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絶世の美女

王妃がダンジョンを去ってから、しばらく経った。


アレンはマスタールームで、今日訪れた王妃のことを考えていた。


「……綺麗だったな」


ぽつりと呟く。


だが、すぐにアレンは首を横に振った。


綺麗。


そんな一言では足りない。


あの人を表現する言葉としては、あまりにも普通すぎる。


王妃が姿を現した瞬間、周囲の空気まで変わったように感じた。


整った顔立ちだけではない。


立っているだけで人の視線を集める。


歩けば自然と目で追ってしまう。


微笑めば、その場にいた者が思わず見入ってしまう。


王妃という身分を差し引いても、あれほどの存在感を持った女性をアレンは見たことがなかった。


「絶世の美女って、ああいう人のことを言うんだろうな……」


アレンは真剣に考える。


しかも、ただ美しいだけではなかった。


凛とした気品がある。


それでいて、ロールスロイスに乗った時には嬉しそうに笑い、ワインを楽しみながら窓の外へ手を振っていた。


その姿まで妙に絵になる。


「……反則だろ」


アレンは思わず呟いた。


これまでダンジョンの中で、どんな珍しいものを見つけても、ここまで頭から離れたことはない。


それなのに今は、王妃の姿ばかりが思い浮かぶ。


「また来てくれないかな……」


しかし、王妃が再びダンジョンを訪れる予定はない。


今回の視察は終わった。


用事も済んでいる。


わざわざ何度も訪れる理由などない。


「……」


アレンは腕を組んだ。


そして、しばらく考えた末――。


「落とし穴を仕掛けて……」


真面目な顔で呟く。


王妃が落とし穴に落ちれば、マスタールームまで連れてこられないだろうか。


「……いや」


少し考えて、アレンは首を振った。


「王妃を落とし穴に落とすのはまずいな」


さすがに国家問題になる。


「でも、もう一回来てもらう方法としては……」


アレンはさらに考え込んだ。


冒険者を増やす方法。


滞在時間を伸ばす方法。


ダンジョンを発展させる方法。


普段なら、いくらでも考えられる。


なのに今は、王妃をもう一度呼ぶ方法ばかり考えている。


「……何を考えてるんだ、俺は」


アレン自身も呆れてしまう。


結局、落とし穴案は却下された。


普通にまた来てもらうしかない。


だが、王妃が再びダンジョンを訪れる予定はなかった。


一方、その頃。


今回の王妃の訪問では、もう一つ大きな出来事が決まっていた。


度々ダンジョンへ騎士団を派遣し、そこで成果を上げてきた隣領の騎士団。


その騎士団を率いる子爵は、これまでの功績を王家から評価され、伯爵へ陞爵することが決まっていた。


隣領の騎士団は、ダンジョンで何度も成果を上げている。


その成果を王家へ報告し、さらに得られた品々を度々献上してきた。


今回も宝くじで特賞を引き当て、その景品を王妃へ献上している。


その積み重ねが、ついに爵位という形で報われることになった。


一方、この地域を以前治めていた領地の騎士団には、そうした成果はない。


王家から見ても、両者の扱いには大きな差がついていた。


そんなこととは関係なく、アレンはマスタールームで一人考え込んでいた。


「……やっぱり、また来てくれないかな」


頭に浮かぶのは、あの絶世の美女だった。


ダンジョンの運営とは、まったく関係のないことだった。

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