王妃様の嫁入り?
アレンは三十階層のボス部屋を眺めながら、ふと思った。
「そういえば、ゲームだとボス部屋って別空間になってることが多いよな」
ボスを倒すまで次のパーティーが入れない。
だからといって、一つの部屋で順番待ちをさせる必要もない。
「別に一つのボス部屋じゃなくてもいいか」
アレンはダンジョンコアに指示を出した。
三十階層のボス部屋を増設する。
一つだったボス部屋は、三つになった。
それぞれ独立した空間になっている。
これなら、一組がボスと戦っている間でも、別のパーティーが別のボス部屋で挑戦できる。
「これでいいな」
実際に運用を始めてみると、効果はすぐに出た。
これまでなら、一組の戦闘が終わるまで次のパーティーは待つしかなかった。
それが今では、三組まで同時に挑戦できる。
「回転がかなり良くなったな」
長時間の戦闘が問題だったのではなく、一つの部屋しかなかったことが問題だった。
アレンは満足して頷いた。
「これなら三十分制限も急がなくていいか」
三十分以内に倒せなければ強制排出する案は、いったん保留することにした。
ボスが強いこと自体は、Cランクの壁として必要だ。
ならば、まずは挑戦できる人数を増やす。
それだけで十分だった。
アレンは三十階層の様子を確認しながら、次はボスドロップについて考え始めた。
その頃――。
王宮では、王妃の出発準備が整っていた。
「……」
王は、目の前の光景を見て固まっていた。
純白のウェディングドレス。
長いスカート。
美しく整えられた王妃の姿。
誰がどう見ても――。
「お嫁に行くようにしか見えない……」
思わず王が呟く。
王妃は絶世の美女と称されるほどの美貌を持っている。
そのため、普段から人目を引く。
まして今日はウェディングドレス姿だ。
王宮を出る準備をしているだけなのに、周囲の者たちは思わず視線を向けていた。
「王妃様、お美しい……」
「まるで花嫁だ」
そんな声まで聞こえてくる。
しかし、問題は見た目だけではなかった。
「少々、歩きにくいですね」
ウェディングドレスのスカートが長すぎるのだ。
地面を引きずるほどの長さがある。
王妃が歩こうとするたびに、裾が地面を擦る。
「王妃様、こちらを」
近衛隊長が王妃の手を取った。
転ばないように支えるためだ。
「ありがとうございます」
王妃が近衛隊長の手を取り、並んで歩く。
その姿を見た王は、さらに顔を引きつらせた。
「……どう見ても旦那と花嫁じゃないか」
近衛隊長も困った顔をしている。
「陛下、これはあくまで歩行の補助です」
「分かっている!」
王は即座に返した。
分かっている。
分かっているからこそ、余計に困る。
しかも王妃は本当に美しい。
周囲からの視線が集まるのも無理はなかった。
「私が行く!」
王はとうとう言い出した。
「私が王妃と一緒に行けばいいだろう!」
だが、その申し出に宰相が首を横に振った。
「なりません」
「なぜだ!」
「王が王都を離れるわけにはいきません」
「しかし!」
「王妃様が指名されたのです」
宰相は淡々と答えた。
「ダンジョンマスターが王妃様との対談を望んでいる以上、王が代わりに行くわけにはいきません」
「……」
王は言葉に詰まった。
確かにその通りだった。
王国側から対談を申し出た。
そして相手は王妃を指定した。
ここで王が出ていけば、話が変わってしまう。
「それに……」
宰相はちらりと王妃を見る。
「今回の件では、王妃様が最も適任でしょう」
王は渋々黙った。
そしてもう一度、王妃を見る。
純白のドレス。
長い裾。
近衛隊長に手を引かれて歩く姿。
「……本当に嫁入りにしか見えない」
王は頭を抱えた。
王妃本人は、そんな夫の様子を気にすることもなく、ダンジョンへ向かう準備を進めていた。
目的はあくまで対談。
エンシェントドラゴンを抱えるダンジョンと王国の関係を、これからどうするのか。
その重要な話し合いのための訪問だった。
ただし、外から見れば――。
どう見ても、王妃の嫁入り行列だった。




