41階層の前夜
Sランクパーティーは、その日の夜、ダンジョンの1階層にあるホテルに泊まっていた。
「……なあ」
「なんだ?」
「ダンジョンの中にホテルがあるって、おかしくないか?」
「おかしいな」
ベッドに座りながら、メンバーの一人が周囲を見回す。
今日まで何度もダンジョンには潜ってきた。
だが、ダンジョンの中でホテルに泊まった経験など一度もない。
「しかも、エレベーターまであるんだぞ」
「そうだな」
「俺たち、最初は一ヶ月くらいダンジョンにこもる覚悟だったんだぞ」
リーダーが苦笑する。
37階層の攻略が目的だった。
その先に何階層あるのかも分からない。
食料や装備、野営道具まで大量に準備してきた。
長期戦になることを覚悟していたのだ。
「それが、1階層まで戻ってきたらホテルに泊まれる」
「食事もできる」
「風呂にも入れる」
「しかも、必要ならエレベーターで移動できる」
「便利だよな……」
「めちゃくちゃ便利だ」
おかしい。
どう考えてもおかしい。
それなのに、一度体験してしまうと、この快適さはありがたい。
「今日なんて、40階層まで攻略して戻ってきたんだぞ」
「普通なら、野営の準備をしてるところだよな」
「それが今はホテルのベッドだ」
「ダンジョン攻略してるって感じがしないな」
「それは俺も思った」
そこから話題は、今日見たダンジョンの様々な施設へと移っていった。
「バスも凄かったな」
「馬がいないのに動くんだからな。最初は本当に馬車かと思った」
「採掘場もあった」
「鉄と銅が掘れるんだったな。しかも冒険者が採掘していた」
「ドワーフまでいたぞ」
「しかも、普通なら加工できない素材まで加工できる」
「素材ガチャから出るアルミニウムやチタンまで扱っていたな」
「商人もいた」
「ああ」
リーダーが苦笑する。
「よく考えたら、ダンジョンの中で買い物までできるんだよな」
「売ることもできる」
「泊まることもできる」
「食事もできる」
「移動もできる」
一人が指を折りながら数えていく。
「採掘もできるし、素材の加工もできる。ガチャまである」
「……ダンジョンの中だけで経済活動が完結してないか?」
「それだ」
全員が顔を見合わせる。
「俺たち、今ダンジョンにいるんだよな?」
「そうだよな」
「なんか、普通に街にいる気分なんだが」
窓の外を眺める。
そこにはダンジョンの1階層が広がっている。
冒険者たちが行き交い、店も並んでいる。
ホテルの中にいると、とてもダンジョンの中とは思えない。
「こんなダンジョン、初めてだな」
「というか、こんなダンジョン他にあるのか?」
「知らん」
「俺も知らん」
しばらく沈黙したあと、リーダーが立ち上がった。
「まあ、便利なのはいいことだ」
「だな」
「でも、明日からは41階層だ」
空気が変わった。
40階層までは攻略した。
しかし、その先に何が待っているのかはまだ分からない。
「ここまで来たんだ。気を抜くなよ」
「もちろん」
「明日から41階層だ」
「よし、気合い入れて行くぞ!」
Sランクパーティーは、それぞれ明日の準備を始めた。
快適なホテルで休める。
食事もできる。
必要なものもダンジョン内で揃えられる。
だが、攻略だけは別だ。
明日からは41階層。
Sランクパーティーは気を引き締め、明日に備えて休むことにした。




