二組目の挑戦者
「冒険者の滞在時間が延びたが、どのくらい黒字なんだ?」
アレンが尋ねた。
「四人しか来ていませんので、僅かですよ」
「そうか。次は人数を増やすことを考えた方がいいな」
最初にやって来た四人の冒険者は、誰にもダンジョンの変化を伝えていなかった。
だが、ここは初心者ダンジョン。
一度攻略した冒険者が次のダンジョンへ向かうため、定期的に新しい冒険者がやって来る。
そして今日、ついに二組目の冒険者が現れた。
「ついに俺たちも冒険者だな!」
「初心者ダンジョンは、早いパーティーなら五日もあれば攻略するらしいから、早くここを抜けたいぜ」
「こんなおいしくないダンジョンをクリアしないと、次のダンジョンに挑戦させてもらえないなんてルール、なくしちゃえよ」
「モンスターは弱いし、怪我しない程度の罠があって練習にはちょうどいいって言われてるもんな」
「よし、着いたぞ。行くぞ!」
四人はダンジョンへ入っていった。
しばらく進むと、モンスターを発見する。
「なんだ?」
だが、モンスターはこちらへ向かってこない。
「敵が向かって来ないぞ」
「追い詰めないと倒せないのか?」
「モンスターとのポジショニングを学ばせられてるのか?」
「聞いてた話と違うぞ」
四人は戸惑いながらも、モンスターを追いかけて進んでいく。
ようやくモンスターを倒せそうになったところで、モンスターはさらに逃げていった。
「……逃げるだけなのか?」
「とりあえず先に進もう」
結局、四人はほとんど戦闘をすることなく進んでいった。
「ようやく次の階に行けるぞ」
階段の近くに、何かが置かれている。
「なんかあるぞ」
そこには大きく『ガチャ』と書かれていた。
「ガチャって書いてあるな」
「魔石がいるみたいだぞ」
必要な魔石の数を確認する。
「十個か」
「寄り道してないから、十個も集まってないぞ」
「とりあえず次の階を見てみるか」
四人はガチャを回さず、そのまま二階へ進んだ。
「おい、この階の敵も逃げるぞ」
二階のモンスターも、一階と同じように冒険者から逃げていく。
「先に進むぞ」
「敵と戦わなくて済むなら楽だな」
「いや、収入がないぞ」
「……たしかに」
四人はそのまま先へ進んでいく。
「次の階に行けるぞ」
そして二階にもガチャが置かれていた。
「またガチャがあるぞ」
「このガチャは五個で回せるのか」
「でも、五個も集まってないぞ」
「三階を見てから考えるか」
四人は二階のガチャも回さず、三階へ向かった。
その様子を見ていたアレンは、少し考えていた。
「冒険者がガチャを回さず、敵とも戦わないパターンもあるのか」
「どうするんですか?」
「魔石すら手にしてないから赤字にはならないが……」
アレンはダンジョンの収支を確認する。
冒険者が滞在している間は、ダンジョンに収入が入る。
だから赤字ではない。
しかし、敵と戦わずに進まれると、滞在時間は短くなる。
その結果、収入も僅かしか増えない。
「面白くないな」
アレンはガチャの設定を確認する。
一階の魔石は一個十円相当。
ガチャを回すには十個必要なので、百円分の魔石で百円相当の景品が出る。
二階の魔石は一個二十円相当。
必要なのは五個なので、こちらも百円分。
そして三階の魔石は一個三十円相当。
「三階は四個でガチャが回せる」
三十円の魔石が四個。
合計百二十円分だ。
しかし、ガチャから出るのは百円相当。
「三階は一回回されるたびに二十円、こっちが得するんだよな」
「そうですね」
アレンは少し考える。
「一階は十個、二階は五個、三階は四個。三階だけ端数が出る」
「はい」
「だったら、その二十円を冒険者に還元しよう」
「還元?」
「三階では敵が襲いかかるようにする」
これまでの階では、モンスターは冒険者から逃げていた。
そのため、冒険者は完全に油断している。
「敵が襲ってくれば、冒険者は戦うしかない」
「でも、それでは魔石が発生します」
「それでいい」
モンスターを倒されれば、ダンジョン側には支出が発生する。
だが、冒険者が魔石を手に入れれば、その魔石で三階のガチャを回せる。
そしてガチャ一回につき二十円分、ダンジョン側に余剰が発生する。
「端数で得した分を、冒険者に返すんだ」
アレンは笑った。
「その代わり、戦ってもらう」
さらに戦闘になれば、冒険者の滞在時間も延びる。
滞在時間が延びれば、それだけダンジョンの収入も増える。
「これなら悪くない」
アレンは三階のモンスターを設定した。
そして三階へ進んだ冒険者たちを眺める。
「敵が襲って来なかったので、油断しきってるね」
「どうなるでしょうか?」
「三階のガチャは回すだろうから、冒険者がどう判断するかだね」
アレンは冒険者たちが三階へ入るのを待った。
次の瞬間――。
今まで逃げていたモンスターとは違い、三階のモンスターが四人へ向かって走り出した。




