025
「海老フライ美味しかったね!」
「そうね。カルパッチョも美味しかったわ」
「私はシーフードサラダ!」
汗臭さ天使はサッパリしてフローラル天使に進化しましたよ。
まあ、またすぐに汗臭さ天使に戻るんですけどね。
「じゃあ、俺達は船に乗るとするか」
「いいなぁ。私も乗りたいなぁ」
「お嬢様、帰りの楽しみにしておいてください」
「はーい」
セーラたん、スパルタです。前世の私のようです。
私とセーラは家族と別れて海辺へと移動しました。
えっ?
幼女の水着ムハーッ?
捕まりますよ!?
ドレスですし、セーラを甘く見てはいけません。
「では、もう一度説明します。内気功を練り上げ、軽功を発動します。熱気球がゆっくり浮き上がるイメージですね。
するとこのように」
男装麗人が洋上に立っています。
いやー、マジですか。
てっきり『右足が沈む前に左足を出すのです!』的な、水切りダッシュ方式だと思っていました。
水の上に立ち止まれるのですね。
これって本当に魔法じゃないのでしょうか。
「魔法ではありませんが、忍術にも水蜘蛛の術というものがありますよ」
「どっちの方が簡単?」
「水蜘蛛ですね」
「じゃあ、それじゃダメなの?」
「水蜘蛛の術は、表面張力を利用するもので、水蜘蛛という履き物を用意しなければなりませんし、高速移動ができません」
「前世では水切りダッシュ方式だったよ」
「それではポージングができませんから、踊れません。軽功ならば道具も要らず、立ち止まることも可能ですし、水に立てるほど軽功を極めれば、どんな高さから落ちても空気抵抗だけで減速できますし、打撃ダメージを無効化もできます」
「むむむっ、有用ですね!」
セーラの実演がなければ、信じられない現象です。
本当にできるかなぁ。
気を練り上げて、熱気球だと体温が上がりそうな気がするので、飛行船のヘリウムガスのイメージで体を軽くしていきます。
「お上手ですよ、お嬢様。さあ、お手をどうぞ」
恐る恐る水の上に足を乗せます。
おおっ! なんかプリンに乗ってるみたい! すごく不安!
あっ!
ズボッと足首まで水に沈んでしまいましたが、繋いだ手からセーラの気が伝わり、私の体を軽くしてくれます。
ああ、こういう感じかぁ。最初にやってもらえば良かったです。
「ありがとう、セーラ師匠。何とか行けそう!」
最初は踊らずに手を繋いで歩いて行きます。水面が凸凹で歩きにくいですね。
「もう少し沖に出た方が波が少なくなりますから、それからダンスを始めましょう」
初日の訓練にしては過酷ではないですかね?
テンプレマスターですから乗り切っちゃいますけど。
「早く行かないと、また港で熱烈歓迎されますよ?」
「そうでした! 行きましょう!」
船はまだ出てませんし、汽車よりは遅いのですが、こちらもまだ慣れていませんからね。
「今日は割と波があるので、弾むようなステップで駆け抜けましょう。クイックステップから参りますね」
沖に出るとセーラのリードで軽やかなステップを踏み始めます。
沖に出ると軽功が切れた途端に沈むと思うと少し怖いです。緊張でちょっと指先が冷たくなって震えちゃいます。
「レッタちゃん?」
はぅん! きゅ、急に、レッタちゃんなんて!
いくら二人切りになったからって、そ、そんな急に名前を呼んで微笑みかけるなんて!
だ、ダメなんだから!
スカーレット・バイロンはそんな安い女ではなくてよっ!?
あんっ、ダメ!
急に抱き寄せるなんて!
いけないわっ! 私にはウィル君という婚約者が!
ああっ、抱き寄せられると、安心感がしゅごい! いい匂い!
おねーたま!
「レッタお嬢様、緊張は解けましたか?」
違う緊張を強いられてますけど!?
違う意味でドキドキしちゃってますけど!?
私強引にされるのも、嫌いじゃないかも!
「う、うん!」
なんかフワフワしますよ。
きっと軽功が効き過ぎているんですね!
私の顔が赤いのも、洋上で照り返しと陽射しが強いからですね!
日射病対策が必要ですよ!
「内気功を練っていれば、日射病も熱射病も防げますよ」
ですって。
いいもん。ダンスに集中しますよ。
そうれ、タンタン、クルクルクルー
今日の晩ご飯は何かしらー♪
美味しいハンバーグがー食べたいにゃー♪
冷たいジェラートもつけてくださいにゃー♪
あまーい、カフェラテもお願いにゃっ♪
はっ! ダンスに集中していたはずが、晩ご飯に集中していました。
「クスクス。ディナーはハンバーグにジェラートですね! お任せください」
イヤンイヤン!
私、もしかして歌ってましたか?
ハンバーグ食べたいニャの歌を!
は、恥ずかしいっ!
セーラも一々返事しなくていいの!
「はーい、レッタちゃん」
にゃふん!
だから心の声に返事しなくていいから!
「にゃー!」
もうプンプンです! いじめっ子は嫌いです!
「すいません、お嬢様。とても愛らしくてらっしゃるので」
それ、前も聞きましたから!
「ところで、ゲイルマン帝国ではカイザーシュマーレンというスイーツが有名ですよ。召し上がられますか?」
ん? 何それ? 美味しいの?
「カイザーシュマーレン、皇帝のパンケーキという意味です。ベリーと生クリームたっぷりで如何ですか?」
「むむむっ」
のっと、ぎるてぃー!
許します!
こ、今回だけですからね!?
大公令嬢がスイーツ一つで気を許したりしないんだからっ!
でも、どんなかなー?
カイザーシュマーレン、カイザーシュマーレン♪
美味しい美味しいパンケーキ♪
カイザーシュマーレン、カイザーシュマーレン♪
ベリーとクリームたっぷりねっ♪
はっ! また歌っていた気がします。
チラッとセーラを見上げると、ニッコリ微笑まれてしまいました。
よしよし、レディの心の歌には触れてはいけませんよ?
そうこうしていると、パンケーキの国、じゃなかったカイザーシュマーレンの国、でもなかった、ゲイルマン帝国に到着しました。
丁度、船が入港するところでした。
ゲイルマン帝国の首都はここから汽車で一時間程度でそんなに離れていないので、今日は首都まで移動して宿泊です。
下船場まで皆をお出迎えします。
やがて船から皆が降りてきました。ガウェイン君はおねむのようで、お父様に抱っこされています。
「船旅お疲れ様。ガウェイン君寝ちゃってるね」
「ああ、船で軽く走り込みと素振りをさせたら疲れて寝てしまったよ」
ああ、早速トレーニング開始したようです。
珍しくお母様の手が空いているので、ススッと近寄ってお母様の手をギュッと握りました。
うふふっ、お母様と手を繋いでお散歩、久し振りです!
「あらあら、甘えん坊レレレッタちゃんね」
「もうっ、お母様ったら! 初の家族旅行なんだから、皆仲良くするの!」
私は反対の手でお父様の手を握りました。ガウェイン君は片手抱っこです。
ああ、家族団欒!
セーラとカトレアは荷物を取りに行ってくれています。
楽しくなってきました!
らんらんらん!
今日の晩ご飯は何かしらー♪
美味しいハンバーグがー食べたいにゃー♪
冷たいジェラートもつけてくださいにゃー♪
あまーい、カフェラテもお願いにゃっ♪
「じゃあ、ハンバーグにするにゃ!」
「そうだにゃ!」
「にゃっ!?」
ま、まさか、また歌っていたのですか、私。
しかも、またハンバーグが食べたいニャの歌を!
もういいにゃ!
開き直るにゃ!
「ハンバーグにするにゃ!」
「ハンバーグですにゃ? かしこみゃりみゃした」
「にゃっ!?」
振り返るとニコニコのセーラと、生暖かい微笑みのカトレアが立っていましたにゃ。
「にゃふん!」
私は恥ずかしさの余りに、お母様のスカートに顔を埋めました。
どうも旅に出てからテンションが上がりすぎているようです。
お母様に抱っこして甘やかしてほしい所ですが、8歳児はそこそこ重いので、お父様やセーラならいざ知らず、お母様の細腕では抱っこしながら移動はできません。
もう顔を上げる気にならなかったので、ずっとお母様のスカートにへばり付いて移動していたら、いつの間にか汽車に乗っていました。
初めての汽車なのに、乗るところを見逃しました。
いくら初汽車だからってご機嫌直しませんからね!
そんな安い女じゃないんだからね!
「ふわぁー! 凄い! 早いよー! 馬車より全然早いー! ポッポー! ポッポーっていったよ!」
はっ!
また、旅テンションでおかしくなってしまいました。
キャッキャッうふふしてしまいました。
だって、窓際でお母様のお膝の上なんですもん!
だって、子供なんですもん!
お母様のお膝の上なんていつ以来かなー?
楽しいなー♪
あっ、また歌いそうになりました。危ない危ない。
『ヅカジェンヌ劇団』ばりのミュージカルツアーになるところでした。
お母様のお膝って、ガウェイン君くらいちっちゃいと良いんですけど、私くらいになると、後頭部の圧迫感が凄いんですよ。
さすが巨大空母です。
いい枕どころか、大きすぎて私猫背になってますもん。
まあ、柔らか気持ちいいですけど。
「「「「らんらんらん!
今日の晩ご飯は何かしらー♪
美味しいハンバーグがー食べたいにゃー♪
冷たいジェラートもつけてくださいにゃー♪
あまーい、カフェラテもお願いにゃっ♪」」」」
やめろ! せっかく私が耐えたのに、合唱するなっ!
くっ! なぜ全員一度で覚えているのです!
こらっセーラ、半音ずらして妙に美しいハーモニーにするのをやめなさい!
あっ、セーラのハモリに対抗意識をもつんじゃない!
なにしっかり音合わせしてるんですか!
カトレアの少女らしいソプラノ、お母様のアルト、セーラがアルトからテノールまで下げました。お父様がバスね。
うーん、ステキ!
って、バイロン合唱団ですかっ!
お父様も! 無駄にビブラートを効かせない!
ちょ、ちょっと!
セーラ!
それは二人の秘密でしょ!? 乙女の秘密ですよっ!?
なに二曲目始めてるんですか!
「カイザーシュマーレン、カイザーシュマーレン♪
美味しい美味しいパンケーキ♪
カイザーシュマーレン、カイザーシュマーレン♪
ベリーとクリームたっぷりねっ♪ 」
やめろ! 『ねっ♪』じゃない!
こらっ! セーラのソロを聞いてからハモろうとするな!
ガウェイン君が起きるでしょ!
それから、お父様の『ねっ♪』は可愛くないから!
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