帝国の戦略
帝国と王国の関係は、以前から良くなかった。
国境では定期的に小競り合いが起きている。
そして帝国は過去にも何度となく王国へ侵攻していた。
帝国の国力は王国を上回っている。
兵力も多く、国土も広い。
それでも、帝国は王国を占領できずにいた。
理由は単純だった。
攻める側と守る側では、守る側のほうが有利だからだ。
王国は自国の地形を熟知している。
兵站も短く、砦も整備されている。
帝国軍が国境を越えて進軍すれば、その分だけ補給が難しくなる。
これまでの侵攻でも、帝国軍は王国軍を押し込むことはできても、王国を完全に屈服させるところまでは到達できなかった。
「正面から攻めても、また同じ結果になる」
帝国では、そう考えられていた。
ならば、正面から戦わなければいい。
帝国が目をつけたのが、王国の周辺国だった。
周辺国はどこも小国だった。
王国にも帝国にも対抗できるほどの軍事力はない。
そのため、これまでは中立を維持してきた。
しかし、状況が変わり始めていた。
王国の経済が急速に成長したことで、周辺国から王国へ金貨が流れ続けている。
王国の商品は魅力的だ。
だからこそ買ってしまう。
だが、売る側にとっては、金貨が戻ってこないことが問題になっていた。
帝国は、その不満を見逃さなかった。
「王国との交易によって、金貨が流出している」
「このままでは王国に経済を握られる」
帝国は各国へそうした話を広めた。
さらに、周辺国への支援も始めた。
食料を送る。
武器を提供する。
軍事顧問を派遣する。
表向きには友好国への支援だった。
しかし、その目的は明白だった。
王国の周囲に帝国の味方を増やすこと。
そして必要になれば、王国軍を分散させること。
国境の一か所だけを守ればいいなら、王国軍は防衛に集中できる。
しかし複数の国が同時に動けば話は変わる。
王国は国境のあちこちへ兵を配置しなければならない。
帝国はそこを狙っていた。
「帝国軍だけで王国を攻める必要はない」
帝国では、そんな考えが広がっていた。
「周辺国を巻き込めばいい」
帝国が目指しているのは、単純な同盟ではなかった。
王国を取り囲む連合軍の結成だった。
周辺国が王国に対して一斉に兵を動かせば、王国軍は防衛のために兵力を分散させる。
そこへ帝国軍が攻め込む。
これまで何度も王国を攻めながら占領できなかった帝国が、今度は周辺国を利用して王国の防衛体制そのものを崩そうとしていた。
しかし、周辺国にも簡単には決められない事情がある。
王国につけば、帝国を敵に回すことになる。
帝国につけば、王国を敵に回す。
どちらにしても、自国だけでは対抗できない。
「本当に帝国が勝つのか?」
「分からない」
「王国が勝ったらどうする?」
「それが問題だ」
周辺国の首脳たちは慎重になっていた。
帝国の国力は上。
だが、帝国は過去に何度も王国へ侵攻して、それでも占領できていない。
王国には防衛側としての強みがある。
だからこそ、周辺国は簡単に帝国側へつくこともできなかった。
どちらが勝つのか。
どちらにつけば自国が生き残れるのか。
それを見極めなければならない。
王国側も、そんな周辺国の変化を感じ始めていた。
そしてダンジョンに住む王妃も、その空気を感じ取っていた。
「帝国は、周辺国を集めようとしている……」
王妃は報告書を読みながら呟いた。
単なる経済問題ではなかった。
王国の輸出が増え、周辺国から金貨が流出している。
その不満を帝国が利用している。
さらに帝国は支援と陽動によって、少しずつ周辺国を自分たちの側へ引き寄せている。
「このままでは、王国が孤立してしまいますわ」
王妃は険しい表情で報告書を閉じた。
王国は豊かになった。
ダンジョンによって国力も上がっている。
だが、その繁栄が周辺国との関係を難しくしているのも事実だった。
そして帝国は、その隙を見逃していない。
これまで正面から王国を攻めても勝ち切れなかった帝国が、今度は戦い方を変えようとしていた。




