014
ご無沙汰しております。スカーレット・バイロン、5歳です。
二年経ちましたが、一向にスキルや魔法が発現しません。
あと、弟が生まれました。ガウェイン君です。ウィリアム第二王子と同い年です。今のところ弟にも魔法やスキルは使えなさそうです。
例の悪質小説以外では戦闘力が必要な世界ではないので仕方ないのかもしれません。
前世の世界は魔法文明で、こちらは科学文明ですから、知識チートもできないため、普通に毎日コツコツと様々なことを貴族的英才教育で学んでおります。
一応運動もしてますよ。
お父様から徒手とナイフによる戦闘技術、セーラから暗器術や隠行術なども訓練を受けております。
案の定セーラは暗殺者スキル持ちでした。前世のようなシステム的な意味でのスキルではありませんけど。
最高峰の技術を身に付けるために、3歳から訓練を開始しました。
お父様に戦闘技術を仕込んだのは私ですから、教わるというわけではないのですが、意識に体が付いてこないので、その辺りの調整が主体です。
前世では魔法があったので暗器や隠行を使う機会がなかったため、こちらは一から修行です。
勇者の強化改造された遺伝子を受け継いでいるため、肉体性能が著しく高いことが分かり、体術に関しては予想以上に順調です。
一般人と比べると、常に身体強化を掛けているくらい基本性能の差があります。
魔力に関してはお母様の魔力感知で調べてもらったところ、魔力器官はないものの全身の骨の中に微かに魔力を感じるとのことです。
どうやら強化遺伝子の方が優性遺伝だったようです。
骨髄から魔力を捻り出す感覚は、全く掴めていません。まあ、可能性があるだけマシです。
そんなこんなで魔法少女から武闘派少女にジョブチェンジです。
最近やっとセーラのような動きができるようになってきています。
そろそろ武術系のスキルが生えているんじゃないでしょうか。確認できませんけど。
ある程度身を守れる目処が立ってきたので、近い内に懸案事項の王子と顔合わせしたいところです。
本日は王と王妃とのお茶会にお呼ばれしました。王子達はお見えでしょうか。
いつもは、王や王妃様が息抜きに遊びに来るので、こちらから行くのは初めてで、王宮も初めてです。
どんな感じでしょうか。観光気分で楽しみです。
「スカーレット、ごらん。王宮が見えてきたよ」
「えっ、本当!?」
私はお父様に抱き上げられ、馬車の窓を覗き込みました。
「ふぁー、これが王宮なんだー」
前の世界では常に魔族の脅威に曝されていたため、王宮は城であり要塞でした。
守りやすく攻めづらくするために、小高い丘の上にあり高い城壁に囲まれ、その中には遠くまで見渡せる尖塔がいくつもそびえていました。
しかし、魔族も魔物もおらず永らく戦争もない平和なこの世界の王宮は、多少高い程度の塀に囲まれ、豪奢であるが簡単に破壊できそうな門を構えた、高さのあまりない建物でした。
お金の無駄ではないかと思うほどに豪華絢爛な王宮は、明らかに戦いを想定していませんでした。
戦いに明け暮れた前世持ちとしては少し心配になるほどです。
門を潜ると、これまた無駄に広く綺麗に手入れされた庭園を通り、煌びやかな王宮へと至ります。
「うわー、向こうと全然違うね!」
「そうでしょう? こんな無駄な税の使い方をしてよく反乱されなかったわね」
戦国に生きた王女にとっては、過剰な装飾は税の無駄で国防力低下や人心の離反を招く忌むべきものだったのでしょう。
「リズの心配は分かるが、この王宮が建てられたのは百年以上前で、現王はそんな愚かではないよ」
「それは分かっているけど、元王家の者としては、ここに来ると言わずにはいれないのよ」
「まあ、これも一つの国威啓蒙なんだよ」
豊富な資金力を他国に見せつける意味もあったようです。外交上舐められると拙いのでしょう。
王宮に入ると一旦豪華な部屋に案内され、しばらく待っていると再び案内の者が戻ってきました。
「では、お茶会の席へご案内させていただきます」
本日は謁見に来たのではなく、親戚のお茶会にお呼ばれという形です。お父様は王弟ですから、私にとって伯父様伯母様なのです。
私達はさらに奥にある庭へむかい、綺麗な花々が咲き乱れる東屋へと案内されました。
そこにはもう王と王妃が腰掛けておられました。
「よく来たな、ランスロット」
「お招きありがとうございます、兄上」
身内の会のため、お父様は跪かずに挨拶をします。王に対して視線が上からになっていますが、いいのでしょうか。
「ご夫人もよく参られた。さっおかけください」
陛下は王にしては心安い方で、非公式の場では、元王女であったお母様にも敬意を払ってくださいます。公の場では臣下に敬語は拙いので口調が変わりますが。
「本日はお招きありがとうございます、陛下」
無礼講ということで、挨拶も簡略化です。
「スカーレットは大きくなったな。息災であったか?」
「はい、陛下。ありがとうございます」
可愛らしくカテーシーでご挨拶です。
「おやおや、すっかりレディですわね。このような場では、伯父様・伯母様でもかまいませんよ」
王妃様は敢えて陛下との会話に割って入り、この場に堅苦しい礼儀は必要ないということを身を持って表現してくださいました。気配りの利くお優しい方です。
「はい、伯母様! お久しゅうございます」
お気遣いに答えるべく顔を上げて笑顔でお返事です。
「やっぱり、女の子は可愛いわねぇ」
「そうだな。ただ王女が生まれると他国へ嫁にやらねばならんから、淋しくなるのがな」
「そうねぇ。じゃあ、スカーレットがモルドレッドのお嫁さんになってくれたらいいのよ」
「そうだな、スカーレットのように愛らしくて聡明な子が王太子妃なってくれれば嬉しいものだが」
陛下と王妃様は私のことをよく可愛がってくださいます。これまでも時々このようなことを言われては、やんわりはぐらかしてきていました。
しかし王太子妃というのが含みがありますね。国王陛下としては、次期王妃になってほしいのであって、必ずしもモルドレッド第一王子の妻になってほしいというわけではないのでしょうか。
「兄上、他国の姫をもらわなくていいのですか?」
「まあ、もらった方が良いだろうな」
「まあ、そうですわね」
陛下と王妃様は残念そうにおっしゃいます。
「他国の姫は愛らしくないの?」
お二人は私が敬語を使わない方が喜ばれるので、最初と最後のご挨拶以外は普通にお話させていただいています。
「見た目は愛らしいぞ。中身は分からんがな」
「ゲイルマン帝国の姫は癇癪持ちらしいですな」
陛下の含みを持たせた言葉の意味に、お父様は私のために補足するようにおっしゃいました。
「ああ、らしいな。外交の場にはほぼ顔を出さんからあまり知られていないが」
「まあ。でも大きくなればお淑やかになられるかもしれませんわ」
お母様は私を嫁に出したくないので、適当にフォローを入れました。
「私、虐められそうだから側室は嫌です」
正妃が癇癪持ちで、私が側室なんてお断りです。凄い疲れそうです。
「そうかそうか。では正妃なら良いのかな?」
「会ったことないから、分かんない」
正直王妃なんて面倒くさいからやりたくはないのです。外交とか大変そうですし。
この穏やかで温かな日々はとても素晴らしいのですが、旅から旅の冒険者生活もまた楽しいものです。こちらには魔物なんていませんから、ただのバックパッカーですけど。
大公令嬢でも気軽に旅もさせてもらえませんから、王妃などより一層でしょう。
そう考えると貴籍剥奪くらいの結末は良いかもしれませんね。国外追放だと両親に会えませんし。
私は預言書説を支持しているのですが、そもそもの婚約を断ったら強制力とやらが発動するのでしょうか。
「私、世界を旅してみたいから、平民でいいの」
「おやおや、そんなことを言ってはいけないよ。スカーレット。
ノブレスオブリージュ。貴族は人民によってその生活をもたらされている。その分富を還元したり、人民の生活を安全で豊かな物にする努力をしなくてはならないのだよ。
お前も、お父様お母様に何かしてもらったら、自分も何かしてあげたくならないかな?」
がーん!
陛下の言葉に、雷に撃たれたような衝撃を受けました。
言われてみれば当たり前です。そんなこと知っていたはずなのに、冒険者で勇者な大公とノリで生きている王女に囲まれて生きていると貴族の意識というものが育たないのかもしれません。
私、自分とせいぜい両親のことしか考えてませんでした。なんと無責任なことでしょう。
恥ずかしくて悔しくて悲しくて、俯くと涙が零れ落ちました。
「泣かなくて良いのだ、スカーレット。まだお前は子供なのだから、これから学んでいけばよいのだ。
貴族は貴族に生まれたから貴族なのではなく、その責任を自覚し誇りを持って初めて貴族になるのだ。
お前は今日初めて貴族になったのだよ」
「うわーん! ごめんなさい、伯父様! わ、私・・・」
陛下は微笑んで私を優しく抱き上げてくれました。そしてその膝に私を座らせると、今度は王妃様が私の涙を拭ってくださいました。
お父様お母様も優しい微笑みでそれを見守っています。お母様の手にカメラが握られていなければもっと良かったのに。
ブレませんね、お母様。
さっきの陛下のお話聞いてました?
帰ったらプンプンですからね!
そこはカメラではなくハンカチを手にするところでしょう?
「貴族の責任と誇りを持った上で世界を旅したいなら、王太子の婚約者になると良い。
貴族として王太子妃として世界を外遊してくるが良い。
そして国々の絆を深め、得た知識を民に還元するのだ」
「あい!」
鼻声で元気よく返事してしまいました。
貴族の中の貴族の、正しく王たる陛下に心打たれていたので仕方ありませんが。
「まあ! スカーレットが私達の娘になってくれるなんて、素敵だわ!」
「ぐぬぬっ」
親馬鹿のお父様がぐぬぬしています。余程嫁に遣りたくないのでしょう。
婚約するつもりはなかったのですが、どうら先程のお返事が婚約了承ということになってしまったようです。
これも所謂強制力なのでしょうか。
「それも良いかもしれませんね。スカーレットが他国に嫁いだら、お母様淋しくて死んでしまうもの」
お母様は満更でもないご様子。
私も王族の端くれですから、他国に嫁ぐ可能性もなきにしもあらず・・・いや無いかな。親馬鹿両親がそんなに遠くに手離すハズがない。
お母様は異世界に嫁に来ていますから、ご両親と二度と会えなくなってしまいましたので、明日は我が身と考えていたのかもしれません。
そのうち帰省のために召喚魔法を改良させそうですが。大魔導師がいないと魔力が足らないと思いますけど。
それでも他国や異世界より近所の親戚の家の方が気軽に会えますから、王妃になるのはお母様にとっては悪くないのでしょう。
「では息子達に会ってやってくれるかな? 特にモルドレッドは人見知りでな。まだ会ったことは無かっただろう?」
「はい、伯父様」
「モルドレッドは向こうの花園にいるはずよ」
私はセーラと連れ立って花園に向かいました。
あ、王族のお茶会ですからしゃべっていませんでしたが、セーラも居たのですよ。
できる女風眼鏡美人クノイチ侍女という属性てんこ盛りのセーラは、私のボディガードを兼ねているのでこちらについて来ます。
向こうは勇者が居れば十分ですしね。
花園についても王子は見当たりません。キョロキョロ探していると、セーラの眼鏡がキラリと光りました。それ、何かのスキルですか? マンガみたいですけど。
「お嬢様、お気をつけください。認識阻害の術が掛けられています」
「えっ!? セーラそんなこと分かるの!? 魔法もないのに!?」
「ええ、侍女として当然です。私が知る術は忍術と呼ばれる東方の秘術ですが、これはそれとは別物のようです」
この人、やっぱりNINJAなんですね!?
ちょっと、それ私にも教えてください!
「ええ、もう少し体術が上達したら、勿論お教えしますよ。ですが、今は周囲の警戒を。一旦陛下のところへ戻りましょう」
その時、誰もいないはずの辺りから声が聞こえました。
認識阻害は一旦術が発覚すると効果が弱まるのです。
「・・・ちっ、雑魚が・・・」
そちらに意識を向けると居なかったはずのモルドレッド王子の姿が見えてきました。しかし、見えてきたのは王子だけではなかったのです。




