の軽口を無視してエルゲンは情報の開示を催促する。


「他には?」


(ああ、えっとだな。あいつらのバックには教国がついてる)


「だろうな」


 勇者を集めて、魔王を討伐した一団。

 その最高責任者が教国の時点で想像はつくことだ。


(それから。残りの23人の勇者はあの5人よりは弱いはずだ。ただあいつらに比べて甘さってのがない。頭がいっちゃてる系の奴もいるぞ)


 実力と勝負は別。

 だからこそ、実はアレクより勇者がいました!といった事も起こりえるだろう。


「奴らの力の源、精霊というのは知っているのか?」


(ああ、知ってるぜ)


 ちょいと長くなるが。と前置きして脳内の声は語りだす。

 非常に簡潔にそれをまとめるのならば、なんかよくわからんが人族に力を貸してくれる不可視の存在、らしい。

 また精霊ごとにくれる力には種類があり、それが例えばアレクの超身体能力であったり、炎の力であったり氷の力らしい。

 その力の大きさもさることながら、魔術的にも科学的にも不可能と思えるような事象を引き起こす、本人がたいした動作をせずとも発動する、最悪、本人が自覚せずとも精霊の力を発現させることもあるというやっかいな能力をもっている。

 また精霊は意思を持ち、基本的に自身が選んだ人族にのみこの力を与えるらしい。前述の本人が自覚せずに力を使う場合があるのもこのためとか。


「精霊自体を殺す方法はないのか?」


(えげつないこと考えるなお前・・・俺が知る限りではないな。魔法も食らわないってか、見えないだけじゃなくて現実に実体が存在するかもわからないし・・・。ただ別に精霊を宿している奴が死んでも、精霊に致命的な影響がないのはたしかだ)


「それはまた、勇者などより精霊のほうがよほどやっかいな手合いではないのか?」


(イヤー・・・まぁ、それ以前に普通は精霊を殺すって発想がでないもんだがな)


 どうしてないのだろうか。この世界の人間特有の感覚なのかもしれないと、エルゲンは深く考えない。


「話がそれだけなら俺は寝るぞ。くれぐれも、約束を違えたら・・・俺が間抜けだったという他ないが、その時は地の果てまで追い詰めてから嬲り殺しにしてやる」


(いやいやいや、本当にそろそろ俺を信じてくれよぉ~)


 念を押してくるエルゲンに、声は情けない声を返した。


--------------------


 それからさらに数日進み。エルゲン達は大きな都市の前にやってきた。

 立派な外壁に包まれたその都市は、さる伯爵に統治されている、王国内の町のひとつだ。

 それまで野宿の連続だったが、今回はここで一泊する手筈になっている。

 これは行き当たりばったりで決めたことではなく、当初から計画のうちに入っていた事だった。

 目的は三つ、一つはここまでの旅の疲れを少しでも癒すためだ。今回のエルゲン達の旅程は強行軍もいいところで、替え馬を用意して長時間を走り、少しでも速度を稼いでいた。結果として、馬も、人もバテていい頃合だった。ただし実際のところ、エルゲン達はほとんど疲弊していない。馬も同様だ。別に旅の途中に疲れを癒す何かがあったわけではない。単純に全員に体力があっただけだ。馬もさすがは武家肌のバドゥラン家が用意しただけはあったようで、ここまで体調を悪くしている馬はない。

 二つ目は、改めて旅の準備をするためだ。今回の旅はスピードを稼ぐために荷物を最低限にしてあった。そして多少は王都から離れたここで、改めて消耗品の補充と、必要な物品を調達する算段になっている。

 最後の目的は情報収集だ。 エルゲンは、王国の追っ手に(そもそも出されているかわからないが)追いつかれないように最速を目指して進んでいた。この世界には遠距離通信の手段もないから、スズネやコユキの脱走の情報すらここには入っていないはずだ。

 だが、しかしだ。まだこの世界をエルゲンは4年しか経験していない。そしてつい先日に、脳内の声や勇者の力といった、未だ未知の体験をしたばかりである。

 ありえない、と決め付けられるほどこの世界にエルゲンは詳しくない。だからこそ”もしも”を考える。もしかしたら、エルゲンが脱走を手引きしていることすら認識していて、なんらかの情報共有手段でそれが王国全土に回っている。そんな事があるかもしれない。

 ようするに確認だ。結局は情報共有などまだできていない可能性が高いし、それが分かればそれだけで収穫だ。 


 というわけでエルゲン達は検門をくぐり、町へ入った。

 ちなみにこの世界、少なくとも王国はさほど厳しい検問はしていない。せいぜい指名手配人がまざっていないか、禁制品を持ち込んでいないか。犯罪的思考をしている人物が入らないか。簡単にチェックするだけだ。

 エルゲン達は荷物も少ないし。貴族紋も所持しているために身元もはっきりしているため、あっさりと検門を突破している。


 町に入ったエルゲン達が馬を預け、最初に向かったのは両替商だ。金貨も大量に持ちあるていればかさばる。これが問題になるのは何もエルゲン達に限った話ではない。例えば行商、例えば特定の住居を持たない放浪者。よってそれを簡単に持ち運びできるためのシステムと商店の発達は必然と言ってもいいだろう。

 エルゲン達は旅の資金を小切手という形で所持していた。これがまた色々と便利だが、細かい話は省略する。とにかく、両替商に向かったエルゲン達は、それなり・・・もっともこのそれなりというのは公爵家としてのそれなりであって、一般人からすれば相当な額の資金を手に入れた。

 ここまで街を歩いた感じ、それなりに人の賑わいと商店はある。旅の準備に事欠くことはない。


「お前達はこれで必要なものを用意と、宿の手配をしろ」


 そうしていざ買い物、という時になってエルゲンはそう切り出した。


「エルゲン様はどちらに?」


「情報収集をする。待ち合わせは場所はここ、時間は夕刻5時だ」


「私もついていったほうがよろしいのでは・・・・・・」


 リジェンダはエルゲンの騎士だ。

 なるべくならばエルゲンと共にいて護衛をしたいと思っているのだが。


「いや、お前はあいつらと一緒にいろ。さすがにあれを二人で残すのは心もとない」


 エルゲンとしては自分の身より、魔族の二人――正確には一人は妖精だが――のほうがよほど危なく感じていた。というより他を守る必要がない分一人のほうが気が楽だ。


「誰が心もとないよ」


 スズネは怒っている様子はないが、若干拗ねているようだ。


「エル君は私達を心配してくれてるんだよ」


 そういうわけではない、と反射的に反そうとしてエルゲンはとどまる。

 そんな問答に意味はない。やっても無駄になるのが目に見えている。

 エルゲンはそのまま無言で去って行った。

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