王国の危機回避
王妃は考えていた。
王国はダンジョンの恩恵によって、かつてないほど豊かになっている。
冒険者が稼ぎ、商人が稼ぎ、ダンジョンの周辺には新しい町まで生まれた。
しかし、豊かになればなるほど問題も生まれていた。
周辺国から王国へ金貨が流れ込み続けているのだ。
王国から国外へ金貨を出そうとしても、国内にはすでにダンジョンから様々な商品が供給されている。
鉄も銅もある。
装備もある。
生活用品や食料品まで手に入る。
酒についても国内の生産者を守るため、輸入を増やすのではなく、むしろ国内産の酒を国外へ輸出する方向で動いている。
王国には、欲しい物がない。
だから輸入を増やして金貨を国外へ流そうとしても、簡単にはいかなかった。
さらに周辺国との関係も悪化している。
そして帝国との緊張も高まっている。
王妃は腕を組んだ。
「……私たちだけで考えていても、解決策は見つからないのかもしれませんね」
ふと、王妃の頭に一人の存在が浮かんだ。
ダンジョンマスター。
人間とは異なる存在であり、長い年月を生きると言われている。
そして、このダンジョンをここまで発展させた存在でもある。
「もしかすると……」
王妃は近衛隊長を呼んだ。
「宝くじ箱へ向かいます」
「はっ」
「ダンジョンマスターに面会をお願いしたいのです」
近衛隊長は少し驚いたが、すぐに準備を整えた。
王妃は宝くじ箱の前まで行くと、書状を取り出した。
そこには、ダンジョンマスターと話をしたいという願いが書かれている。
書状を箱へ入れる。
これまで何度も不思議な出来事を見てきた王妃だったが、返事を待つ時間だけは少し緊張した。
しかし――
返事はすぐに返ってきた。
『ボス部屋にこい』
短い返事だった。
「……分かりました」
王妃は近衛隊長とともにボス部屋へ向かった。
そして王妃がボス部屋へ入る。
そこには巨大なドラゴンがいた。
「来たか」
「はい。本日はご相談がありまして」
王妃はこれまでの状況を一つずつ説明していった。
ダンジョンによって王国内はかつてない好景気になっていること。
周辺国から王国へ大量の金貨が流れ込んでいること。
王国としては輸入を増やして金貨を国外へ流したいこと。
しかし、ダンジョンから様々な商品が手に入るため、国内で欲しい輸入品が見つからないこと。
さらに、周辺国との関係が悪化していること。
そして帝国との緊張も高まっていること。
王妃は最後に、
「私たちは、貿易黒字の問題を解決する方法をまだ見つけられていません」
と告げた。
アレンはドラゴンの姿を借りながら話を聞いていた。
「そんなことになってるんだ……」
アレンは内心で驚いていた。
ダンジョンの中では冒険者が強くなり、町が発展し、攻略階層が伸びている。
その裏で、王国ではそんな問題まで起きていたらしい。
だが、アレンにとってはダンジョンマスターの仕事なのか疑問だった。
「それ、俺に相談することなのか?」
そう思った。
しかし目の前にいるのは王妃だ。
しかも、困った様子で自分に相談している。
「王妃様にお願いされたら断れないよな……」
アレンは少し考えた。
そして一つの方法を思いついた。
「周辺国に、王国から仕事を依頼すればいい」
「仕事……ですか?」
「そうだ」
アレンは続ける。
「国内のインフラ整備を、周辺国に発注するんだ」
王妃は黙って話を聞く。
「道路、橋、港、街道など、必要なものはいくらでもあるだろう。それを周辺国の企業や職人に依頼する」
「なるほど……」
王国が周辺国の商品を買うだけではなく、周辺国そのものに仕事を発注する。
その費用として金貨を支払えば、王国から周辺国へ大量の金が流れる。
しかも周辺国にとっては、自国のインフラが整備される。
王国に金が集まりすぎているという不満も、少しは和らぐ可能性がある。
「それなら、国内の生産者と競合することもありません」
王妃は納得した。
「そういうことだ」
アレンはそこで話を終えようとした。
だが、王妃がもう一つの問題を話していたことを思い出す。
帝国との緊張。
「帝国については……」
アレンは少し考える。
「国境まで行って、我が姿を見せればいいんじゃないか?」
「……ドラゴン様が、ですか?」
「そうだ」
アレンにとっては単純な話だった。
帝国が王国へ侵攻しようとして軍を動かす。
その国境に巨大なドラゴンが現れる。
帝国側からすれば、
「王国と戦う」
だけでは済まない。
「ドラゴンと敵対する」
ことになる。
そんな状況で、わざわざ王国へ攻め込もうとするのか。
「我が国境に立っていれば、帝国も簡単には動けないだろう」
「……確かに」
王妃は考え込んだ。
そして、やがて小さく頷いた。
「ありがとうございます」
「これくらいなら別にいいぞ」
アレンは軽く答えた。
自分が国際情勢に介入しているなど、あまり実感はなかった。
ただ、王妃に頼まれたから考えただけだ。
こうして王国は動き始めた。
周辺国にはインフラ整備の仕事が次々と発注され、王国から大量の金貨が流れていく。
周辺国側にも利益が生まれ、王国との経済的な結びつきが強くなっていった。
そして帝国との国境には、巨大なドラゴンの姿が現れた。
帝国軍は国境の向こうから、その姿を見上げる。
「……あれと戦うのか?」
誰も答えられなかった。
王国へ侵攻するという計画は、急速に現実味を失っていった。
こうして、王国が抱えていた危機は少しずつ解消へ向かっていった。
その頃。
アレンはというと――
「王妃様、次はこれを着てくれないかな」
再び王妃へ服を送っていた。
自分の何気ない助言が、王国の経済と外交を大きく動かしていることなど、アレンはまったく気にしていなかった。




