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ガチャの魅力

三階に入った瞬間だった。


「グルルル……」


それまで逃げていたモンスターとは明らかに違う。


三階のモンスターは、四人の姿を確認すると、一斉にこちらへ向かってきた。


「え?」


先頭を歩いていた冒険者が固まる。


「う、うわあああ!」


「なんでこいつら襲ってくるんだ!」


「聞いてないぞ!」


四人は慌てて武器を構えた。


だが、これまで一度もまともな戦闘をしていない。


一階ではモンスターが逃げた。


二階でもモンスターが逃げた。


追いかけることはあっても、追いかけられることはなかった。


「こっちに来るぞ!」


「分かってる!」


「どうすればいいんだ!」


「俺に聞くな!」


モンスターが飛び込んでくる。


四人は慌てて攻撃する。


しかし、タイミングが合わない。


一人が前に出れば、別の一人が下がる。


後衛はどこに立てばいいのか分からない。


「邪魔だ!」


「そっちこそ!」


「そんなところに立つな!」


「無理だって!」


なんとか一体を倒したものの、四人は息を切らしていた。


「……やばい」


「何が?」


「俺たち、戦い方を知らない」


「今さら気づいたのかよ!」


目の前には、まだ複数のモンスターがいる。


「一度戻るぞ!」


「戻るって、二階にか?」


「ああ。ここで戦うより、二階のモンスターを相手に戦闘の練習をした方がいい」


四人は急いで三階から引き返した。


その様子を見ていたアレンは、思わず笑った。


「いきなり襲われて焦ってるな」


「一階と二階で戦闘訓練を積んでいませんからね」


「そうだな」


「これなら三階まで来た意味がありましたね」


「うん。予想以上だ」


四人は二階に戻ると、今度は逃げるモンスターを追いかけ始めた。


「待て!」


「左右から回り込め!」


「そっちに追い込め!」


今度は先ほどより動きがいい。


モンスターが逃げることを利用して、四人で挟み込む。


一人が追い込み、二人が左右から逃げ道を塞ぎ、最後の一人が攻撃する。


「やった!」


「今の連携、よかったぞ!」


「もう一匹いくぞ!」


さっきまで三階で慌てていた四人とは思えない。


少しずつだが、戦い方を覚えていく。


アレンはその様子を眺めながら、別のことを考えていた。


「まずはガチャを引いてもらって、リピーターになってもらわないとな」


このダンジョンでは、冒険者の滞在時間が収入になる。


一度来た冒険者が長く滞在してくれれば、それだけ収入が増える。


さらに、また来てくれれば、そのたびに収入が発生する。


そのためには――


「また来たいと思ってもらう必要がある」


アレンがそう考えていると、


「おい!」


二階を探索していた冒険者の一人が叫んだ。


「魔石が五個たまったぞ!」


「本当か?」


「ガチャが回せる!」


四人は先ほど見つけたガチャの前へ走っていった。


「五個で一回だよな?」


「そう書いてある」


「じゃあ、やってみようぜ」


「何が出るんだろうな」


四人が魔石を投入する。


ガチャが動き出した。


ゴトン。


何かが落ちてくる。


「出たぞ!」


一人が取り出す。


「……手鏡?」


小さな手鏡だった。


「なんだ、鏡かよ」


最初は少しがっかりした。


だが、手鏡を手にした冒険者が鏡を覗き込む。


「……ん?」


「どうした?」


「やべえぞ、これ」


「何がだよ」


「こっち来て見てみろ」


仲間が覗き込む。


「……なんだこれ」


「めちゃくちゃ綺麗じゃないか」


鏡には、今まで使っていた鏡とは比べものにならないほど鮮明に顔が映っている。


歪みもほとんどない。


肌や髪まで細かく確認できる。


「こんな綺麗な鏡、見たことないぞ」


「貴族が使ってる鏡でも、こんなの見たことない」


「これ、売ったらいくらになる?」


「分からないけど……」


一人が真剣な顔で手鏡を見る。


「金貨で売れるぞ」


「マジか?」


「これなら絶対売れる」


四人の空気が変わった。


さっきまでガチャは、ダンジョンに置かれた変な設備だった。


だが、一度回してみれば違う。


たった五個の魔石で、こんな物が手に入る。


「もう一回やりたいな」


「でも魔石が足りない」


「じゃあ、集めればいいだろ」


「そうだな」


四人は顔を見合わせる。


「もう少し二階で狩っていこうぜ」


「三階に行くんじゃなかったのか?」


「……ガチャをもう一回やってからでいいだろ」


「それもそうだな」


本来なら、初心者ダンジョンを五日程度で攻略して、次のダンジョンへ進むつもりだった。


ところが今は、


「もう一度ガチャを回したい」


という理由で、二階に留まっている。


アレンはその様子を見ていた。


「よし」


思わず笑みがこぼれる。


「これならリピーターになってくれそうだな」


冒険者が長く滞在すれば、ダンジョンの収入も増える。


しかも、二階では魔石五個でガチャを一回回せる。


ガチャ自体は等価交換だが、冒険者がガチャを目当てに戦闘を続けてくれるなら、それだけ滞在時間が伸びる。


「三階まで行かなくても、二階で十分楽しんでくれるなら、それはそれでいいか」


アレンは満足そうにダンジョンを眺めた。


その頃、最初にやって来た冒険者パーティーも一階でガチャを回していた。


「また回してるな」


アレンが見ると、一階のガチャから景品が出てくる。


「ポイントは入るからいいけど……」


一階の魔石は一個十円相当。


一回のガチャには十個必要だ。


つまり十体倒せば一回回せる。


一方、二階の魔石は一個二十円相当。


五個倒せば一回回せる。


「二階なら五匹倒せばガチャを引けるのに」


アレンは思った。


一階で十匹倒すより、二階で五匹倒した方が効率がいい。


「まあ、本人たちが楽しんでるならいいか」


最初のパーティーは一階のガチャを気に入っている。


二組目のパーティーは、二階のガチャに夢中になり始めている。


アレンはダンジョンの管理画面を眺めながら考えた。


「ガチャを目当てに来る冒険者が増えたら、もっと儲かるな」


最初は、どうすれば冒険者を長く滞在させられるかだけを考えていた。


しかし今は違う。


「どうすれば、また来たいと思ってもらえるか」


その答えが、少しずつ見えてきていた。

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