ファッションショー
その頃、アレンは王妃に送った服へ着替えていく王妃のファッションショーを楽しんでいた。
「次はこれか」
マスタールームの画面に映る王妃を眺めながら、アレンは満足そうに頷く。
「やっぱり王妃様は綺麗だな」
アレンにとっては、それだけの時間だった。
冒険者が60階層へ到達したことも知らない。
王国が周辺国との緊張をさらに高めていることも知らない。
そして王国が、国内に流れ込んでくる金貨をどうにか国外へ戻そうとして苦労していることも知らなかった。
王国では、金貨の流入を抑えるための対策が進められていた。
ダンジョンから持ち帰られる宝石、武器、防具、魔道具。
それらを買い求めるため、周辺国から商人がやって来る。
商品を売れば、当然その代金として金貨が王国へ入ってくる。
しかも、一度入ってきた金貨は簡単には国外へ出ていかなかった。
そこで王国は、国外から魔石を買う量を増やすことにした。
「魔石ならいくらあっても困らない。国外から大量に購入すればいい」
魔石の需要は高い。
王国としても、魔石を安定して確保できるなら悪い話ではない。
周辺国から魔石を買い、その代金として金貨を支払う。
そうすれば、ダンジョンによって流れ込んだ金貨を国外へ戻せる。
最初はそう考えられていた。
ところが、実際に始めてみると問題が出てきた。
「魔石の輸入量は増えています」
「それでも金貨の流入量のほうが多いのか?」
「はい」
報告を受けた財務担当者は頭を抱えた。
魔石の輸入を増やした。
確かに金貨も国外へ出ていった。
だが、それ以上の金貨がダンジョン関連の商品を購入するために国外から入ってくる。
一方通行だった金の流れを循環させるつもりが、流入の勢いを止められない。
ならば、もっと輸入を増やせばいい。
そう考えてさらに魔石を買おうとする。
しかし、周辺国にも限界がある。
「魔石の供給量にも限度があります」
「こちらが買いたいだけ売ってくれるわけではないからな……」
さらに難しいのが、国内に入った金貨だった。
国外から商人が金貨を持ち込む。
その金貨でダンジョン産の商品を購入する。
商品を売った商人が金貨を手に入れる。
そして、その金貨は冒険者へ渡る。
冒険者はその金で武器を買い、宿に泊まり、食事をする。
武器屋や宿屋の主人は、その金を仕入れや給料に使う。
職人も材料を買う。
店も増える。
人が増えれば住宅も必要になる。
こうして金貨は王国内を何度も巡っていく。
「国外へ出す前に、国内で使われてしまう……」
王国が金貨を国外へ戻そうとしても、国内には金を使う場所が次々と増えていた。
さらに厄介なのは、ダンジョンそのものだった。
冒険者が稼ぐ。
商人が稼ぐ。
職人が稼ぐ。
宿屋が稼ぐ。
食料を売る者も稼ぐ。
それぞれがまた国内で金を使う。
ダンジョンが繁栄すればするほど、王国内で金が回る速度も上がっていく。
「魔石を買うだけでは足りないのか……」
対策を考える会議は何度も開かれた。
輸入品を増やす。
国外への投資を増やす。
周辺国から購入する商品の種類を増やす。
様々な案が出される。
だが、どれも決定打にはならない。
国外へ出ていく金貨は確実に増えている。
それでも、入ってくる金貨の量がそれ以上に多い。
王国が欲しいのは、経済を冷やすことではない。
ダンジョンの恩恵を失うことなく、偏りすぎた金の流れだけを調整することだった。
それが思った以上に難しい。
「ダンジョンがなければ、こんな問題も起きなかったのだがな」
誰かがそう呟く。
だが、その言葉に同意する者はいなかった。
ダンジョンがもたらした利益を手放すなど、今さら考えられない。
金貨が入りすぎる。
それでも、ダンジョンを止めるわけにはいかない。
王国はその矛盾を抱えたまま、対策を続けるしかなかった。
そして、その経済問題が解決しないまま、王国と帝国の決戦は少しずつ現実味を帯びていった。
そんな緊張が高まっていることも知らず、
「次はこれを着てもらおう」
アレンはまた王妃のもとへ服を送っていた。
今日もアレンにとっては、王妃のファッションショーが最重要事項だった。




