ガチャの設置
アレンのダンジョンは、Gランクダンジョンの認定を受けていた。
つまり、主にやってくるのは初心者冒険者だ。
このダンジョンを一度クリアした冒険者は、より高ランクのダンジョンへ向かっていく。
そのため、人が全く来ないわけではない。
新しく冒険者になった者が次々と訪れる。
しかし、同じ冒険者が何度も通ってくれることはなかった。
アレンのダンジョンは、初心者が最初に訪れる場所ではあるが、初心者が定着しないダンジョンだった。
今日もまた、一組の初心者パーティーがダンジョンに初挑戦していた。
「初めてのダンジョンか。楽しみだな!」
「このダンジョンじゃ、あまり稼げないんだろ? 早く突破して、次のダンジョンに行きたいぜ」
「初心者向けだからって油断しちゃダメよ」
「ろくに罠もないんだろ? 楽勝だよ」
そんな会話をしながら、四人はダンジョンへ入っていった。
Gランクダンジョンだけあって、出てくるモンスターは弱い。
冒険者たちは危なげなくモンスターを倒し、魔石を拾いながら進んでいく。
「順調だな」
「このくらいなら余裕ね」
「このまま一気に二階層まで行こうぜ」
そうして二階層へ続く階段を探していたときだった。
「ん?」
先頭を歩いていた冒険者が足を止めた。
そこには、今まで見たことのない四角い箱が置かれていた。
「なんだ、これ?」
「箱?」
「説明が書いてあるぞ」
四人が箱を囲む。
「こんな物が設置されてるなんて聞いてないぞ」
「何て書いてあるんだ?」
説明を読んだ冒険者が、声に出して読む。
「『魔石十個を入れると、ランダムでアイテムに変わります』だって」
「魔石十個?」
「どうする?」
「売っても百円だろ?」
一人が手元の魔石を見る。
「ここまで集めた魔石は……二十二個か」
「じゃあ二回できるな」
「やってみるか」
「そうね。二回やっても魔石二個は残るし」
冒険者は箱に魔石を十個入れた。
すると、箱の中からカプセルが一つ転がり出てきた。
「おお!」
「中身はなんだ?」
カプセルを開ける。
「……なんだこれ?」
中から出てきたのは、見慣れない細長い道具だった。
「ボールペンって書いてあるぞ」
「ボールペン?」
「何に使うんだ?」
もう一つのカプセルも開ける。
「こっちは……石鹸?」
「おい、見ろよ! 石鹸だぞ!」
「石鹸って、あの石鹸か?」
「たぶんそうだろ」
冒険者は石鹸を手に取って眺める。
「これ、二千円くらいでは売れそうだな」
「二千円?」
「石鹸なんて普通はもっと安いだろ」
「でも、このダンジョンで手に入る石鹸なら珍しいんじゃないか?」
「確かにな」
一人がボールペンを手に取る。
「そっちは何なんだ?」
「どうやら文字が書けるみたいだ」
紙にペンを走らせる。
「おお、本当に書ける」
「こっちも高く売れそうだな」
四人は顔を見合わせた。
そして、最初にガチャを提案した男が言った。
「なあ……」
「なんだ?」
「これ、もしかして、このダンジョンの稼ぎだけで生活できるんじゃないか?」
「まだ二回しか回してないだろ」
「そうだけどよ」
男は残った魔石を見る。
「魔石を十個集めれば、一回回せるんだろ?」
「そうね」
「だったら、もっと回してみようぜ」
「でも、魔石を売れば金になるぞ」
「百円だろ?」
男は即答した。
「それならガチャを回したほうがいい」
「確かに……」
「よし、もっと魔石を集めるぞ」
先ほどまで「早く次のダンジョンに行きたい」と言っていた冒険者たちは、いつの間にか目の前のダンジョンに興味を持ち始めていた。
「このダンジョン、意外と面白いかもしれないな」
「次は何が出るか分からないしな」
「魔石を集めろ! まだまだ回せるぞ!」
初心者パーティーは、再びダンジョンの奥へ向かっていった。
その様子を見ていたアレンは、満足そうに頷いた。
「よし」
ガチャを設置するだけで、冒険者たちの目的が変わった。
魔石を売るためではない。
ガチャを回すために、魔石を集め始めたのだ。
アレンの作戦は、どうやらうまくいきそうだった。




