悲惨な事件
「その不倫相手だがな、実は夫、いや、もう離婚したのだから男でいいか、その不倫相手だが男がクビになった職場の上司だったんだ」
「え?」
親父の言葉にエドウィンは驚く。
「その上司と一緒に元妻とその連れ子が楽しそうに歩いているところを見てしまった事で男の中で何かが切れてしまい後をつけて行き暮らしている家を見つけたんだ、そしてその日の夜にその家に侵入して手に持っていたナイフでまず不倫相手の上司を何度も刺して殺したんだ、そして不倫をした妻も何度もナイフで刺して殺した、そして最悪な事に連れ子もその手に持っていたナイフで何度も刺したんだ」
「!!」
親父の話にエドウィンはただ目を見開いて驚く。
他の皆も何とも言えない顔をしている。
正直胸糞悪い話だからな。
「三人をナイフで刺したが男の怒りはそれでも治まる事はなかったそうでな、次に向かったのが男がクビになった職場だったんだ、自分は無実だと言うのに誰も信じてくれなかったそいつらが憎かったんだろう、元職場で働いていた者達を手当たり次第にナイフで切ったり刺したりしていった、運よくその場を逃げた職員の一人が騎士団に連絡したから現場に騎士団が駆けつけて男は捕らえられたんだが、その現場はあまりにも惨劇と呼ぶにふさわしい状況だった、そこにはたくさんの刺された者達が倒れていた、男性女性関係なくな、その光景を見て騎士達は戦慄したそうだ」
確かにそうだな。
戦場ならともかくただの職場でたくさんの人達が刺されて倒れていたんだ。
とんでもない光景だっただろう。
「騎士達は男を捕らえてすぐに尋問をした、何故こんな事をしたのかと、すると男は何も抵抗せずに素直に語った」
親父は男の言葉を語る。
「妻と娘のために俺はどんなに辛くとも二人を養うために頑張った、なのにその頑張りに対する答えが不倫と言う裏切りだった、しかもその不倫相手が自分がクビになった仕事場の上司だった、こんな事が赦されるものか、しかも不倫をした理由が自分と子供のために時間を作らなかった事が不安だった? お前達のために俺は頑張ったんだと、なのに妻と娘は裏切った、ふざけるな、そして楽しそうに歩いているあいつらを見て自分が不幸なのにあいつらだけが幸せだなんて赦せなかった、それが男が犯行に及んだ理由だ」
「連れ子は娘だったのか」
「ああ」
エドウィンの言葉に親父は頷く。
「確かに仕事ばかりで不安を感じていたって気持ちはわからなくもないわ、でもだからと言って不倫をしていい理由にはならないわね」
母さんの言う通りだな。
不安だったからって不倫をしていい理由にはならない。
一度ちゃんと話し合う事ができれば良かったんだ。
「話を続けるが元妻と不倫相手の元上司を殺したいほど憎かったと言う気持ちはわかったが何故連れ子である娘まで刺したのかと聞いたら、大声で叫んだらしくてな、お父さんとお母さんを返せとお前なんか最初から父親だと思ってなかったと、その言葉を聞いて男は娘を刺したそうだ、男は最初は娘を殺す気はなかったが娘のその一言で殺意が湧いたと言っていた、男は刺しながら叫んだ、誰のおかげでお前とあいつは楽な暮らしができたと思っている、誰のおかげで自由な暮らしができたと思っている、誰のおかげで今も金が手に入っている、全部俺のおかげだろ、お前達は俺に感謝すべきなんだ、そんな事を叫びながら殺意のままに娘を刺し続けたそうだ、聞くだけで気分が悪くなる話だ」
確かにそうだな。
こんなの軽はずみで聞いたり話したりすべき内容じゃないだろう。
「それからクビになった職場に対しても騎士達は不信感を抱いていたんだ、何故なら男が犯行に及んだのは夜中でしかもかなり遅い時間だった、周りの家や店なんかはとっくに閉まっていて眠っている時間だったんだ、それなのにそんな夜遅くまで働いている事に疑問を感じ調べてみたら驚く事にちゃんとした職場じゃなかった事がわかったんだ、その職場で働いている一人一人が一日にこなす仕事量がどう考えても一日で終わる量じゃなかったし上司も仕事を部下や新人に丸投げするような最悪な環境の職場だったんだ、そう考えると男が家族のために時間を作れなかったのも納得だ、なんせ休日ですら仕事がある最悪な職場だったんだからな」
「おまけに男が金を盗んだと言うのも冤罪だったそうだし」
「そうなのか?」
俺の言葉にエドウィンは驚く。
「ああ、調べてみたらその男に冤罪を被せたのは元妻と浮気していた元上司だったんだ、つまり二人は男を陥れて男から金を搾り取ろうとしていたってわけだ、まあ、その結果訪れたのは自業自得な末路と言うわけだ、しかもこれは俺がまだケイネスくらいの時に実際にあった話だ」
実際にあった話だと知ってエドウィンは驚いている。
俺も最初親父から聞いた時は本当に驚いたよ。
「それでだ、この惨劇とも呼べる悲惨な事件は貴族平民問わずバハムス中の全国民が驚愕した、自分達が寝ている間にこんな恐ろしい事件が起こっていたんだからな、今回の事件で男は死刑となったが男は何の抵抗もなく受け入れたよ、男にとっては元妻と不倫相手の元上司、そしてクビになった元職場で自分の無実を信じなかった多くの者達に復讐できたのだから満足したのだろう」
「ちなみにその事件で犠牲になった人数は」
「元妻と不倫相手の元上司は亡くなり、そしてクビになった元職場の人達は少なくとも三十人以上が刺されて一命を取り留めた人もいるけど半分以上が亡くなったわ」
母さんがその事件の犠牲者を答える。
「連れ子の娘は? 男に何度も刺されたのなら」
「確かに何度も刺されたけど何とか命は助かったわ、でもその時の出来事がショックで精神を病んでしまって刃物を見る度に恐怖でおかしくなってしまってね、教会で面倒を見てもらったけど少し目を離した隙に自ら飛び降りてそのまま亡くなってしまったわ」
「この事件をきっかけに先代の国王陛下はバハムス中の全ての職場を調べる事にしたんだ、今回の事件、男が家族との時間を作れればもしかしたら起きなかったかもしれないからな、その時間を作れない最悪な職場が他にもないかどうかを徹底的に調べたそうだ、当然貴族平民問わずな」
親父の言う通りかもな。
妻が不倫をした原因も男が家族との時間を作れなかったのが原因だし、その原因を生み出した元を辿れば男がクビになった元職場の最悪な環境だろう。
「それで調べたら今回の事件の原因となった職場以外にも似たような感じの職場がいくつも出て来てな、即刻仕事についての見直しをして現在では余程の事がない限りは遅くまで仕事をしないようにちゃんと家族や恋人など大切な人との時間を取れるように改善されたそうだ」
こうして親父の話は終わるのだった。
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本日二話目の投稿です。
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