宣戦布告
アレンのもとに、一通の宣戦布告が届いた。
「……Cランクダンジョンから?」
ダンジョンコアから報告を聞いたアレンは、首を傾げた。
相手はアレンのダンジョンよりも格上。
Cランクダンジョンとして長い歴史を持ち、多くの冒険者を抱えているダンジョンだった。
宣戦布告の理由は明確だった。
冒険者を奪われた。
そして、もう一つ。
アレンのダンジョンがあまりにも急速に成長している。
このまま放っておけば、いずれ自分たちのダンジョンを追い越す。
そうなる前に叩いておこう。
そんな判断だった。
「なるほどなぁ」
アレンは腕を組む。
「でも、ダンジョンの中で戦うのはやめよう」
ダンジョン内で大規模な戦闘になれば、住民にも冒険者にも被害が出る。
何より、せっかくここまで育てたダンジョンを壊したくない。
「外で迎え撃つか」
アレンはダンジョン前に広がる平原を戦場に選んだ。
相手も、それを受け入れた。
そして決戦の日。
相手のダンジョン前は、朝から騒然としていた。
「何だ、あれは!」
「ダンジョンからモンスターが出てきたぞ!」
「数が多すぎる!」
地面を埋め尽くすようなモンスターの群れが、ダンジョンから次々と姿を現していた。
相手のダンジョンが用意した戦力だった。
その光景を見た者たちは、すぐに叫んだ。
「スタンピードだ!」
報告を受けた国軍も動いた。
ダンジョンから大量のモンスターが出てきた以上、放置するわけにはいかない。
軍はモンスターの群れを迎え撃ち、進行を食い止めながら討伐していく。
数は見る見るうちに減っていった。
それでも残ったモンスターたちは、アレンのダンジョンを目指して進んでいく。
やがて平原の向こうに、モンスターの群れが見えた。
それを見たアレンは、隣に立つダンジョンコアが尋ねた。
「こっちは?」
「一体だ」
「……一体?」
「そうだ」
アレンが用意した魔物は、一体だけだった。
しかし、その一体がゆっくりと姿を現す。
巨大な翼。
大地を震わせる足音。
遥か昔から生き続ける、伝説級の存在。
エンシェントドラゴン。
平原に姿を現した瞬間、相手側のモンスターたちが止まった。
人間たちも止まった。
冒険者も、騎士も、誰も声を出せない。
アレンはその光景を見ながら、ぽつりと呟いた。
「……一体で十分だろ」
相手は大量のモンスター。
こちらは一体。
数だけなら圧倒的に不利だった。
だが、戦力という意味では話が違った。
エンシェントドラゴンが一歩進む。
その瞬間、戦場の空気が変わった。
相手側のモンスターたちが怯み、隊列が崩れていく。
「いや……」
相手のダンジョンマスターが呟く。
「それは反則だろ……」
勝負は、始まる前から決まっていた。
大量のモンスターを用意した相手に対し、アレンが出したのはエンシェントドラゴン一体。
結果は、アレンの勝利だった。
戦いが終わった後。
アレンのもとには、もう宣戦布告は届かなかった。
冒険者を奪われた。
急成長している。
自分たちを追い越される前に叩きたい。
そんな理由で喧嘩を売るダンジョンは、もう存在しなかった。
なぜなら、誰もが理解したからだ。
アレンのダンジョンに喧嘩を売るということは――
エンシェントドラゴンを相手にするということなのだ。
「平和になったな」
アレンはマスタールームで、のんびりと呟いた。
本人としては、ただダンジョン内を戦場にしたくなかっただけだった。




