冒険者の成長
アレンのダンジョンは、いつの間にか冒険者にとって評判のいいダンジョンになっていた。
大怪我をするような罠はない。
モンスターも大量に襲いかかってくることはなく、基本的には一体ずつ相手にできる。
無茶をしなければ、パーティー全員が生きて帰れる。
それでいて、魔石やドロップ品を手に入れれば、それなりに稼ぐこともできる。
「安全に強くなれて、稼ぎも悪くないダンジョン」
いつの間にか、そんな評判が広まっていた。
初心者が経験を積む場所としても使われ、ベテランになった冒険者たちも、新しい装備や仲間の育成のために訪れる。
アレンとしても、それは狙い通りだった。
冒険者を強くする。
そのために、ダンジョンに使えるポイントはボスドロップにも力を入れていた。
特に30階層のボス。
ここは冒険者たちにとって、明確な壁になっていた。
10階層までなら攻略できる。
その先も少しずつ進める。
だが30階層のボスになると、今までのようにはいかない。
攻撃を受ければ耐えられない。
隙を見つけなければ攻撃も通らない。
パーティー全員がそれぞれの役割を理解して、連携しなければ勝てない。
それでも、アレンは30階層のボスに挑戦すること自体は禁止していなかった。
負けても、また挑戦できる。
装備を整え、作戦を変え、仲間との連携を見直して、もう一度挑む。
そんなことを繰り返すうちに、少しずつ突破できるパーティーが増えてきた。
「おお、ちゃんと強くなってるな」
アレンは冒険者たちの様子を見ながら、最初は素直に喜んでいた。
以前は全く歯が立たなかったパーティーが、何度目かの挑戦でボスの攻撃を避ける。
前衛が攻撃を受け止め、後衛が攻撃する。
危なくなれば一度距離を取る。
そして、以前は逃していた攻撃のチャンスを確実に拾う。
「やっぱり、何度も挑戦すれば強くなるんだな」
そう思っていた。
だが。
しばらく冒険者たちを眺めていたアレンは、ふと腕を組んだ。
「……あれ?」
何かが引っかかった。
30階層のボス。
毎回、同じ相手だ。
当然、攻撃パターンも同じ。
最初は分からなかった攻撃も、何度も戦えば分かる。
この動きをしたら次は右から攻撃が来る。
この攻撃の後には隙ができる。
ここで距離を取れば安全。
そうやって何度も戦っていれば、いずれ攻略できるようになる。
「……それって、本当に強くなってるのか?」
アレンは画面を見つめた。
もちろん、実戦経験は積んでいる。
連携も上手くなっている。
攻撃を避ける技術も身についている。
だが、それは30階層のボスに慣れただけではないのか。
「同じ相手と延々戦ってたら、攻撃パターンを覚えただけって可能性もあるよな」
一度覚えてしまえば、初見の敵には通用しないかもしれない。
30階層のボスを倒せるようになった。
だからといって、別の強敵と戦ったときにも同じように戦えるとは限らない。
「うーん……」
アレンは頭を掻いた。
安全に強くなれるダンジョン。
それ自体は悪くない。
むしろ、死なずに経験を積めるのは大きなメリットだ。
ただ、安全に慣れることと、本当に冒険者として強くなることは同じなのだろうか。
「これはちょっと考えたほうがいいかもしれないな」
アレンはそう呟きながら、再び冒険者たちの戦いを見始めた。
30階層のボスを倒せるようになった冒険者たちが、本当に強くなったのか。
それとも――。
ただ、同じボスの攻略法を覚えただけなのか。
アレンには、その違いが気になり始めていた。




