SランクパーティーとBランクボス
40階層のボス部屋。
その扉の前で、Sランクパーティーは最後の打ち合わせをしていた。
「次はBランクボスのはずだな」
リーダーが扉を見ながら口を開く。
「そうだな。37階層のリッチがあれだけ強かったんだ。最低でも、あのクラスの強さはあると思っておいたほうがいい」
「……でも、俺たちはSランクだぞ」
盾役が苦笑する。
「Bランクのボスに遅れを取るはずはない」
「はずはない、な」
魔法使いが頷く。
Sランク。
それは、この世界でもごく一部しか到達できない冒険者の証だ。
Bランクの魔物やボスを相手にして苦戦するような立場ではない。
ましてや、このパーティーはSランクの中でも長くダンジョンを攻略してきた経験がある。
普通のBランクボスなら、問題なく倒せる。
――それでも。
「……このダンジョン、妙に不気味なんだよな」
誰も反論しなかった。
30階層のボス。
37階層のリッチ。
38階層、39階層の拍子抜けするほどのボス。
強いと思えば強く、弱いと思えば妙に弱い。
階層を進むほど、ダンジョンの基準が分からなくなっていく。
「まあ、撤退はできるんだ」
リーダーが言う。
「最初から全力で突っ込む必要はない。まずは攻撃を受けて、相手の強さを確認する」
「それで危険なら戻る」
「そうしよう」
全員が頷いた。
作戦は決まった。
慎重に。
だが、必要以上に怯えることはない。
Sランク冒険者としての実力を信じて、まずは相手を確かめる。
「行くぞ」
扉が開かれた。
その先にいたのは、巨大な魔物だった。
見るからにBランク相当。
威圧感もある。
だが、37階層のリッチと比べると――そこまで異質な存在には見えなかった。
「……特殊能力はなさそうだな」
「油断はするな」
「分かってる」
戦闘が始まった。
ボスが突進する。
盾役が正面から受け止めた。
「っ!」
衝撃で足がわずかに下がる。
しかし、それだけだった。
「問題ない!」
剣士が横から斬り込む。
魔法使いも詠唱を終え、魔法を放つ。
ボスが反撃する。
だが、攻撃は読める。
避ける。
受ける。
反撃する。
これまで幾度となく繰り返してきた、Sランクパーティーにとっての基本的な戦いだった。
「押し切れるぞ!」
少しずつボスの動きが鈍っていく。
「このまま行け!」
最後の一撃が決まった。
巨大なボスが崩れ落ちる。
――勝利。
「……終わったな」
「うん」
誰も傷らしい傷を負っていない。
あれだけ警戒していたのが嘘のように、安定した戦いだった。
「Bランクボス……か」
リーダーが倒れたボスを見下ろす。
「普通にBランクだな」
「そうだな」
「37階層のほうが明らかに厄介だった」
誰もが同じ感想だった。
このダンジョンは、本当に階層ごとの強さが読めない。
そんなことを考えていると、ボスが消えた場所に変化が起きた。
「宝箱だ」
部屋の中央に、一つの宝箱が現れていた。
「待て」
全員が止まる。
37階層まで進んできた経験から、宝箱だからといって無警戒に開ける気にはなれなかった。
「罠を確認する」
周囲を調べる。
宝箱そのものも、床も、壁も。
慎重に確認していく。
「……罠はなさそうだ」
「念のためもう一度」
さらに確認する。
それでも異常は見つからない。
ようやくリーダーが頷いた。
「開けてみよう」
蓋が開く。
中に入っていたのは、いくつかの装備品。
そして、その上に一枚のカードが置かれていた。
「カード?」
魔法使いが取り出す。
表面には、このダンジョンで使われている文字で説明が書かれていた。
「……これを持っている者は、エレベーターで40階層まで直通?」
「40階層まで?」
全員が顔を見合わせる。
「つまり、次に来るときは30階層からじゃなくて、40階層まで直接来られるってことか」
「そういうことみたいだな」
これは便利だ。
これまでなら、一度ダンジョンの外へ戻れば、再び30階層までエレベーターで移動し、そこから先へ進む必要がある。
だが、このカードがあれば40階層まで一気に来られる。
「……今日はここまでにしよう」
リーダーがカードをしまう。
「一度1階層まで戻る」
「ギルドに報告だな」
「ああ」
37階層でリッチを倒したこと。
38階層、39階層を突破したこと。
そして40階層のボスがBランクだったこと。
さらに、このカードの存在。
どれもギルドに伝える必要がある。
Sランクパーティーは宝箱の装備を確認すると、来た道を戻っていった。
40階層。
そこまで到達したことで、このダンジョンの攻略は新しい段階へ入ろうとしていた。




