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歌を贈ろう。貴方への  を込めて (連載版)  作者: 央美音


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国王は何をしていたか1

 ルイザーにとって、この世はままならないものだった。

 ルイザーは、リリッキーア王国の王族として生まれた。

 生まれる前から国王となることが決まっていた。この国では魔法で妊娠中に性別が分かる。

 生まれる前から結婚相手の家が決まっていた。血統を正しく次世代に繋ぐ必要がある。

 生まれた後も、ルイザーの全てが決められていた。王族は伝統を守りながら生きているのが正しい。

 両親には、子供がルイザーしかいない。王族としての責務は彼にはとても苦しいものだった。


「わたしは、どうあってもこの立場から逃れられない。この胸に宿る悲しみは一体何なのだろうか」

「わたくしは、あなた様がどうして悲しんでいるのか、分からないのです。この国の頂点となるべきお人が、そのことで悲しんでいるのが悲しいのです。わたくしは、あなた様をお支えするのを悲しいとは思えないのです」

「お前は、どうかそのままでいてくれ。お前がわたしの悲しみを分かるようになるのはだめだ」


 ルイザーは、婚約者となったタノゴラとは弱みを打ち明ける程度には仲良く出来ていた。生まれる前から決められていた婚約者だが、ある程度成長し自我を確立したルイザーはそれを強く反発するほど嫌悪感があった訳ではなかった。タノゴラも、ルイザーと同じ全てが決められている者だった。

 ルイザーにとってタノゴラは、隣にいることが当たり前で煩わしさを感じさせないところが好きだった。

 全てが決められたルイザーは、この好きという感情は自分だけのものだと思うと胸の悲しみが少し減っている気がしていた。

 ルイザーとタノゴラは、全てが決められている生活の中で、少しずつ心を分かち合うことを学んでいった。



 そうしているうちに、大人たちがルイザーたちの全てを決めることを少しずつ止めていった。彼らは、二人に全てを決めることを求めだした。

 今までとは違う対応を求められるようになった二人は、少しだけ混乱したがすぐに適応できる程度には健やかに成長していた。

 少しずつ大人に近づいていった二人の成長ぶりに大人たちは満足していた。

 ルイザーとタノゴラは二十一才の時に国を挙げての盛大な結婚式を上げた。二年後、リクナシスが誕生した。リクナシスにも、生まれる前から結婚相手の家が決められた。二人には、その家を選ぶ権利がなかった。

 そこで彼は、大人たちの中に両親が入っていなかったことを知った。国王と貴族会議が王族の全てを決めると知った。

 違う、全ては国王が決めると知ったのだ。貴族会議は、ただ国王が決めたことを詳細にする為の場でしかなかった。

 ルイザーは、全てを決められるようになるのは国王にならないと出来ないことを知った。

 ルイザーが三十才の時、父親が急死したので国王になった。タノゴラは王妃になってルイザーの隣に立っていた。

 全てを決める立場になったルイザーは、慎重に公務を行なった。まだ若い国王に反発する貴族はいたが、ルイザーはそれを気にせず自分を貫き通した。

 タノゴラも、王妃としてルイザーを献身的に支えた。そうして、ルイザーが三十四才の時に第二王子となるガイナーが生まれた。 

 ガイナーは、全てを決められているリクナシスとは違い、ある程度の自由があった。生まれる前から決めるはずの結婚相手の家を、ルイザーは決めなかった。

 ガイナーが十二才の時に、ようやく相手がアリア・マリージアに決まった。

 本当はアリアを、ルイザーの側妃にするつもりだった。

 だが、タノゴラによってガイナーの婚約者として王命を出すはめになった。

 ルイザーは、それが不満だった。

 国王となったルイザーには、全てを決めることが許されている。ならば、アリアをルイザーの側妃にして何が悪いというのだろうかと初めてタノゴラに不信感を持った。

 アリアをそばに置けばきっと彼女はルイザーを見てくれるのに、ガイナーの婚約者ではあの人は彼を見ることは無い。娘の相手を見つめるその目に、ルイザーが映ることは無いのだ。



 ルイザーは、国王になって初めて行われたデビュタントに参加していたレイアスを一目見ただけで恋をした。デビュタントは毎年、十六才になる貴族令嬢を王城に集めて行われるものだ。

 レイアスの初々しい姿は、ルイザーにはとても美しく感じた。結い上げられた艶やかな金髪、煌めく青目、整った顔立ちはタノゴラの方が勝っているのに目が離せない。

 ルイザーはダンスをしていたレイアスを、ただ見つめていた。

 タノゴラに感じるものとは、決して違う感情にルイザーは戸惑いつつもそれをタノゴラ以外の誰にも悟られないようにした。

 タノゴラには、ルイザーがレイアスに恋をしたことは知られたはずだと感じていた。お互いに気づいていることを悟らせず、二人は国王と王妃としての責務を全うしていた。

 貴族は十八才で成人とされる。それまでは、デビュタント以外で未成年の令嬢が王城で王族の前に現れることは滅多に無い。それが国王ならなおさら難しい。

 ルイザーが再びレイアスの姿を見ることが出来たのはデビュタントから二年後だった。

 ルイザーはレイアスを側妃にしたかったが、側妃の条件にレイアスは当てはまらなかった。

 細かい条件は省くが、前提条件は高位貴族の令嬢で尚且つ未婚であることだ。

 ルイザーがレイアスを見初めた時、彼女には既に婚約者がいた。ルイザーが見つめるレイアスの隣には、常にマリージア家の次期当主キュレブがいた。

 いくら国王でも婚約済みの令嬢を側妃には出来ない。           

 王命を使ってまでレイアスを側妃にする理由がルイザーには無かった。

 レイアスを、側妃では無く愛妾にすることも出来ない。側妃と違い、愛妾は子供を作る事だけを求められるので、子供が出来れば子供を残して王城を去る立場だった。

 ルイザーはそれでも良かったが、レイアスを愛妾にすることも絶対に出来なかった。

 国王は、結婚して五年経っても王妃との間に子供がいなければ経産婦を愛妾に出来るが、この時ルイザーにはリクナシスがいたし、レイアスはまだ未婚で子供を生んでいない。

 もしルイザーに愛妾が必要になっていた場合、どう考えてもレイアスが愛妾候補に入ることは無い。

 ルイザーが、レイアスを手に入れることは出来ない。ただ、時折王城に出向いてくるキュレブに寄り添う姿を見つめることしか出来なかった。

 このことを、タノゴラはどう思っているのかをルイザーは気にしていなかった。タノゴラとの関係は、良好だとルイザーは思っている。ルイザーがレイアスに恋をしてもそれは変わらない。

 そう、ルイザーは思っていた。



 全てを決められていたルイザーには、レイアスを見つめるだけでも満足できていた。レイアスの夫となり、マリージア侯爵家を継いだキュレブとはある程度の会話をする関係になっていた。レイアスを近くで見られるようになったルイザーだが、そのことで少し気になることがあった。

 レイアスが、ルイザーを見ないのだ。キュレブと会話をしつつレイアスにも話しかけるのだがレイアスはこちらを見ない。常に伏し目でルイザーを国王として敬っていることが分かる態度。

 それがルイザーは気に食わなかった。彼は、レイアスにこちらを見てほしいと思うようになっていた。

 レイアスが妊娠したと知った時、タノゴラも妊娠していた。タノゴラは三十才になっていた。リクナシスを生んで十一年経った頃の妊娠は、タノゴラの体に負担がかかると医者に診断された。

 タノゴラは子供を生むまでは安静にしているように言われた為、ルイザーのそばにいることが少なくなっていた。


「陛下、あなた様を支えることが難しくなってしまい、申し訳ございません」

「何を言う。今のお前は、新たな王族を生むのがわたしを支えていることになる。お前と子供が無事であればそれでよい」

「陛下……」

「そうだ、お爺様とお婆様が今度お前に会いたいと面会を希望している。お母様もお祝いがしたいと手紙が来ていた。お前の両親からもお祝いの品を送りたいと手紙が来ていた」

「まあ、何と嬉しいこと。もう少しすればわたくし安定期に入るそうですから、その時までお待たせしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、問題ないだろう」


 レイアスに恋をした後のルイザーは忙しかった。レイアスの様子を知るために、彼女が嫁ぐ予定のマリージア家に自分の手の者を潜り込ませるのが難しかったからだ。

 マリージア家は魔法の大家と言われるだけあって警戒心が強い。中々上手い立ち位置に手の者を入り込ませることが出来ないでいた。

 それとは別に、キュレブが親しい友人としているクゾーナのオブーツェ伯爵家にも手の者を潜り込ませた。

 ルイザーは、クゾーナとサルマに嫉妬していた。レイアスが二人に親し気に話しかけている姿を、微笑みを見せる姿を、近くに居続ける姿を見せつけられていたのだから。

 オブーツェ家には簡単に手の者を入り込ませることが出来た。領地経営に力を入れているオブーツェ家はマリージア家より警戒心が無かったので、跡継ぎのクゾーナに手の者を使用人として送り込めた。

 少しずつクゾーナの周りに手の者を送り込んだ。嫁いできたサルマにも手の者を使用人としてつけさせた。

 クゾーナがオブーツェ伯爵家当主になった時、ルイザーの手の者もオブーツェ家に深く入り込める立場になっていた。



 レイアスとサルマは文通をしていた。オブーツェ家にいる手の者は、レイアスからの手紙を複写してそちらをサルマの手紙箱に残して原本を回収し、定期的にまとめてルイザーに渡してくる。

 ルイザーは、手紙の内容など気にもしないでただレイアスの手紙を眺めることが趣味になっていた。

 レイアスが妊娠したのを知ったのは手紙からだ。その内容は喜びに満ち溢れており、ルイザーは微笑ましく思った。同時にサルマの妊娠を知れたので、ルイザーはサルマの子供を殺すことにした。

 タノゴラの妊娠を知ったのは、オブーツェ家にいる手の者にサルマの子供を殺すように指示した後だった。

 ルイザーは喜んだ。レイアスとの共通点が出来たのだ。同い年の子供。オブーツェ家には出来ない子供。とても気分が良かった。

 今回、ルイザーは子供の性別を調べなかった。無事に生まれてくればどちらでもよかったからだ。

 この時のルイザーは、生まれてくる子供を側妃にしたいなどとは思っていなかった。

 ルイザーの子供をレイアスの子供と結婚させる気も無かった。

 彼はただレイアスとお揃いが出来たことを喜んでいただけだった。

 オブーツェ家にいる手の者から、サルマの子供が愛人の子供なのをルイザーは知った。クゾーナがサルマへ異常な愛を持っていることを知った。

 サルマは産後に体調を崩し、その後療養所行きとなったことを知りルイザーは喜んだ。

 療養所は身内以外の面会を許可していない。レイアスとサルマはこれ以上仲が良くなることは無いのだ。

 レイアスはアリアを生んだ、タノゴラはガイナーを生んだ。ルイザーは違う性別になったことを少し残念に思った。

 だが、幸せそうなタノゴラを見ると不思議とこれでよかったのだと思えた。

 生まれる前からガイナーの結婚相手の家を決めなかったのは、レイアスが決めていなかったからだ。 貴族家の結婚は、王族と違って生まれる前から決めることは滅多に無い。血統よりも家の利益を優先するところが多く。マリージア家もそうだった。

 ならば、ガイナーも同じようにするのが正しいとルイザーは考えた。このことで少し、タノゴラと口論になったが最後にはルイザーが決めたことに従うことになった。

 レイアスはアリアを生んだ後、カールズを生んだ。

 ルイザーは、レイアスとのお揃いが増えなかったことで悲しくなったが、子供が二人という共通点に気づいて少しだけ悲しみが薄まった。

 ルイザーとレイアスを繋ぐアリアは彼にとって大切な存在になっていた。



 ルイザーが、アリアを側妃にしたいと考えるようになったのは、アリアが十才になった時だった。

 相変わらずレイアスはルイザーを見ない。社交界で、理想の夫婦として有名になるほどレイアスとキュレブの仲は良好だった。

 マリージア家にいるルイザーの手の者は、いまだに屋敷を自由に動ける立場になれていない。

 療養所にいる手の者から手に入るレイアスの手紙だけでレイアスの様子を知るのは限界があった。

 次第に、ルイザーはどうすればレイアスが自分を見てくれるかを考えるようになった。

 マリージア家にいる手の者からは、アリアとカールズと共に庭へ出ているレイアスの様子を知ることしか出来ない。

 アリアに婚約者はまだいなかった。候補は複数いるが決め手がないからと本格的に話を進められていないらしい。

 そして気づいた、アリアを側妃にすればレイアスはルイザーを見てくれる。それは彼にとってとても良い考えだと思えた。

 アリアはまだ婚約者がいない。ならばルイザーの側妃になれる前提条件に当てはまっていると喜んだ。

 ルイザーは、早速タノゴラにアリアを側妃にすると告げるが、タノゴラからは彼を批判する言葉しか出てこなかった。 

 

「いけません、陛下。それは出来ません。確かに、アリア・マリージアは側妃の前提条件を満たしていますが、彼女はまだ十才です。側妃の条件に年の下限はありませんが、それだって側妃が子供を生む為にいるのでは無く、側妃の家との結束を高めるのが目的だからではありませんか。マリージア家にそれを求めるほど、あの家との関係は悪いものでは無いですよね」

「しかしな、わたしはアリアを側妃にすれば幸せになれるのだ。タノゴラは分かってくれるだろう?」

「いいえ、分かりません。側妃は国王が幸せになるために……アリアは、あなた様と彼女を繋ぐものでは無いのです」

「どうしても、どうしてもアリアを手にしたいのだ。彼女は手に入らない。だが、アリアには手が届くのだ。アリアには婚約者候補がいる。今動かなければもう彼女とのお揃いが無くなる。同い年の子供がいるというお揃いが、別の誰かに奪われるなどわたしは嫌だ」


 ルイザーとタノゴラが初めてレイアスのことを口にした。お互いが目をそらし続けていたものをずっと見ないことにするには難しい状況だった。


「……お揃いがよろしいのならば。ガイナーと婚約させればよろしいではございませんか」

「なぜ、彼女とのお揃いをガイナーに渡さなければいけない」

「ガイナーも、あなた様と彼女を繋ぐお揃いですよ。ガイナーにも婚約者はいませんし、お揃い同士での婚約、とても良い考えだと思いますがいかかでしょうか」

「しかしな、アリアをガイナーに渡すと考えるとどうも嫌な気分になる」

「その気分も、いつかは消えてしまいますよ。まずは、マリージア家にガイナーとの婚約を了承させることから始めましょう」

「そうだな、いざとなれば王命を使って成立させよう」


 そうしてアリアとガイナーが十二才になった時に王命によって婚約した。正式な発表は一年後に行われるが、ルイザーはこれでもうお揃いが奪われることがないと安心した。



 ルイザーは幸せだった。アリアが王城に来るようになるとレイアスも付き添いとして来ているのだ。

 この頃から療養所にいるサルマ宛の手紙の数が減っていた。サルマの体調が悪くなり頻繁に文通が出来ないほどになっていた。

 ルイザーは、少しサルマに対してやりすぎたかと思ったが、レイアスとの関係が薄れた者の存在を覚えていられるほど暇ではなかった。

 アリアが王城にいる時は、レイアスもルイザーと同じ場所にいる。彼にはそれがとても嬉しかった。

 だが、ルイザーはアリアとガイナーの婚約にまだ納得していなかった。アリアを側妃にした方が、レイアスとの距離が近づいていたのではないかと後悔するようになっていた。

 タノゴラは、嫌な気分はいつか消えると言っていたが、ルイザーの胸の内では消えるどころか増え続けていた。

 オブーツェ家を使って、アリアとガイナーの婚約を破棄させようと考えたのは、久しぶりに療養所から来たレイアスの手紙だった。ルイザーは久しぶりの手紙だったこともあり丁寧に読み込んだ。

 手紙の内容は、サルマの体調を気遣うことから始まった。アリアとガイナーの関係が良好であること。タノゴラとのこと。サルマの娘のこと。そして、終わりにサルマの健康を願っていた。

 ルイザーは腹が立った。

 レイアスがルイザーについて何も書いていないのだ。タノゴラのことは書いてあるのに、その夫であり国王であるルイザーのことは何一つ書いていないのだ。

 昔の手紙を読み返してみたがルイザーのことなど全く書かれていなかった。

 アリアをガイナーの婚約者にしたのに、レイアスはルイザーを見ていなかった。

 だから、ルイザーがレイアスに見てもらうためには、ガイナーからアリアを取り戻さなければいけないことにようやく気付いた。

 オブーツェ伯爵には、サルマの治療を条件にアリアとガイナーの婚約破棄を命じた。キュレブが油断するとしたらこの男しかいない。

 命じて数年、何の成果も無い状況だったがオブーツェ伯爵の娘の行動でアリアとガイナーの関係に綻びが出ていた。

 ついにはアリアを大罪人に仕立て上げるという愚行を考える程になっていた。

 ルイザーはそれを止めなかった。タノゴラは、婚約破棄されたアリアをルイザーの側妃にすることは決して許しはしないだろう。そもそもアリアを側妃にさせないための婚約だったからだ。

 アリアが手に入らないのなら、また他の男の手に渡るくらいなら、アリアをこの手で殺そうとルイザーは決めた。娘を理不尽に殺されれば、レイアスはきっとルイザーを見てくれると考えた。

 国王としての立場を最大限に使ってアリアを貶めた。オブーツェ伯爵の動きはマリージア家を追い詰めた。

 タノゴラが、リクナシスとその妃が、どう動こうともルイザーを止めることは出来なかった。 

 ルイザーは、もう全てを決められるのだから。

次の投稿は4/30になります。

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