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びびったアレン

アレンのダンジョンに、一台のロールスロイスが到着した。


 ゆっくりと停車したロールスロイスの扉が開く。


 中から降りてきたのは、王妃様だった。


 王もまだ乗ったことのないロールスロイスに乗って、王妃様がダンジョンへやって来たのだ。


 王妃様が地面に足をつける。


 それを合図にしたかのように、周囲の騎士たちが一斉に動いた。


 騎士団は王妃様の周囲を固めながら、宝くじ箱までの道を確保していく。


 一人、また一人と所定の位置につき、宝くじ箱の周囲にも騎士が配置される。


 誰も余計なことは言わない。


 ただ、全員が周囲を警戒している。


 近衛隊長が最後に周囲を確認すると、王妃様へ向き直った。


「準備できました」


 そう言って、近衛隊長が手を差し出す。


 王妃様はその手を見る。


 そして、ゆっくりと手を重ねた。


「ええ」


 二人は歩き始めた。


 宝くじ箱までは、それほど遠くない。


 だが、アレンにとっては、その距離が妙に長く感じられた。


「……」


 マスタールームから様子を見ていたアレンは、完全に固まっていた。


 王妃様が近づいてくる。


 画面越しに見ているだけなのに、妙に緊張する。


「……美人だな」


 思わず口から言葉が漏れた。


 王妃様の美しさは、アレンが想像していた以上だった。


「いや、ちょっと待て」


 アレンは頭を抱える。


「これ、俺が直接話すのか?」


 王妃様と話をする。


 それだけなら、別に難しいことではない。


 そう思っていた。


 だが、いざ本人を目の前にすると話は変わる。


「無理だ」


 アレンは即座に結論を出した。


「面と向かって話せる気がしない」


 どうする。


 このままでは、アレン自身が緊張して何を言っているのか分からなくなりそうだ。


 アレンはしばらく考えた。


 そして――。


「……あ」


 何かを思いついた。


「そうだ」


 アレンの頭に浮かんだのは、ゲームでよくある光景だった。


 ボス部屋。


 そこにいる強大なボス。


 そして、ボスが冒険者に話しかける。


「別に俺が直接出てくる必要ないじゃないか」


 アレンはすぐにダンジョンを操作した。


 十階層のボス部屋を封鎖する。


 そして、エンシェントドラゴンをそこへ配置した。


「よし」


 アレンはエンシェントドラゴンに指示を出す。


「俺が話すから、口を動かしてくれ」


 エンシェントドラゴンが口を動かす。


 アレンが話す。


 これなら、王妃様から見ればエンシェントドラゴンが喋っているように見える。


「完璧だ」


 アレンは満足した。


 これなら直接会って話す必要はない。


 我ながら妙な方法だとは思う。


 しかし、今のアレンにとっては重要な問題を解決する画期的な方法だった。


 一方、王妃様たちは宝くじ箱へ向かっていた。


 近衛隊長が一歩前を歩き、王妃様がその後ろを続く。


 そして――。


 宝くじ箱の前で王妃様が足を止めた。


「……」


 近衛隊長も立ち止まる。


 その瞬間だった。


 宝くじ箱から、紙が一枚出てきた。


 王妃様がそれを手に取る。


「手紙ですね」


 近衛隊長が確認する。


「ええ」


 王妃様は封を開けた。


 中に書かれていた文章を読む。


『10階層のボス部屋に来い』


 王妃様の目が止まる。


 そして、その下を読む。


『ボス部屋には一人で入れ』


「……」


 王妃様は無言になった。


 近衛隊長が横から手紙を見る。


「一人で……?」


「そう書いてあります」


「お待ちください」


 近衛隊長の声が強くなる。


「これは危険すぎます」


 王妃様は手紙を折りたたむ。


「そうですね」


「十階層のボス部屋です。王妃様お一人で入るなど、認められません」


「隊長」


「はい」


「私は今回、何のためにここへ来たと思いますか?」


 近衛隊長は黙った。


「ダンジョンマスターと話をするためです」


 王妃様は宝くじ箱を見る。


 ここまで来て、相手から出された条件を無視するわけにはいかない。


「だからこそ、危険でも行きます」


「ですが……」


「大丈夫です」


 王妃様は近衛隊長を見る。


 その表情には、迷いがなくなっていた。


「私が行きます」


「王妃様!」


「一人で入れというのなら、一人で入ります」


 近衛隊長は何か言おうとした。


 しかし、王妃様の決意を見て口を閉じる。


 王妃様は手紙を握りしめる。


 そして、十階層へ続く道へ視線を向けた。


「行きましょう」


 王妃様は歩き出した。


 近衛隊長はその背中を見送るしかなかった。


 その頃、マスタールームでは――。


「……本当に一人で来るのかよ」


 アレンは思わず呟いていた。


 自分で「一人で来い」と書いたくせに、王妃様が本当に一人で来るとなると、今度はアレンのほうが落ち着かなくなってきた。


「……エンシェントドラゴン」


 アレンは十階層のボス部屋を見る。


「頼むぞ」


 王妃様が近づいてくる。


 アレンはその姿を見ながら、もう一度深呼吸した。


「俺は直接話さない」


 そう自分に言い聞かせる。


「ドラゴンが話すんだ」


 だが、それでも緊張は収まらなかった。

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