Sランクパーティー37階層
31階層から36階層までを攻略する間、Sランクパーティーはあることに気付いていた。
「このダンジョンの冒険者、装備をほとんど変えてないな」
ボス部屋の前で見かける冒険者たちは、同じような装備のまま次の階層へ向かっていた。
Sランク冒険者にとって、それは少し不思議な光景だった。
Sランクパーティーともなれば、ボスの情報を集める。
どんな攻撃をしてくるのか。
どんな魔法を使うのか。
弱点は何なのか。
それらを調べたうえで、必要な装備を準備する。
炎を使う敵なら炎への対策。
魔法を多用する敵なら魔法への対策。
硬い敵なら攻撃方法を変える。
そして、ボスごとに装備を使い分ける。
それが彼らにとっては当たり前だった。
「でも、ここの冒険者はそうしてない」
「30階層まで同じ装備で来て、そのままボスに挑んでる」
「それで負けたら撤退して、また挑戦する」
リーダーは少し考える。
「撤退できることの弊害かもしれないな」
危険を感じたら戻れる。
死にそうになったら逃げられる。
だからこそ、最初から完璧な準備をする必要性が薄れている。
負けても、また挑めばいい。
このダンジョンでは、それが当たり前になっている。
「俺たちはそういうわけにはいかない」
リーダーは37階層の扉を見る。
「ここからが本番だ」
37階層。
今回の調査で、最大の目的となる場所だった。
扉の先にいるモンスターの情報は、すでに入手している。
「リッチか」
リッチ。
通常の物理攻撃が効きにくい、強力なアンデッドモンスター。
「通常攻撃は効きが悪い」
リーダーは仲間を見る。
「なら、全員魔法が付与された装備で固めるぞ」
剣士は魔法が付与された剣。
タンクは魔法が付与された盾。
防具も魔法への対策を施したものへ変更する。
魔法使いも準備を整える。
「行くぞ」
扉が開く。
37階層のリッチが、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「来るぞ!」
リッチが魔法を放つ。
凄まじい勢いで魔法が飛んでくる。
「盾!」
タンクが魔法の盾を構え、真正面から受け止める。
同時に剣士が距離を詰めた。
「はあっ!」
魔法が付与された剣がリッチの身体を斬り裂く。
「効いてる!」
確実にダメージは通っている。
だが――。
「硬い!」
想像以上の耐久力だった。
リッチは攻撃を受けても怯まず、次々と魔法を放ってくる。
「まだ来るぞ!」
タンクが盾を構える。
魔法の盾が攻撃を受け止める。
「今だ!」
魔法使いが詠唱を終える。
「食らえ!」
放たれた魔法がリッチへ直撃する。
リッチの身体が大きく揺れた。
「効いてる!」
剣士も再び距離を詰める。
魔法剣がリッチを捉える。
一撃。
二撃。
三撃。
魔法使いも攻撃を続ける。
タンクは飛んでくる魔法を盾で受け続ける。
Sランクパーティーは、焦ることなく確実にリッチを追い詰めていった。
そして――。
最後の一撃がリッチを捉えた。
リッチの身体が崩れ落ちる。
「……倒したな」
「ああ」
全員が一息つく。
勝利した。
しかし、喜びよりも先に浮かんだのは、別の感想だった。
「これ、本当にCランクダンジョンか?」
「あり得ないな」
リーダーがリッチのいた場所を見る。
「対策装備で固めてなかったら、まともにダメージすら与えられなかったぞ」
「普通の装備で来てたら、かなり厳しいだろうな」
「Bランク冒険者でも、初見なら負ける可能性がある」
全員が頷く。
「ギルドに戻ったら、ちゃんと報告しないとな」
リーダーは真剣な顔になる。
「このダンジョンは、もうCランクに収まるようなダンジョンじゃない」
そのときだった。
――ゴゴゴゴゴ……。
「ん?」
地面の奥から音が響く。
全員が振り返る。
すると、部屋の奥に今まで存在しなかった扉が現れていた。
「……次の階層への扉か」
「まだ帰れないらしいな」
リーダーは苦笑した。
「どうする?」
仲間たちが顔を見合わせる。
そして、全員が扉へ視線を向けた。
「行くしかないだろ」
Sランクパーティーは、まだ帰ることができなかった。




