監察官
「アレン、見て。いかにも強そうな人が来てるよ」
「本当だ。何が目的か観察しよう」
ダンジョンの入り口に、一人の冒険者が立っていた。
装備はしっかりしている。
武器の手入れも行き届いているし、周囲を警戒するような視線にも慣れがある。
初心者冒険者には見えない。
「強そうだね」
「どう見ても初心者じゃないよ」
アレンはその冒険者を眺めながら考える。
「でも、どうしてうちのダンジョンに来たんだろう?」
すると、コアが答えた。
『ギルドの監察官だよ』
「監察官?」
『今回のダンジョンの変化を確認するために派遣されたみたい』
「なるほど」
アレンのダンジョンでは、最近になってモンスターの行動パターンが変わった。
一階と二階のモンスターは逃げるようになり、三階のモンスターは冒険者を襲う。
さらにガチャまで設置されている。
初心者向けのGランクダンジョンとして問題がないのか。
ギルドが確認しに来ても不思議ではない。
監察官は入り口を通り、ダンジョンの中へ入っていった。
一階。
最初に現れたモンスターは、監察官を見るなり逃げ始めた。
「……逃げるのか」
監察官は追いかける。
モンスターとの距離が少しずつ縮まっていく。
だが、ある程度まで近づくとモンスターは方向を変えた。
「なるほど」
監察官も進行方向を変える。
モンスターが逃げる。
監察官が追う。
そして、逃げ道を塞ぐ。
「これなら初心者でも、ただ殴るだけでは倒せないな」
監察官はモンスターの動きを見ながら追い詰めていく。
モンスターが逃げ場を失ったところで攻撃する。
「よし」
モンスターを倒した。
監察官は魔石を拾い上げる。
「モンスターの強さは変わっていない」
次のモンスターも逃げた。
「やはり行動パターンだけが変わっているのか」
監察官は何体か倒しながら、一階を進んでいく。
そして二階へ。
二階でもモンスターは逃げた。
「ここも同じか」
監察官は追いかける。
逃げるモンスターを追い詰める。
途中で別のモンスターが向かってくることもある。
その場合は迎撃する。
「逃げるモンスターと、向かってくるモンスターがいる……」
監察官は戦いながら考える。
「行動パターンには変化があるが、攻撃力や耐久力が上がっているわけではない」
一通り確認を終えると、監察官は頷いた。
「難易度に変化はないな」
アレンはその言葉を聞いて安心する。
「ちゃんと確認してくれてるね」
監察官はさらに進んだ。
すると、二階の途中でガチャを見つけた。
監察官が足を止める。
「これが噂のガチャか」
少しだけ興味を示した。
だが、ガチャの横に必要な魔石の数が書かれている。
監察官は手持ちの魔石を確認した。
まだ必要数には届いていない。
「……時間がもったいないな」
監察官はガチャを諦め、そのまま先へ進んだ。
『アレン、ガチャを回してもらえないよ』
コアが残念そうに言う。
「まあ、監察官だからね」
『せっかくガチャを置いたのに』
「大丈夫だよ」
アレンは笑う。
「先に進めば自然にガチャを回せるだけの魔石が手に入るから」
『そうなの?』
「三階まで来ればね」
アレンは監察官の進む先を見つめた。
「心配ないよ」
監察官は二階を抜け、三階へ到着する。
そして三階に入った瞬間。
モンスターが監察官に向かって襲いかかった。
「来たか」
監察官は身構える。
一階と二階では逃げていたモンスターが、三階では明確に襲ってくる。
監察官は攻撃をかわし、反撃する。
一体。
二体。
次々とモンスターを倒していく。
「この階は今まで通りだな」
監察官にとっては、こちらの方がむしろ慣れた戦いだった。
逃げる敵を追いかけるより、向かってくる敵を倒す方が早い。
監察官は順調に三階を進んでいく。
そして、ガチャの前へ到着した。
「……魔石が七個か」
監察官は手持ちの魔石を確認する。
三階のガチャに必要なのは四個。
一回分は十分にある。
「せっかくだ。一回くらい回してみるか」
監察官は魔石を四個投入した。
ガチャが回る。
カラカラカラ……。
そして、景品が落ちてきた。
「水か」
監察官は水を手に取る。
最初は少し拍子抜けした。
しかし、ここまで歩いてきたことで喉が渇いていた。
「……ちょうどいいな」
その場で水を飲む。
「うまい」
ただの水だ。
だが、今の監察官にとってはありがたい。
空になった容器を見て、監察官はもう一度手持ちの魔石を確認した。
「三個残っているな」
そして、周囲を見る。
三階にはモンスターがいる。
「あと一体倒せば……」
監察官はガチャを見る。
「もう一回引けるのか」
アレンはその様子をじっと見ていた。
「……」
監察官は少し考える。
調査が目的だ。
別にガチャを何度も回す必要はない。
だが、一回回してみた。
水だった。
そして、その水がちょうど役に立った。
「もう一回くらいならいいか」
監察官は武器を構えた。
「一体倒して魔石を手に入れよう」
監察官がモンスターを探して歩き始める。
『アレン……』
コアが呟く。
「うん」
『回してくれるよ』
「そうだね」
アレンは嬉しそうに笑った。
最初はガチャを無視した監察官。
しかし、一度回して景品を手に入れたことで、もう一度回す理由が生まれた。
しかも必要なのは、あと魔石一個。
「作戦通りだね」
アレンは監察官を眺めながら呟いた。
ダンジョンに長く滞在してもらう。
モンスターを倒してもらう。
魔石を集めてもらう。
そして、ガチャを回してもらう。
その繰り返しが、少しずつ始まっていた。




