024
「と言うわけで、外遊に行ってくるから!」
「何がと言うわけだ」
「頼むよー、兄上ー。皆行っちゃうんだよー」
「こらっ、髭面のオッサンが甘えるな!」
「ほらっ、あれにしよう!
最近魔物が出てくるだろう? そこで魔物退治のエキスパートである俺が各国に注意喚起に行く必要がある!」
「あれにしようとか言ったら台無しだろうが。まあよい。ロクに休暇も取ってないしな。
じゃあ、親書を用意しとくから。連絡したらすぐ帰って来いよ?
あと、スカーレットちゃんの写真を撮っておくように」
「イエス、サー!」
お父様はどう言いくるめたのか、外遊許可を貰ってきました。よく許可が出ましたね。
「お父様も行けることになったんだね! やったー!」
「やったー!」
私の真似をしてガウェイン君がバンザイしています。
「そろそろガウェインも鍛え始めないといかんし、ついでに訓練も始めるぞ!」
「そっかー、ガウェイン君も5歳だもんねぇ」
「うん! 僕、姉上を守る!」
おお、いつの間にかお姉ちゃんから姉上になっていますよ。昔はねーねだったのに、子供の成長は早いですねぇ。
「お父様が訓練するの? 大丈夫?」
ガウェイン君は普通の人間ですから、普通の騎士に訓練してもらった方が良いような気もします。
「ああ、普段騎士達の訓練もしてるから、慣れたもんだ」
そう言えばそんな仕事してましたね。
「カトレアにも手伝ってもらえば万全だろ」
「うん!」
「はい、旦那様」
確かにカトレアなら加減も分かっているでしょうね。
「しかし、男のガウェインが鍛えるのは当然だが、スカーレットはなんでそんなに鍛えるんだ? 魔王なんていないぞ?」
今更何を言っているのですか、お父様は。
「そんなの、決まってるでしょ! ほら、あれ! なんだっけ?」
あれ、なんででしたっけ?
修行がライフワークになっていて、すっかり忘れていました。
「ほら、次元の裂け目から魔物が出てくるとかなんとか言ってたじゃない」
お母様、止めてください!
どう聞いても厨二病の痛い人じゃないですか。
「ちょっと、お母様、言い方! そうそう! 預言書小説でそういうのがあったから、鍛えてたのです!」
「あらあら、でもその小説は流石に現実にならないと思うけど」
「ぐぬぬっ、確かにならないでしょうけど! 確か元々はギロチン回避とか、国外追放になっても生きていけるように鍛え始めたの!」
「じゃあ、もう十分じゃない?」
「ああ、十分だな」
「十分!」
ガウェイン君、あなた便乗してるけど、分かってないでしょう?
「公爵家を継ぐより東インディアナ会社を継いだ方が収入も自由も多いですし、貴籍剥奪さされても大丈夫ですよ」
まあ、前世は貴族ではありませんから、貴族でなくなっても、特にどうということもないのですけど。
「いいの! 鍛えるの! 魔法も奥義も使えないお父様より強い魔物が出てきたら、皆死んじゃうもの! 私が皆を守るの!」
「レレレッタちゃん! 可愛い!」
あん、ママン、いきなり抱き締めるなんて!
皆が見てるよ! 恥ずかしい! でも気持ちいいよぅ。
「備えあれば憂いなしだよ!」
「そうかぁ、でも差し迫ってダンスとかマナーとか貴族的なものの方が大事じゃないか?」
ぐぬぬっ、脳筋インテリお父様め! アホ勇者のくせに生意気だぞ!
「大丈夫です、旦那様。そちらも抜かりなく」
おお、セーラはちゃんとフォローしてくれます。
「お嬢様、ダッシュ移動に加えてダンス移動も取り入れます」
「ダ、ダンス移動?」
「はい、ダンスステップを高速で踏んで駆け抜けるのです。当然ドレス着用で、優雅でなくてはなりません」
「いや、さすがに無茶では」
さすがに転けてしまいそうです。
「お任せください、お嬢様。リードは私が務めますので」
「おお、それなら俺も俺も!」
「お父様は身長差がありすぎ」
お父様と高速ステップなんて、私ほとんど宙を舞っているのではないでしょうか。
そもそも体操服で走ろうと思ってたのに!
「舞踏会用のドレスでは裾を引っかけてしまいますので、少し短いドレスにしましょう」
「まぁ! それはますますお人形さんのように可愛いのではなくて!?」
「なんだと! すぐ手配だ! いや、待て! 可愛いスカーレットのパンツが見えてしまわないか?」
パ、パ、パンツ!
私のおパンツ様がお披露目ですか!?
「いえ、そこは見えないように優雅なステップを踏むのが修行の要なのです」
「なるほど、動画ね!」
「動画だな!」
「どーが!」
私の高速ステップが動画撮影されて世界に晒されてしまうようです。
これは、絶対におパンツ様を死守せねばなりません!
というか、スパッツ履いときましょう。
「ちなみに、スパッツは不可です。優雅ではありませんので」
「確かに優雅ではないわ」
「そうだな、典雅に欠ける」
「みやび!」
ガウェイン君、ちょっと間違ってますよ。可愛いのでナデナデしておきます。
「さすがにヒールは無しですよね」
「うーん、審議を!」
セーラは考え込んで両親を振り返りました。
臨時『スカーレット嬢を愛でる会』首脳会議が開催されるようです。
「どうでしょう、会長、副会長。やはりハイヒールで踊る方が美しいと思われますが、安全性ではローヒール、なんならローファーでしょうか」
「そうね、舞踏会の練習という意味ではハイヒールが望ましいわ」
「そうだな、でもさすがに足を傷めるのではないか?」
「そう、舞踏会はハイヒール。しかし、舞踏会用のドレスではなく、ショートドレスなのでしょう? ならば・・・」
「ならば?」
「ならば、ローファーが至高。まさにビスクドールではありませんか!」
「おお、異議なし!」
「異議なし!」
「いぎなっしー!」
一人ゆるキャラが紛れ込んでいるようですね。
「移動中はビスクドールスタイルで。そして家族の揃う晩餐はイブニングドレスにハイヒールで」
「さすがはエリザベス会長!」
「さすリズ!」
良かった。ローファーなら安心です。砂漠をハイヒールとかいくらなんでも頭おかしいですよね。
さあ、テンション上がってきました!
「さあ、皆! 荷物を鞄に詰め込んで! 楽しい旅行の始まりなのです!」
行くのです! 旅なのです! 初家族旅行!
わーい!
「おうっ!」
「はーい!」
「「イエス、マイ、レディ」」
「あらあら、うふふっ」
大好きな家族全員で旅に出ることができて、スカーレットとても嬉しいです!
翌朝、抜けるような青空の下、私達は旅立ちました。
まずは港町へ。
皆は汽車で。私と、セーラは踊るようなステップで。
私はセーラの用意した甘ロリドレスに身を包み、軽やかに旅路を踏み出したのです。
フリルの付いた真っ白なシャツに、青空とお揃いのスカイブルーのふんわりショートドレス。
ドレスに合わせた小さな青い花をあしらったベッドドレスが柔らかな金髪に映えます。
可愛い! 私可愛い!
可愛いは正義!
大正義スカーレットちゃん、参ります!
「大正義スカーレットちゃん、最高です!」
セーラ、心を読まないの!
「さあ、レッタお嬢様。お手をどうぞ」
す、素敵! セーラお姉様! さいきょう!
わたちの、さいきょうのおねえたま!
セーラはダンスをリードに相応しい装い。
スラッとした燕尾服に、私に合わせたスカイブルーのアスコットタイ。
燕尾服の胸元は巨大戦艦が溢れんばかり。
艶やかな髪はアップに纏められ、キリッとした目元も涼やか。
完璧超人の完全無敵男装麗人です。
はぁ、尊い!
セーラお姉様のリードでまずはゆっくりとワルツのステップ。
曲は掛けられませんが、セーラがハミングしてくれます。
はぁ、綺麗な声ですねぇ。
はぁ、綺麗な肌です。
はぁ、優しい眼差し。
ステキ! セーラお姉様大好き!
はっ! ダンスでは近過ぎてセーラの魅力がヤバいですね。
セーラもお母様と同じく魅了スキルを持っているのかもしれません。
チョロインのエルゼだったら蕩けてしまってますね。
私ですか?
私はチョロインではありませんから、大丈夫ですよ?
あっ、セーラ! 優しい! 好きっ!
あ、いえ、なんでもありませんよ?
ちょっと足元が悪いところに差し掛かったら、セーラがそっと私を庇ってくれてステップが乱れないようにリードしてくれただけですよ?
私のダンスパートナーですから、それくらい当然デスヨ。
ワルツからタンゴ、スローフォックストロットへ。
そしてクイックステップ。
段々とセーラのハミングが早くなりステップも私がついて行けるギリギリのペースで早くなっていきます。
こういう匙加減が絶妙に凄いのです、セーラったら。
セーラは婦女子にモテそうですねぇ。
今回練習するダンスの種類は10種類。
アヴァロン王国を中心に発展してきたインターナショナルスタイルで、スタンダード5種類、ラテン5種類を踊る10ダンスと言われる競技ダンスに準じています。
普通はホールで踊るので、反時計回りに廻ったり、その場で踊ったりですが、今回はアレンジして進んでいきます。
駆けるよりも速く、それでいて優雅に。
クルクル回るとスカイブルーのスカートがふんわりと回りとても可愛いです。
おパンツ様が見えてしまってはいけませんよ?
子供らしい愛らしさと王族らしい典雅。
可愛くかつエレガントに。
視線はセーラに捕らわれず、ホールを俯瞰で捉えるように。
思った以上に大変です。
踊りながら周りの障害物を察知して避け、セーラのリードに合わせてステップを選ぶ。
ステップは基本ステップにヴァリエーションと言われるオリジナルステップを入れていくのですが、その順番は全てアドリブです。
リードを読む訓練。
臨機応変に対応する訓練。
周囲を察知する訓練。
さらには素敵すぎるセーラの魅了に抵抗する訓練。
同時に体力と敏捷性、リズム感を養うというトレーニングなのです。
それでいて汽車の到着に間に合うように移動しなければなりません。
大変! ちょうたいへんなんですけど!
これ間に合うのでしょうか。
はー、しんどい!
あん、セーラ様、ステキ!
疲労で足がもつれそうになった私をリフトし、ホバーでクルクルと回ります。
この人どれだけ気が利くのでしょう。
これだけの速度で踊っていても、周囲に注意を払いながらも私の些細な変化に気付くほどの余裕。
セーラがいると普通の男性では満足できる気がしません。
私本当に結婚できるのでしょうか。
婚約者は年下のウィル君なので、私がセーラ的お姉様になればいいのでしょうか。
結婚までに甘えん坊レレレッタちゃんをなんとかしないといけないかも。
そうこうしていると、やっと港町に到着しました。
クルクル廻りながら町の門をくぐり抜けると同時に、ピタッとフィニッシュを決めます。
すると周りから盛大な拍手が鳴り響きました。
町の人達が歓声を上げて拍手してくれています。
可愛くカテーシーで応えます。
あっ、カメラママンがいますよ!
むぅ、汽車に負けてしまいましたね。
この人だかりは道行く人なのか、お母様が集めたのか気になりますね。
大公一家の外遊ツアーですから、多少パレードみたいになるのも仕方ないのですが、大公のお父様、そこで住民からスルーされているのですが。
あっ、カトレアがビラを配っています。
客引きしてたんですね。
あれ? ちょっと待って。
それ、『スカーレット嬢を愛でる会 号外』って書いてません?
ちょっと! なに布教活動してるんですか!
イヤンイヤンです!
身内の行動に恥ずかしくなって、真っ赤になってしまいました。
セーラにしがみついて赤くなった顔を隠します。
「か、可愛いぞ!」
「て、天使だ! 天使が降臨したぞ!」
ぎゃー! 住民が感化されていますよ!
バイオハザードですよ!
こ、これは恥ずか死ぬ!
絶対に『スカーレット嬢を愛でる会』より早く町に着くようにしなければ!
毎回これでは身が持ちませんよ!
まだ出国もしてないんですよ!?
ま、まあ、私は唯一の王族の姫ですから?
自国でもて囃されるのは仕方がないし、国民に愛されているのは嬉しいです。
でもね、でも、他国は恥ずかしいでしょ?
次に行くのはゲイルマン帝国。エルゼの国ですよ?
エルゼにはどちらかというとお姉様スタイルで接しているのに、こんないじられキャラを見られるのは避けなければ!
ふ、船!
セーラ、お母様達は置いておいて、早く船に乗りましょう!
「さあ、レッタお嬢様。食事の美味しい宿屋がありますから、そこで体を拭いてランチにしましょう」
えー? ランチより脱出したいのですが。
「姉上ー、ごはん食べよー」
仕方ない、行きますよ、セーラ!
「お昼ご飯は何かなぁ? ねぇガウェイン君?」
ガウェイン君のちっちゃなお手てを繋ぎます。私のお手てもちっちゃいんですけどね。
「うんとね、僕海老フライ!」
「ああ、海だもんね。海老フライ美味しそうだね。私はシーフードサラダが食べたいなぁ」
「てえへんだ、てえへんだ! チビッコ天使が二人に増えたぞ!」
「本当だ! なんかキラキラしてるぞ!」
すいません。キラキラしてるのは汗です。
ずっと踊り続けていたもので。
「レッタお嬢様、こちらです」
あなたいつその宿屋のリサーチしたのですか?
「なんだ、すごい美形の男だな」
「キャー、ステキ!」
「バカ! よく見ろ、あの溢れ出るお胸様を!」
こら! 私のセーラをエロい目で見るんじゃない!
プンプンですよ!
「なんだ、天使がぷっくりしてるぞ!」
「お前がセクハラ発言するからだろ!」
「だって、あんな美人初めて見たんだもん!」
むっ、セーラが美人とな?
確かにセーラお姉様の美しさと魅力に囚われるのは仕方ありません。
のっと、ぎるてぃー!
「おお、天使のお許しが出たぞ!」
「ありがたや、ありがたや!」
なんかちょいちょい東方の人が紛れ込んでいるようですね。
さあ、汗臭さ天使のお通りですよ!
汗臭くなりたくなかったら、道を開けるのです!
短編の方も、よかったら読んでみてください。
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