ガチャの噂
最初にダンジョンの変化に気づいた冒険者パーティーは、そのことを誰にも話さなかった。
自分たちだけが知っている情報なら、それだけで有利になる。
ところが、二組目の冒険者パーティーは違った。
「おい、魔石が五個たまったぞ!」
「二階なら五個でガチャを回せるんだったな」
「一回やってみようぜ」
二人がガチャの前に立つ。
魔石を投入すると、ガチャからカランと音がした。
出てきたのは手鏡だった。
「やべえぞ、これ」
「こんな綺麗な鏡、見たことないぞ」
「これなら金貨で売れるんじゃないか?」
二人は手鏡をひっくり返したり、表面を覗き込んだりしている。
「もう一回回してみようぜ」
その後も魔石を集め、二人は何度かガチャを回した。
手鏡が出ることもあれば、水が出ることもあった。
「今度は水か」
「ハズレか?」
「いや、水なら普通に使えるだろ」
さらに回すと、今度は石鹸が出てきた。
「なんだこれ?」
「石鹸だろ。使えば分かる」
保存食が出てきたこともあった。
「食料まで出るのか」
「本当に何が出るか分からないんだな」
当たりのような物もあれば、水や食料のように普通に使える物もある。
それでも、何が出てくるか分からないということが、二人を夢中にさせていた。
「次は何が出るんだろうな」
「魔石が集まったら、また回そうぜ」
その様子をアレンは眺めていた。
一階のガチャは魔石十個。
二階のガチャは魔石五個。
二階なら、一階の半分の魔石でガチャを回せる。
「まずはガチャを引いてもらって、リピーターになってもらわないとな」
ガチャを回すためには魔石が必要になる。
魔石を集めるにはモンスターを倒す必要がある。
そしてモンスターを倒している間、冒険者はダンジョンに滞在する。
滞在時間が長くなれば、それだけダンジョンの収入も増える。
アレンにとって、ガチャは収入そのものではない。
冒険者をダンジョンに長く滞在させるための仕掛けなのだ。
だが、この変化を最初に知った冒険者たちは、誰にも話さなかった。
二組目の冒険者たちは違った。
ダンジョンから戻ると、そのままギルドへ向かった。
そして、手鏡を取り出した。
「聞いてくれよ! あの初心者ダンジョン、ガチャがあるんだぞ!」
「ガチャ?」
「そうだ。魔石を入れると、いろんな物が出てくるんだ」
「いろんな物って?」
「俺たちは手鏡が出たんだ!」
「手鏡?」
周囲の冒険者たちが集まってくる。
「見てみろよ。こんな綺麗な鏡、見たことないだろ?」
「確かに綺麗だな」
「しかも、それだけじゃないぞ」
「他にも出たのか?」
「ああ。水も出たし、石鹸も出た。保存食が出たこともある」
「本当に何でも出るのか?」
「何が出るかは分からない。でも、だからこそ面白いんだ」
「魔石はどれくらい必要なんだ?」
「二階なら五個だ」
「五個でこれが出る可能性があるのか?」
「そういうことだ」
手鏡を見せながら話す二人の周囲に、さらに冒険者が集まってくる。
「初心者ダンジョンって、弱いモンスターしかいないんだろ?」
「そうだ。だから戦闘の練習にもなる」
「それでガチャまであるのか?」
「俺たちも最初は知らなかったんだよ」
二人の話を聞いた冒険者たちは、次々と興味を示していった。
噂はその日のうちに広がった。
翌日。
ダンジョンには、これまでより多くの冒険者が訪れるようになった。
もともと初心者冒険者は、アレンのダンジョンで戦闘経験を積みながら、薬草採取やポーターの仕事で金を稼いでいた。
アレンのダンジョンだけでは、生活できるほど稼げなかったからだ。
しかし、状況が変わった。
「ここなら稼ぎながら戦闘の練習もできるぞ」
「しかもガチャで何が出るか分からない」
「手鏡が出たって話も本当らしいぞ」
「じゃあ、今日はここにしよう」
さらに、まだ正式な冒険者になる前の冒険者見習いまでやって来るようになった。
薬草採取やポーターの仕事をするより、ここでモンスターと戦いながら魔石を集めたほうがいい。
そう考える者が増えたのだ。
「いい流れが来ているな」
アレンは、増えていく冒険者たちを見ながら手応えを感じていた。
ダンジョンに人が来る。
戦う。
長く滞在する。
ガチャを回す。
そして、また来る。
アレンのダンジョンは、少しずつ冒険者たちにとっての「稼ぎながら鍛えられる場所」へと変わり始めていた。




