周辺国の様子
王国の経済は順調だった。
ダンジョンからもたらされる品々は国内だけでなく、国外でも高い需要があった。
宝石、武器、防具、魔道具。
さらにダンジョン周辺で生産される様々な商品も加わり、王国から国外へ出ていく商品の量は以前とは比較にならないほど増えていた。
「今月も輸出額が過去最高を更新しました」
財務を担当する者から報告を受けた王は、満足そうに頷いた。
「そうか。王国が豊かになるのは良いことだ」
実際、王国の税収も増えている。
商人たちも儲かっている。
ダンジョン周辺の町は急速に発展し、王国内の経済は活気に満ちていた。
しかし、一つ大きな問題があった。
「陛下……」
財務官が言いにくそうに口を開く。
「どうした?」
「輸出に対して、輸入が少なすぎます」
「……」
王の表情が変わる。
王国は大量の商品を周辺国へ売っている。
しかし、周辺国から王国へ入ってくる商品の量が少ない。
つまり、周辺国から王国へ金貨が流れ続けている。
商人たちは王国の商品を買う。
金貨を支払う。
その金貨が王国へ入ってくる。
ところが王国側が買うものが少ないため、金貨が周辺国へ戻っていかない。
結果として――。
「周辺国から金貨が流出し続けています」
これは王国にとっては好景気でも、周辺国にとっては頭の痛い問題だった。
「こちらとしては、商品を売っているだけなのだがな」
「その通りです」
財務官も困った顔をする。
「王国側から輸入を増やそうとしても、そもそも周辺国の商品で必要なものが少ないのです」
「……難しい問題だな」
王は頭を抱えた。
経済が悪いわけではない。
むしろ良すぎる。
だからこそ簡単には解決できない問題だった。
そして、この問題は単なる経済問題では終わらなかった。
王国と帝国は昔から仲が悪い。
国境付近では、定期的に小競り合いが起きている。
全面戦争にまで発展することは避けられていたが、両国の関係が良好とは到底言えなかった。
そんな中、王国周辺の中立国に変化が起き始めていた。
「帝国との交易を増やす国が増えております」
「……そうか」
王は険しい顔をする。
中立を維持していた国々が、少しずつ帝国側へ傾き始めている。
経済的な不満だけではない。
帝国は各地で王国への批判を繰り返していた。
「王国は周辺国から富を吸い上げている」
「王国の商品によって周辺国の金貨が失われている」
「このままでは周辺国の経済が王国に支配される」
帝国はそうした主張を各国へ広めていた。
もちろん王国側にも言い分はある。
商品を買うかどうかは各国が決めることだ。
王国が無理やり商品を売りつけているわけでもない。
それでも、金貨が一方的に流出しているという事実は変わらない。
不満を抱く国にとって、帝国の主張は利用しやすかった。
王国と帝国の緊張は、かつてないほど高まっていた。
その空気を、ダンジョンに住む王妃も感じ取っていた。
王妃は王城にいた頃よりも、むしろ現在のほうが各国の商人や外交関係者と接する機会が増えていた。
バスの運行を任されていることもあり、ダンジョンと町を行き来する人々の話も自然と耳に入ってくる。
「最近、周辺国の商人の方々の雰囲気が変わりましたわね……」
以前なら、王国の商品を買えることを喜んでいた。
ところが最近では、王国の商品を絶賛しながらも、どこか複雑そうな顔をする者が増えている。
「王国の商品は素晴らしい」
そう言いながら、
「しかし、我が国から金貨が出ていく一方なのです」
とこぼす。
王妃はそれを聞くたびに、胸の奥に嫌なものを感じていた。
王国は豊かになっている。
ダンジョンも発展している。
冒険者も増えている。
町も大きくなっている。
それなのに、その繁栄が周辺国との関係を悪化させている。
「このままでは……」
王妃は一人、屋敷の窓からダンジョン内の町を眺めていた。
町は今日も活気に満ちている。
冒険者が歩き、商人が店を開き、バスが人を運んでいる。
誰もが、この町の未来は明るいと思っている。
だが、その町の外では、王国を取り巻く空気が少しずつ変わり始めていた。
帝国との関係。
周辺国の不満。
流出し続ける金貨。
そして、帝国による王国批判。
王妃は静かに息を吐いた。
「外交というものは、本当に難しいですわね……」
王国はかつてないほど豊かになっていた。
同時に、かつてないほど危うい状況にも近づいていた。




