11-問題児
”顔合わせ”は王宮の広間で行われている。
その一角で一人の少年と少女、そして男性が人ごみを避けるように隅でくつろいでいる。
正確にはくつろいでいるのは少年のみ。
立派な椅子に座り、ノンアルコールカクテルに口をつけているのは5歳の少年。
栗毛のかわいらしい容姿、エルゲンだった。
その傍にいるのは現在12歳の少女、リジェンダと30歳ほどの男性騎士、オーグス男爵だ。
「ぅぅ、緊張します。私もきてよかったんでしょうか?」
その中にあってリジェンダは一人弱気だ。
厳密に言えば彼女は平民、護衛としても現在騎士学校に通っている途中のひよっこである。
”顔合わせ”は貴族の集まりであるがため、どうしても緊張もしてしまうのだ。
「リジェンダ殿は爵位の継承権こそないものの、カイン伯爵の娘。品格には全く問題ない」
冷静に返すのはオーグス男爵。
緊張をほぐすため、というよりは誤りを指摘しているかのように言う。
「そうでなくても護衛は必要だろう。この男が裏切らないとも限らない」
本人の目の前で堂々と言ってのけるのはエルゲンだ。
「エ、エルゲン様!」
さすがにこれにはリジェンダも黙っていられない。
今までと違ってオーグス男爵は身内でも平民でもない。
護衛であっても歴とした貴族だ。
失礼な事をいってはエルゲンに害があるかもしれなかった。
「今ここで君を害する理由は俺にはない。守るべき対象に剣を振るえばオーグス家や王の信用も下がる」
オーグス男爵はあくまで、間違いを訂正するかのように述べる。
エルゲンの言葉はまったく、気にもしてないかのように。
エルゲンのほうも本気で言ったわけではないのか、特に話を続けずにくつろぎモードに入る。
あたふたするリジェンダをよそに、二人は落ち着いていた。
そんな中に、一組男性と女性、少女がやってくる。
当たり前だが彼らも貴族だ。おそらくは両親と娘。
そんな彼らに対してオーグス男爵は一歩踏み込む。
「申し訳ありません。現在アーガネルト公爵は留守にしており、無用な問題を起こさぬために今回は極力他家との接触は控えさせていただいております。どうか今はお下がりください」
丁寧に、しかし事務的な口調で淡々と宣告する。
「ワシはショルト侯爵だぞ。そんな無礼な真似を――」
男は気分を害したように言うが、割り込んでオーグス男爵が答える。
「今の私はエルゲン殿の護衛。今の彼の保護人は王であり、私は王から直接この仕事をまかせれております。話ならば王にどうか」
今の男爵はあくまで護衛、話ならば保護人に。
また王はエルゲンに関して、接触を避けるように事前通達をしており、王が彼らの接触は好ましく思っていないのは明らかだった。
いくら侯爵家とはいえ、王や公爵家とはトラブルを起こしたくないのだろう。
三人はすごすごと引き返していく。
エルゲンは、この間無言。
リジェンダが護衛としては見習いだからという理由もあるが、オーグス男爵がいるのは主にこのためだ。
エルゲンがトラブルを起こさぬように、来る貴族を片っ端から撃退する。
現在の保護人は王であるため、それに逆らうような人間はほとんどいない。
王の覚えが悪くなるようなことは誰もしたくないだろう。
尤も、たとえ保護人がギュンターであっても易々と通れるとは思えないが。
しかし、次にやってきたのはオーグス男爵が手に負えない男だった。
「困ります。エドヴィン様」
オーグス男爵はそう言って止めるが、エドヴィンと呼ばれた15歳ほどの少年は涼しい顔をしている。
「俺が誰かわかっているんだろ?さっさとそこを通せよ」
共も連れずに来た少年に、オーグス男爵は人払いにおいて初めて戸惑いをみせた。
というのもエドヴィンはキングレオンの息子であり、つまりは正真正銘の王子だ。
彼に王の権力は通じず、そして力で止めるなどもっての他だった。
オーグス男爵はちらりとキングレオンの方をみるが、彼は他の貴族達に集られこちらに気づいてない。
それにしてもエドヴィンの意図がわからなかった。
エドヴィンは男だし、まさかエルゲンと婚約したいわけでもなかろう。
その疑問は直後のエドヴィンの言葉と視線が示していた。
「ふぅん。お前、中々いいじゃないか。そいつの護衛なんてやめて俺の妾になれよ」
エドヴィンが見ていたのはエルゲンではなくリジェンダだった。
「えっ?あれ?私?困ります。私は幼少よりエルゲン様に使えると決めているので」
しどろもどろになりつつもはっきり断る。
「そんなこと言っていいのかい。まぁいいさ、僕の力があれば君の意思なんて関係ない」
にもかかわらず、エドヴィンは諦めないどこか、強引にリジェンダを引き抜くことをほのめかす。
困ったリジェンダは助け舟を求めるようにエルゲンに視線を投げる、が無視される。
代わりにエドヴィンを制しようとするのはオーグス男爵だ。
「お戯れを、エドヴィン様。いくらあなたでも個人の生き方を決定することはできません」
「僕は王子だぞ。そうだな、お前この子を解雇しろよ。僕から代わりの護衛を送ってやるからっさぁ」
しかし彼は止まることなく、その言葉の矛先をエルゲンに向ける。
エルゲンは口を開かない。
リジェンダを自身の護衛にするのも、エルゲンにリジェンダを手放させるのも、命令でどうにかできる事ではない。
王家の権威をちらつかせて、脅しているだけだ。
エルゲンがそんなものに屈するわけはなく、話し合う必要もないと無視を決め込んでいるのだ。
一方、無視されているのに気づいたのかエドヴィンは声を荒げた。
「おい!お前!僕を誰だと思っている!口を開け!」
「やめなよ、そんな小さな子供に、みっともない」
が、即座に割り込まれる。
声を発したのはエドヴィンよりも若干年上ぐらい年齢の少女。
その身体は日に焼けていて、下手な男より屈強な身体つきをしている。
およそ貴族らしくない少女であったが、護衛というわけでもないようだ。
「あれは・・・・・・バドゥラン家令嬢ですね。名前はシェイル様です」
こっそりリジェンダが耳打ちする。
「っ!何のようだ」
どうもエドヴィンもシェイルという少女を無視はできないようだ。
となれば、この少女はそれなりの生まれだと考えられる。
「あんたが小さい子達を脅かしてるから止めにきたんだよ」
そういったシェイルに続くように一人の少年が現れる
「弱いものいじめ、反対」
リジェンダぐらいの年齢で、大人しそうな少年だ。
「バドゥラン家風情が、口出しをするな!」
「グランバルト――現王家が公爵御三家より権威が強いってことはないんだけどな」
エドヴィンへ、シェイルと少年とは別方向から来た少女が反論する。
エドヴィンと同じぐらいの年齢の少女だ。
長い髪と高めの身長のせいか、もう少し大人に見えなくもない。
その表情は、やたらだるそうだ。自身はあまり乗り気ではないかというように。
「え~っと・・・・・・」
リジェンダが俺の耳元でどもっている。どうやら少年とだるそうな少女の事は知らないらしい。
「ザン様・・・・・・トワイラ様まで。お騒がせしてしまい申し訳ありません」
オーグス男爵が謝罪する。
少年の名前はザン。だるそうな少女はトワイラというらしい。
「別にそれはいいんだけどさ、あんた護衛だろ?ちゃんと守ってやんないと」
「しっかり、守る」
シェイルとザンの言葉にオーグス男爵は再び頭を下げる。
「オーグスさんを責めてもしょうがいない気はするけどな。一般的な貴族なら王子には逆らいづらいだろ。私がきたのはなんとなく集まる雰囲気かなって思っただけだ」
こんなことをいいつつ、トワイラはだるそうだ。
外から見れば、今すぐにでも帰りたそうな顔をしている。
それに、よくよく見てみれば目下に隈ができている。
「公爵家共め・・・・・・」
3人の来訪者に苛立つのはエドヴィンだ。
彼は顔をしかめたまま、エルゲンに向き直る。
そして袖についている装飾の宝石をむしりとり、そのままエルゲンの足元に投げた。
「おい、エルゲン!お前に決闘を申し込む!」




