013
意外と異世界との距離感が近いことに驚く今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
私は勇者と王女様の娘として転生しましたが、二人とも転生を受け入れて愛情を注いでくれています。
もう少ししたら弟か妹が生まれるんですよ。前世では一人っ子でしたから楽しみです。そちらは弟か妹は生まれていませんか?
魔法が使えないのは残念ですけど、私は幸せに過ごしています。
先立った不孝をお許しくだされば幸いです。
お父さん、お母さんもご健勝にお過ごしください。
スカーレット
3歳児の拙い文字でしたためた手紙を、『スカーレット嬢を愛でる会』書記に託しました。異世界通信で送ってくれるそうです。便利ですね。消費魔力とか大丈夫なんでしょうか。
転生が世界的に告知されるという辱めを受けることにはなりましたが、気がかりだった前世の両親に手紙を書くことができたのは不幸中の幸いです。
数日の間、そんなこんなの現実逃避をしていましたが、仕方がないので現実に向き合うことにいたしました。
「お母様、本当に小説の世界じゃないの?」
「えっ? そうよ? 流石に小説の世界は無理があるのではないかしら」
「でも、小説でランスロットお父様とエリザベスお母様から生まれたスカーレットが悪役令嬢になるお話があったでしょ?」
小説の世界に転生した妄想バレは正直きつくて、なかなかこの件について聞くことができていなかったのです。
「それは何冊かありましたね」
「じゃあ、あり得なくもないと思うんだけど」
お母様は優しく微笑んで、私の髪を撫でてくれました。
「私の主観では魔王討伐から現在まで小説の世界に紛れ込んだつもりはないのですが、まあ、異世界ですからね。
この世界自体が、向こうの世界の小説の一つと同じもの、ということはありえるかもしれないわね。
どちらかというと、向こうの小説家が時空間魔法の素因を持っていて、無意識的にこちらの世界を察知して、自分の創作物のつもりになって書いているという方が可能性があるでしょう」
むむむっ、少々ややこしい話ですが、大賢者ですので分かりますよ。
「じゃあ、その小説の世界という訳ではなくて、その小説がこの世界の預言書にあたるということ?」
「さすが、私達のスカーレット。そういうことです。その可能性はかなり低いと思いますけど」
確かにその可能性は低いでしょう。3歳児の妄想の可能性の方が遥かに高いでしょう。私以外であったなら。
私はテンプレマスター。
異世界転生という想定外のテンプレまで踏襲したのです。異世界転生が乙女小説だったテンプレでないと言えるのでしょうか。
しかしながら、どうも勇者召喚辺りから、テンプレはテンプレでも、ことごとくテンプレ亜種になっているので、今回も小説転生亜種なのでしょう。
いつから乙女小説転生だと勘違いしていた?
みたいなことをテンプレ神様はドヤ顔していることでしょう。どうも脳内でテンプレ神様の姿がお母様で再生されます。
イラッときつつも、お母様だし仕方ないと思ってしまいます。これもテンプレマスターのテンプレ愛故になのでしょうか。
実際のところ小説転生でも、お母様の言うところの預言書という形であっても、テンプレマスターの制約に基づくならば、その小説がこの世界の運命を記載しているはずです。
伊達に十年以上テンプレマスターしてませんから、スキルが無くとも世界の流れを読むのには慣れています。
その小説の内容を詳しく憶えていないのが悔やまれます。
「その本ありますけど、読みたいかしら?」
「えっ? あるの?」
「ええ。言ったでしょう? 私も読んだと。
スカーレットちゃんの遺品は全て回収してご両親にお返ししましたが、愛読書だけは譲って頂いたのです。
私が勇者についてこちらの世界に転移することは公表されていましたし、私が『魔法少女スカーレットちゃんを愛でる会』会長であることもご両親はご存知でしたから、形見分けとしてくだされたのです」
「ギャー! なんで両親に見せちゃうの!?」
愛読書の恋愛小説やら乙女小説やらを両親に渡すとかどんな嫌がらせですか。
というか、死ぬ予定で処分したはずなのに! ランスロットか! ランスロットだな!? あのアホ勇者!
「えっ? ご両親というか、全人類に愛読書として公表されていますよ。『魔法少女スカーレットちゃんを愛でる会』によって」
碌なことしないな、その集団!
い、嫌すぎる。もう向こう世界には帰れません。
「セーラ、宝物庫から持って来てちょうだい」
宝物庫って! 普通書庫でしょ!?
「はい、奥様」
どうやらセーラのユア・グレースブームは終わったようです。ユア・グレースは余所行きの表現ですから、普段家の中では使いません。少なくとも我が家では。
「こちらです」
早っ! 早くないですか!? ドアの開く音しましたか? というか、いつ出て行ったのですか! いつ帰ってきたのですか!?
やはり、NINJAなのですね!?
侍女が暗殺スキル持ちというテンプレなのですねっ!?
できる女風残念侍女だけでも十分テンプレでしたが、実は暗殺者の過去ありテンプレでも乗っかっているのでしょうか。いちいち驚かされるのが難点ですが、嫌いじゃないですよ。
気を取り直して小説を見ていきます。
「これとこれとこれ、あとこれが条件にあうわね」
お母様が小説を取り分けてくれます。似たような話ばかりなのに、この人私より内容憶えているんですけど!
「お話全部憶えてるの!?」
「当然です。バイブル扱いですから」
「こ、怖いっ!」
「あらあら、うふふっ。スカーレットちゃんの思い出に浸るための小道具ですよ」
「バイブルとかいうのやめてください!」
「ごめんなさい。スカーレットが可愛いから、からかいたくなってしまうの」
酷いお母様です。プンプンです。でもプンプンしてるとお母様が喜んでしまうので、華麗にスルーです。
「ではこの四冊を読み直してみますね」
私のお澄まし顔に、お母様はちょっと残念そうでした。ふふふっ、やってやりました。
部屋で独りで読むつもりでしたが、お母様は私を膝の上に乗せ、本を手に取りました。
一緒に読んでいただけるようです。
自分で読めますのに、お母様ったらそんなことでは子離れできませんよ。嬉しいですけどね。
一冊は恋愛小説。平民の女性と第一王子の恋の物語で、スカーレットはライバル役です。悪役令嬢ではないですね。自ら婚約解消を申し出る高潔かつ清々しい人物で、嫌がらせなど全くしません。貴族に虐められる主人公を助けるくらいです。いいですね、これ。
一冊は乙女小説。平民の女性と第一王子の恋物語で、逆ハーレム状態でチヤホヤされまくり、悪役令嬢スカーレットが嫌がらせをしたり、吊し上げたり。最終的には階段から突き落としたのがバレ、殺人未遂で婚約破棄の上ギロチン。嫌ですね、これ。
一冊はざまぁ小説。乙女小説の悪役令嬢スカーレットに転生した少女が、腹黒主人公と第一王子の策略を悉く破り、第一王子は廃摘。スカーレットは第二王子と結婚。スカーレットが転生しているのはこれだけです。ありそうですね、これ。
最後の一冊は頭のおかしい小説。平民の女性のことを第一王子が一目惚れ。婚約者スカーレットを放置してひたすら主人公をストーカー。
実は主人公は異世界転生者で、魔法チートもちであり、王子とは知らずにストーカーを殺して川に突き落とします。他にも何人かストーカーやレイプ未遂犯など十人以上殺害。王子殺害を調査していたスカーレットも別の殺害現場に遭遇して殺されます。
また、王子の死体が発見されると、隣国の工作員による暗殺と勘違いされ戦争になります。なんだかんだで数国を巻き込んだ世界大戦に発展し、何ヶ国かは滅び人口が半減。王と王妃、大公夫人が亡くなります。
そこへ時空震が起こり、次元の割れ目から魔物が現れ世界の人口が最初の四分の一まで減少。ここで大公と第二王子も戦死。
最終的に主人公が魔法チートで魔物を滅ぼし次元の割れ目を修復して世界の覇王となる。
わけがわかりません。こんな本は読んだ覚えがありません。嫌すぎます。これ、私の本ではないと思うのですが。こういう憶えがないのに紛れ込んでいるものが預言書というのは、かなりテンプレの臭いがします。非常に危険です。
一番現状に即しているのは、ざまぁ小説ですが、こういうのは一番質の悪い物になるのがテンプレ。
しかし異世界転生としては、小説の展開を変えて都合の良い結末にしてこそテンプレ。
これは私の物語です。
いいでしょう。
このスカーレット・バイロンが、主役としてこの物語をハッピーエンドにしてみせます。
お父様もお母様も死なせはしません。
「お母様。絶対にお父様もお母様もセーラも、誰も殺させないわ」
運命を決めるのは私です。
こら、お母様!
『子供の妄想って可愛いわぁ』みたいな顔するのはやめてください!
プンプンですよ!




