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悪党転生  作者: えこーと
1 王国編
10/26

10-顔合わせ

前回が登場人物紹介なので同時投稿

ようやっとお話がまわりはじめます

 ベイス王国。この国の王であるキングレオン=グランバルトにはいくつか悩みがあった。

 その一つは息子のエドヴィンだ。

 彼は国王家の長男であり、次期国王の第一候補であった。

 基本的に国王は世襲である。彼には兄弟もおり、彼らも継承権を持つ。

 加えて国王に連なる家系であるアーガネルト家、ヒドゥラム家の者も継承権がある。

 国王の記憶がたしかのならば両家とも子が一人いる。継承権を持つものであれば意外と数は多いのだ。

 加えて、彼らの夫妻となることで国王になる場合もある。

 しかし国王の選定には血筋が最も重視される。

 よほどエドヴィンに才能がない、あるいは本人が頑なに拒否しない限りは彼が次期国王になるのは間違いなかった。

 そのような境遇であるからか。家柄と次期国王という権力を振り回す典型的な貴族の傲慢長子となっていた。


 自身としては過剰に甘やかしたつもりはない。

 だが彼を取り込もうとする取り巻き達がいらぬことを吹き込むのである。


 しかしこれを追い払えず、結果としてエドヴィンがこうなってしまったのは自分の責任だ。

 そしてエドヴィンを正せぬままに、”顔合わせ”の日がやってくる。


(うう・・・どうしたものか)


 キングレオンはその名前とは裏腹に小心者であった。

 しかもキングレオンの心労はこれだけではない。

 アーガネルト公爵の長男である、エルゲンのことだ。

 アーガネルト公爵は王国だけではなく、人族全体の大事に関わる仕事に取り組んでいる。

 失敗は許されない仕事なだけに、自身による入念なチェックは何度やってもやりすぎなことはない。

 などという口実で数日前に”顔合わせ”の欠席を報告したのだ、しかも妻と一緒に。

 実際、ギュンターの仕事は人類の明暗をわけるほど重要なものであり、正論と言えば正論なのだが。


 ”顔あわせ”というのは、5歳以上の貴族子息が集まるパーティだ。

 もちろん子供だけが参加するわけではなく、その保護者と護衛も参加する。

 だが、あくまで主役は子供。大人はあくまで王国の未来を担う若芽を祝福するのだ。

 というのは表向きの話。その実態は貴族というものを知っていればなんとなく察せられるだろう。

 下品に言えば、唾をつけあい大会だ。

 王国の貴族の結婚は政略結婚も多いが、実際には本人の意思もかなり尊重される。

 特に高位貴族になればなるほどその傾向は強い。

 例えばアーガネルト公爵家の長男であるエルゲンなら、まず無理やり結婚させることはない。

 限度はあり、エルゲンならば平民との結婚は許されても未婚は許させないだろう。 

 

 エルゲンの”顔合わせの件”に関して「ならばカイン殿が――」という提案は「私に信頼できる護衛なしで事にあたれと?」という言葉で即却下された。

 つまり、エルゲンの保護者が不在という状況になる。

 ケイトという使用人がいるらしいが、彼女の身分では保護者としては出席できない。


 ちなみにアーガネルト公爵の護衛であるカインは少し特殊な爵位をもっている。

 この世界は家系や領地統括者とは別に個人に与える爵位というものがある。

 カインはその個人爵位を持っており、その爵位は伯爵。

 個人爵位は継承ができないという特徴こそあるものの、階級的に言えば伯爵相当の権威があった。

 すなわちカインは”顔合わせ”に保護者代理として参加可能だ。


 閑話休題


 現状キングレオン王が取れる選択肢は二つ、エルゲン参加を見送らせること。

 もう一つは自身が代理保護者となり、エルゲンを参加させること。


 アーガネルト公爵は王家の分家とも言える家柄。

 さらにはギュンターには個人的にも色々な借りがある。自身が代理保護者となるのに文句はない。

 最初はキングレオン王も「ギュンターも神経質な奴だな」と思いつつ、代理保護者となることを決めた。


 だが、キングレオンは王だった。

 王国の民を統べ、貴族社会のトップに立つ者だった。

 策謀の匂いというほどでもないが、何かがある予感がした。

 そこでとりあえずエルゲンと会ってみたのだ。

 直接アーガネルト公爵邸宅に行き、使用人に迎え入れられ、エルゲンとの面会を要請。

 エルゲンは栗毛の似合う、かわいらしい男子だった。外見だけだが。


「みるからに凡愚な男だな。貴様ごときが俺になんのようだ?」


 その一言だけでキングレオンは頭を抱えた。

 何故王家筋の長男は問題児ばかりなのか。

 というかどうやって5歳でこんな事を言える風に育てたんだギュンター。

 馬鹿息子のエドヴィンでさえ昔はかわいかったというのに。

 エルゲンとの面会を終えたあと、キングレオンは悩みに悩み・・・・・・。

 エルゲンの保護者となり”顔合わせ”に参加させることを決定する。

 理由は色々ある、王としてのプライドであったり、エルゲンの立場の重要性だったり。


「む、これは・・・・・・ギュンター?」


 そんなこんなでキングレオンが私室で頭を悩ませていると、不意にテーブルに置かれた手紙を発見した。

 これは魔法で存在を隠蔽し、マナの揮発と共に現れる手紙。

 ギュンターはよくこうした手紙の出し方をしている。

 今回もギュンターからの手紙で相違ないようだった。


「なになに」


 ここに少しでもエルゲンをどうにかする手がかりがあるのかと思い、ためらわずに手紙を開ける。

 他に特に細工もなく、筆跡もギュンターのもので間違いない。

 その内容は――


『親愛なるキングレオン王よ。君がこの手紙を見ているということは、既に私は面倒な”顔合わせ”から逃げているのだろう。』


 言い切りやがった、いや書ききりやがった。

 そういう理由だとは思っていたが。


『勘違いしてほしくはないのだが、私は君を嵌めて楽しもうなどと考えているわけはない。本当にめんどくさかっただけなのだ。』


 確かにお前、こういうのめんどくさいってよくサボっていたからな。


『よって、ここにエルゲンの情報を記そう。是非役立ててくれ。』


 これだよ、これ。

 ギュンターはちょっとふざけてるとこはあるが、やはり有能な奴だ。


『エルゲンは天位外級至段の魔法使いだ。気をつけろ、息子が本気になれば王都など一瞬で吹き飛ぶ。』


 この内容に白目を剥きそうになったキングレオンだが、そこは王の威厳でなんとか踏ん張った。

 この場合、天位は魔力、外級は導力、至段は術力を示している。

 天位は上から二番目、最上級の龍につぐ等級で王国にはエルゲン以外存在せず、龍位も一人しか王国はその存在を知らない。

 ちなみに、その一人というのがエルゲンの父親であるギュンターである。

 至段はエルゲンが王国にも30人といないほどの魔法技術の持ち主だという事をあらわしている。

 これはいい、エルゲンの尋常でない才能を現しているが問題はない。


 問題は外級。

 魔法の威力を左右する導力等級においての最上級だ。

 だが、魔力や術力の等級の最上位、龍位や玉段に比べると、その字面はネガティブだ。

 実のところ、外級はまさに外れの等級だった。

 

 まず第一に外級はその膨大な導力、つまりは出力のために制御が困難になることが多い。

 その上で強大な魔法を使えてしまうのだから、外級の人間は大抵なんらかの事故で死亡してまう。

 他にも魔力に見合わない出力を発揮してしまい、魔力切れで息絶えることもある。

 しかもそうした事故を起こした場合、強大な魔法が周囲にも被害を与えるの。

 不幸中の幸いは、ほとんどのケースで杖を持つ前に事故を起こすのでそこで被害が抑えられることだ。


(ん?杖・・・・・・)


 そこでキングレオンは気づいた。いくらエルゲンがそれほどの魔法使いであっても、杖をもっていなければ対処法も――


『ちなみに、エルゲンには既に杖を与えてある。王国の魔法使いでは抑えられないだろう。』


 なにしてるんだお前はー!


『そう言うな。とにかく、エルゲンについては参加させるにしろなるべく刺激を与えないほうがいい。』


 手紙で会話が成立してしまっている。

 思考を読んだのか、他の魔法細工があったのか。

 というか父のくせして息子がまるで猛獣かのような言い草である。


『だがエルゲンは相当に性格と口が悪い。気をつけてくれ。』


 知っています。

 

 とにかく、現状は把握できた。

 エルゲンの顔合わせ、たしかにやっかいな問題だ。

 しかしキングレオンは王である。

 若干、顔が青ざめているが逃避するつもりは毛頭ない。

 今こそベイス王の力の見せ所である!


----------


「どうかご協力をお願いします!」


 キングレオンはエルゲンにひれ伏していた。

 エルゲンの傍にいる女性の使用人が冷たい目をしている気がしなくもないが構いはしない!


「ベイス王ともあろうものが不様なものだ。ようするに、おとなしくしていろということだろう?人払いを貴様がやるのならばこちらに異存はない」


「ははっ!ありがとうございます!」


 笑いたければ笑うがいい。

 王の誇りは大事だ。それを持たない王についていく者はいない。

 しかし、時には頭を下げねばならぬときもあるのだ。

 現に、今こうしてエルゲンとの交渉も成功させている。


「もちろん、それでも蝿がよってくるようならこちらの好きにさせてもらう」


 大丈夫、大丈夫なはずだ。


 国王はこの時忘れていた。 

 エルゲンの他に、もう一つ悩みの種があったことを。

 

爵位の誤りを訂正

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