王妃からの挑戦状
アレンはマスタールームからダンジョンの様子を眺めていた。
入口では妙な光景が広がっている。
「……何が起きてるんだ?」
入口から一階層のエレベーターまで、人が二列に並んでいる。
さらに十階層でも、エレベーターから宝くじ箱までの間に人が二列で並んでいた。
まるで誰かを迎えるための道を作っているようだ。
しばらくすると、その理由が分かった。
「王妃様、配置につきました」
「案内してもらえるかしら」
「こちらへ」
王妃が二列に並んだ人々の間を歩いていく。
すぐ側には近衛第2部隊。
その前方には、今回の視察に同行している千人の騎士が並んでいる。
「……」
アレンはマスタールームで絶句した。
「どこと戦争に行くんだよ……」
王妃の側には、もう一人の騎士がいた。
隣領の騎士団長だ。
この騎士団は隣の領主に仕えている。
普段からダンジョンで活動し、何度も成果を上げていた。
さらに、ダンジョンから得た珍しい品などを度々王家へ献上している。
そのため王家からの覚えもよく、今回もダンジョンに詳しい騎士団長だけが王妃の側へ呼ばれていた。
一方、この地域をもともと治めていた領地の騎士団は、今回の視察には呼ばれていない。
王妃がこの町を作る際に、その領地自体が取り上げられているからだ。
王家からすれば、わざわざ彼らを呼ぶ理由もなかった。
「こちらです、王妃様」
「ええ」
隣領の騎士団長に案内され、王妃は一階層へ移動する。
そして十階層へ。
十階層のエレベーターを降りると、宝くじ箱までの道にも人が二列に並んでいる。
王妃はその中央を歩いていく。
「いつもこのような感じなのかしら?」
「宝くじの発表日は、いつも多くの人が集まります」
騎士団長が答える。
「結果は後から確認できるのでしょう?」
「はい。当選した景品も後から受け取れます」
「それなのに、皆ここへ来るの?」
「祭りのようなものです。それに商人も集まります」
「商人?」
「当選した景品を買い取るためです。珍しい景品が出るかもしれませんから」
「なるほどね」
王妃は周囲を見渡した。
確かに、冒険者だけではない。
商人たちも発表を待っている。
やがて、宝くじの発表が始まった。
当選番号が読み上げられるたび、周囲から歓声が上がる。
そして、いよいよ特賞の発表が近づいた。
「特賞の発表の後に動くわよ」
王妃がそう告げる。
やがて特賞の番号が読み上げられた。
当選したのは、普段からダンジョン内で活動している隣領の騎士団だった。
「おおっ!」
騎士たちから歓声が上がる。
騎士団長も驚いた様子を見せたが、すぐに王妃の前へ進み出た。
「王妃様」
「何かしら?」
「こちらを」
騎士団長は特賞の景品を王妃へ差し出した。
「王妃様へ献上いたします」
「まあ。ありがとう」
王妃は景品を受け取った。
そして、ふと思い出したように騎士団長へ声をかける。
「そうだわ。あなた、子爵に伝言を頼めるかしら?」
「もちろんです」
「嬉しい知らせがあるから、楽しみにしていなさいと伝えてちょうだい」
「承知しました。必ずお伝えします」
騎士団長は深々と頭を下げた。
王妃は満足そうに頷いた。
「動くわよ」
そして宝くじ箱へ向かう。
王妃は金貨を取り出し、そのまま箱へ入れた。
「私からのお礼よ」
マスタールームからその様子を見ていたアレンは、すぐに金貨を確認した。
「……六千五百万」
六千五百万円。
「いや、高すぎるだろ」
さすがに、このまま受け取るわけにはいかない。
アレンは返礼品を用意することにした。
ダンジョンの入口に返礼品を置き、紙に短く書く。
『お礼は不要だ。入口に返礼品を用意した。帰れ』
しばらくすると、王妃のもとへ近衛兵がやってきた。
「王妃様、返事が届きました」
「返事?」
王妃は紙を受け取る。
書かれている内容を読むと、王妃は小さく笑った。
「やはり意思の疎通は可能なのね」
王妃は紙を畳む。
「入口に行ってみましょう」
王妃一行は入口へ向かった。
そして、そこに用意されていたものを見て、王妃は足を止めた。
「これは……」
一台の高級車が置かれていた。
魔石で動くように改造された車。
王妃は車体を眺め、満足そうに微笑んだ。
「私にふさわしい乗り物ね」




