18-下町
17話、本来は描写すべきものがすっぱり抜けてます。(中断した式、事後処理など)
多々ある誤字脱字、誤表現等を王国偏終了と同時に直す予定なので、その時に追加する予定になっています(あまりに致命的なものはいくつか修正したものもありますが)
「こ、こちらが、大通り南広場に、なります?」
「見苦しいぞ、もう少し落ち着いて案内しろ。あとどうして疑問系なのだ」
やはりおどおどと町案内をするヴォイドにエルゲンは呆れる。
「ぼ、ボクはあまり下に来たことはな、ないから」
こいつが小さな子供ならまだ可愛げもあるのだが、リジェンダよりは年上、13程度の年齢に見える。
さすがにそろそろそういうのも卒業する年齢であろう。
「フィリア。貴様は?」
「いえ、私も下町のほうはよく知りません」
「期待は全くしてないがお前は?」
「申し訳ありません、わたしもわかりかねます」
予想通りに、レイナは起伏の乏しい表情で答える。
当然だがエルゲンも下町には詳しくない。
ここで言う下町とは王城周辺の貴族街や上流街を抜いた王国の都市部。
つまり一般的な人々が住む地区だ。
王都は王城が地形的に高い区画にあり、そこから貴族街、上流街、そして下町へと向かって地形的に下っていく。よって下町、簡単な話だ。
エルゲン達は、トワイラのアドバイスでフィリア、ヴォイド、レイアを連れて4人で下町の散策をしている。
もちろん目的もなくこうしているわけではない。
トワイラ曰く、王位の継承を穏便に進めるには、有力候補達が親交を深めるのが最善だということだ。
王位になど興味がない俺たちは特に回避不可能な火種があるわけではない。親交を深める事ができるといわれればできる。
だが、その効果には疑問を感じた。しかしどうもこうした試みは先代の王位継承者達、つまりは俺の親の世代であるキングレオンやギュンター達もこうした事をやっており、それにより円滑な王位継承ができたというらしい。
トワイラの言葉を脳内で反芻する。
「親交を深めるといったが、重要なのは本当に仲良くなることじゃく、あくまで親交を対外的にアピールすることだ。貴族連中がアーガネルトとグランバルトが親密だと思ってくれればそれでいい」
そうして今の状況につながっているわけだ。
二つの家の交流を示すため、ヴォイドを案内人として交際しているエルゲンとレイナが使用人であるフィリアを連れて街を巡る。そういう設定である。
下町にまで出てきているのは単純にこちらまでこないと一般的な店がないから、つまりごく一般的な行為であってあまり深くは考えていなかったのだが・・・・・・
(人選ミスだな)
エルゲンを含めた4人は、下町にほとんど行ったことがなかった。
目的はあくまでぶらつくことで深刻な問題ではないのだが、だからといって無為に時間を過ごしたくはない。
「まずは大通りに沿って外側に進むぞ」
しかたないので行動方針は自身が決めることにした、エルゲンとしてもこちらのほうが性にあっている。
しかし大通りを歩いていてもピンとくるような店や施設はない。他の3人も別段声をあげることもない。
エルゲン一行は、ひたすら外へ向かって歩いていく。
「で、何で貴様が一番最初にへばっている」
「ひ、ひぃ、ごめんなさい」
膝に手をつきゼェゼェと喘ぐヴォイド。歩いているだけだぞ。
というかフィリアはついこの間まで重病人で、レイナも箱入り王女らしく、忘れられているかもしれないがエルゲンは5歳児だ。
ヴォイドはどんなに低く見積もっても10歳は越した男子。のはずなのだがいくらなんでも虚弱すぎる。
「エルゲン様、ヴォイド様そうですがレイナ様も少しお疲れの様子。エルゲン様も疲労はあるでしょうし、あの店で休憩なされてはどうでしょう」
フィリアは主以外の人間を構う癖があるな。
「いや、このまま進む」
その答えにフィリアはすっとエルゲンによって耳元でささやく。
「エルゲン様、目的はお忘れではないでしょう?友好的な姿を見せるためにも・・・・・・」
「それはもうどうでもよい」
「どういうことですか?」
「改めて考えてみたが、反抗する貴族がいれば片っ端から殺してしまえばいいだろう。あの王のように立場を弁えていれば利用してやらんこともないが、反抗する奴にかける慈悲はない」
「でもヴォイド様にだって危険があるかも――」
「それがどうした、何で俺がこんな奴の安全を考えてやらねばならん。若干もやもやした感じがしていたが、それが晴れたような気がする。あんな愚図どもは真正面から潰してやればいいだけのことだったのだ」
エルゲンは今まで一緒にいた3人を置き去りにするかのように前に進み、振り返る。
「さて、せっかくだから俺は少しだけこのまま歩く。貴様らは休んでいようが、帰ろうがどちらでもかまわん」
エルゲンは一人で先に進む。
意外なことに三人ともついてきていた。一体どういう心理が働いたのだろうか。
いや、考えても、知っても仕方のないことだ。
目的のものは大通りを外側に進んでいけばいずれ見つかるはず。
それからはあまり無駄口も発しないまま進んだ。
----------
都外間運送の馬車御者は、つい先ほど10日にも渡る長旅を終えて素性のよくわからない二人組みを王都へ送った。そのまま次は王都から出発するために準備をしている。
馬を休ませ、飼料を与え、馬車を点検する。破損がないか、座席部分は汚れていないか。
そうしているうちに御者に声がかかった。
「聞きたいことがある」
口調がやたら不遜な、小さな子供の声だ。
「なんだい、坊ちゃん」
服装を見るに、どうも貴族の4人組み、いや貴族3人と使用人のようだった。
ここは丁寧に接する場面だろうが、御者はそういった教養はあまりない。
せいぜい坊主を坊ちゃんと言い換えれたぐらいだ。
だが子供――エルゲンに不満はないようだ。
「って、後ろの子が死にそうになってるんだが・・・・・・」
御者が指しているのは当然ヴォイドだった。ただし女子二人もやや疲れた顔をしている。
「俺は都内の辻馬車はやってない、がまぁ乗せるのは構わないぜ。金は取らせてもらうし、点検が終わってからだがな」
疲れきっている子供相手に御者も他に行けとは言えないかった。
そもそも王都内は走りなれており、こうした臨時の辻馬車の経験もある。
特に事情がなくてもあえて声をかけてきた人を断る気はない。
「そうではない。王都から外、東へ行くのには馬車が一番速いのか?」
「ん?いやそりゃ一般的にはそうだ。馬を自分で乗って走らせでもしないかぎりはな。帝国では魔法で走ってる乗り物を国が持ってるが、乗り合いのもん以外は一般人は乗れねえだろうな」
質問の意図がわからなかったが。とりあえず素直に答える。
エルゲンは多少考えるそぶりをしてから、立ち去ろうとする。
「エルゲン様。御用が済んだのならば、ここはご好意に甘えて馬車に乗せてもらってはいかがでしょう。お金はありますし」
「構わん。だがここらで食事でもとろうかと思っていたが」
フィリアはエルゲンに許可をとり、そのまま御者と話を進める。
「御者さん。それまでお待ちいただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、そのころには点検も終わってるだろう。でもあまり遅くなったらどっかいっちまうかもしれないぜ」
「あ、せっかくならばどこか良いお店はご存知でしょうか?私達、あまりこのあたりには詳しくなくて」
このあたりに詳しくないって、どんなぼんぼんだよ。外から来たってわけでもなさそうだし。
などと御者は思いながら思考する。
ここはちょう都の大通りと都外を隔てる門の近く。観光客や旅人を迎え入れる広場の一つとして賑わい。そうした外からの客はもちろん、王都に住んでいるものも商店街としてよく利用する場所だ。
御者もそんなに通というわけではないがうまい店の一つや二つは知っている。
だけど、みるからに貴族といった感じのこの子供達にふさわしい店の心当たりは・・・・・・
「普通の、貴様が使ってる店で構わん。早く答えろ」
エルゲンのもの言いに、白目を返しそうになった御者だがぐっと我慢する。
相手は4,5歳の子供。大の大人が張り合っちゃいかん。
「本当にそれでいいのか?それならほら、すぐあそこ、そこを左に曲がって、あの建物だ。そこの”穂立亭”ってのがオススメだ」
それを聞くなりさっさと歩くエルゲンの代わりに、フィリアが御者に礼を言ってから他の二人の貴族を案内する。
「・・・・・・変な奴らだな」
そんな光景を尻目に、御者は点検を再開した。




