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滞在時間の延長策

アレンはダンジョンコアに尋ねた。


「魔物の行動パターンって変更できる?」


『可能です。なぜでしょうか?』


「魔物って、冒険者を見つけたら向かってくるだろ?」


『はい。それが通常です』


「それを逆にする。冒険者を見つけたら逃げるようにするんだ」


『逃げる、ですか?』


「そう。今のままだと、冒険者が魔物を見つけて倒すまでが早すぎる」


アレンは少し考えてから続けた。


「魔物が逃げれば、冒険者は追いかけることになる。逃げた魔物を探して、追い詰めて、倒す。今までより一匹倒すのに時間がかかる」


『なるほど……』


「そうすれば、同じ時間でも倒せる魔物の数が減る。つまり魔石が集まる速度も遅くなる」


『ですが、それでは冒険者が得られる魔石が減ってしまいます』


「そこが狙いだ」


アレンは笑った。


「ガチャを回すには魔石が10個必要なんだろ?」


『はい。魔石10個で一回です』


「なら、魔石がなかなか集まらなければ、冒険者はガチャを回すために長くダンジョンにいることになる」


『……!』


「魔石がすぐ10個集まるなら、すぐガチャを回して帰られる。でも、魔物が逃げれば10個集めるまでに時間がかかる」


『つまり、冒険者の滞在時間を延ばすわけですね』


「そういうこと」


『面白い発想です。魔物は冒険者に向かってくるものだと思っていました』


「俺も最初はそう思ってた。でも、ダンジョンを運営する側から考えれば、冒険者が長く滞在してくれたほうが都合がいい」


『では、魔物の行動を変更します』


こうして、ダンジョンの魔物は冒険者を見つけると逃げるようになった。


     ◇


その日。


四人組の冒険者パーティーがダンジョンに入っていた。


「今日も魔石を集めるぞ」


「ガチャを回すには魔石が10個必要だからな」


「昨日は一回しか回せなかったけど、今日はもっと回したい」


「いい物が出るかもしれないしな」


四人は順調にダンジョンを進んでいた。


やがて、一匹の魔物を発見する。


「いた!」


一人が武器を構えた。


しかし――


魔物は冒険者たちを見ると、突然逃げ出した。


「え?」


「逃げたぞ!」


「待て!」


四人は慌てて追いかける。


魔物は通路を曲がり、さらに奥へと走っていく。


「こいつ、速いな!」


「追い込め!」


四人で囲むようにして、ようやく魔物を追い詰める。


そして、なんとか倒した。


魔物のそばには魔石が落ちていた。


「魔石一個だな」


「今までならもっと簡単に倒せたのに……」


「でも魔石は手に入った」


「なら次だ!」


四人は再び進んだ。


しかし、次に出会った魔物も逃げた。


その次も。


さらにその次も。


魔物を見つけるたびに追いかける。


逃げる魔物を追い詰める。


そしてようやく倒す。


そのたびに魔石が一個落ちる。


「疲れるな……」


「魔石10個集めるだけでも、かなり時間がかかるぞ」


「でも、ガチャを回したい」


「そうだな。せっかくここまで来たんだ」


四人はダンジョンを進み続けた。


魔物を倒し、魔石を拾う。


また魔物を倒し、魔石を拾う。


そうして長い時間をかけて、四人の魔石は10個、20個と増えていった。


そして――


「やっと40個だ!」


「40個ならガチャを4回回せるぞ!」


「一人一回だな」


「よし、行こう!」


四人は魔石40個を持って、次の階層へ続く階段までやってきた。


その階段の前には、あのガチャが置かれている。


「今日もあるな」


「これ、俺たち以外に知ってる奴いるのかな?」


「さあな。でも、まだ誰にも言ってないだろ?」


「言ってない」


「なら、このまま秘密にしておこう」


四人にとっては、他の冒険者に知られれば自分たちがガチャを回せなくなるかもしれない。


少なくとも今は、秘密にしておきたかった。


「じゃあ、まず10個」


一人が魔石を10個取り出し、ガチャに入れる。


ガチャが動き、景品が出てきた。


「水だ」


「水か……」


「まあ、使えるけどな」


次の冒険者が魔石10個を入れる。


今度は――


「お菓子だ!」


「これは当たりじゃないか?」


「食べられるなら嬉しいな」


三人目。


魔石10個を入れる。


ガチャから出てきたのは――


「……なんだこれ?」


「棒?」


「火をつける道具みたいだぞ」


それはマッチだった。


四人は珍しそうに眺める。


「これ、売ったら結構な金になるんじゃないか?」


「食事代にすると、四人分くらいになるんじゃないか?」


「今日の一番の当たりだな」


そして最後の一人。


魔石10個を入れてガチャを回す。


「これは……歯ブラシ?」


「何に使うんだ?」


「よく分からないけど、使えそうだな」


四人は手に入れた景品を眺めた。


水。


お菓子。


マッチ。


歯ブラシ。


「今日はマッチが一番だな」


「だな」


「でも、お菓子も悪くない」


「次はもっといい物が出るかもしれないぞ」


四人は景品をしまうと、ダンジョンから出ることにした。


ガチャの存在を他の冒険者に教えるつもりはない。


自分たちだけの秘密だ。


     ◇


「どうだった?」


ダンジョンコアがアレンに尋ねる。


「狙い通りだな」


アレンは答えた。


「魔物が逃げるようになったことで、一匹倒すのに時間がかかるようになった」


『はい』


「だから魔石が集まる速度も遅くなった。同じ40個を集めるにしても、前より時間がかかる」


『その結果、冒険者は長くダンジョンに滞在します』


「そういうこと」


ガチャを回すためには魔石が10個必要だ。


魔石が簡単に集まれば、ガチャを回してすぐ帰ってしまう。


しかし、魔物が逃げれば魔石を集めるだけで時間がかかる。


それでも冒険者たちはガチャを回したい。


だから、さらに魔石を集めるためにダンジョンへ留まる。


「ガチャの回数を増やさなくても、冒険者がダンジョンにいる時間は増える」


『非常に効率的ですね』


「しかも、ガチャを回すためには魔石10個が必要だ」


アレンは満足そうに頷いた。


「魔物が逃げるだけで、冒険者の滞在時間を伸ばせる。なかなかいい仕組みだな」


ダンジョンコアも、今回の変更による効果を理解した。


魔物は弱くなったわけではない。


ただ、逃げるようになっただけだ。


それだけで冒険者は、今までより長くダンジョンに留まることになった。


アレンの狙い通りだった。

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