王妃のパレード
アレンはマスタールームから、入口に用意したロールスロイスを眺めていた。
このロールスロイスは、アレンがゴーカートのように簡単に運転できる仕様へ改造したものだった。
複雑な操作は必要ない。
初めて運転する者でも簡単に扱える。
最高速度も時速30キロまでに制限されている。
王妃を乗せるのだから、安全第一だ。
やがて王妃が車に乗り込む。
後部座席に腰を下ろした王妃は、まず座席の柔らかさに驚いた。
身体を包み込むような感触だった。
「……まあ」
王妃が少し身体を動かす。
座る位置を変えても、どこか一か所に負担がかかるような感じがない。
背中を預ければ、自然と身体に合う。
「これは……素晴らしいわね」
車が動き出した。
ゆっくりと進んでいるにもかかわらず、車内にはほとんど揺れが伝わってこない。
道に多少の凹凸があっても、車体が衝撃を吸収しているのか、身体が大きく跳ねることもない。
王妃は窓の外を眺めながら、もう一度座席へ身体を預けた。
「走っているのよね?」
「はい」
運転手が答える。
「それなのに、こんなに静かなの?」
王妃が耳を澄ます。
聞こえるのは、かすかな走行音だけ。
馬車のように車輪が道を叩く音もしない。
揺れも少ない。
車内にいると、ゆっくり動く部屋がそのまま移動しているような感覚だった。
王妃は感心したように車内を見回す。
座席は広く、足元にも余裕がある。
身体を伸ばしても窮屈さを感じない。
長時間座っていても疲れそうにない。
「これなら遠出も苦にならないわね」
王妃はすっかり気に入った様子だった。
さらに用意されていたワインをグラスに注ぐ。
車が揺れないため、グラスの中のワインもほとんど揺れない。
王妃はそれを見て、思わず笑みを浮かべた。
「走りながらワインを楽しめるなんて……」
一口飲む。
「最高ね」
隣にいる近衛第2部隊の騎士とグラスを合わせる。
「乾杯」
王妃は満足そうにワインを味わった。
しばらく車内の快適さを楽しんでから、王妃はふと思い出したように呟く。
「あなた、ついて来なくて後悔するわね」
思い浮かぶのは王の顔だった。
「王が出られるわけがないでしょうが」
王妃は楽しそうに笑う。
自分だけが、この快適な乗り物を堪能している。
そう思うと、ますます気分が良くなった。
――――
王都。
王妃が帰ってくるという知らせが広まると、大通りには町の人々が集まり始めた。
「王妃様が帰ってくるぞ!」
「どんな乗り物で帰ってくるんだ?」
「見てみたい!」
王妃の姿を一目見ようと、大通りは人で埋まっていった。
そして、ついに遠くからロールスロイスが姿を現した。
「来たぞ!」
「王妃様だ!」
ゆっくりと車が近づいてくる。
王妃は窓を上げると、集まった人々へ向かって手を振った。
「王妃様!」
「こちらを見てください!」
「王妃様ー!」
歓声が大通りに響き渡る。
王妃は笑顔で手を振り続ける。
車は時速30キロほどで、ゆっくりと大通りを進んでいく。
人々の歓声が、車の進行に合わせて移動していく。
王妃はワインを片手に、時折窓の外へ手を振る。
その姿を見た町の人々には、まるでパレードのように見えた。
王妃を乗せたロールスロイスは、歓声に包まれながら王都の大通りをゆっくりと進んでいった。




