ダンジョン探索3
鉱山区画を離れたアレンは、次の階層へ向かうことにした。
「じゃあ、二階層に行ってみるか」
アレンは階段を下りていった。
そして――。
「……普通だ」
二階層に足を踏み入れた瞬間、思わずそう呟いた。
そこに広がっていたのは、見慣れたダンジョンだった。
薄暗い通路。
岩肌の壁。
ところどころに現れるモンスター。
一階層のような住宅街もなければ、工房もない。
道路もない。
バスも走っていない。
「なんだ、このギャップは……」
ついさっきまで一階層で街を見ていたせいで、余計に違和感がある。
自分が作ったダンジョンなのだから、どちらも同じダンジョンのはずだ。
なのに、一階層だけが完全に別世界になっている。
「どっちが正しいダンジョンなんだよ……」
アレンは本気で分からなくなってきた。
ふと、近くを歩いていた冒険者の横をモンスターが通り過ぎていく。
モンスターは冒険者に襲いかかることなく、そのまま別の場所へ歩いていった。
「そうそう。二階層までは襲わない設定だったな」
これはアレン自身が設定したことだ。
一階層と二階層は、初心者が安全にモンスターと戦えるようにしている。
ただし、モンスターを倒せば魔石は手に入る。
二階層の魔石は、一階層の魔石の倍の価値がある。
「一階層で慣れたら二階層ってわけか」
アレンは周囲を見渡した。
二階層は一階層ほど人で溢れているわけではない。
だが、かなり広い。
人が増えるたびに、この階層も拡張してきたからだ。
最初に作った頃と比べれば、二階層そのものが何倍にも広がっている。
そのため、二階層の入口から次の階段までの距離もかなり長くなっていた。
「ここも結構広げたんだったな」
アレンは歩きながら周囲を見渡した。
どこまで行っても岩壁が続いている。
人が増えれば拡張する。
また人が増えれば拡張する。
それを繰り返した結果、二階層もまた、普通のダンジョンとは比べものにならない広さになっていた。
「一階層だけじゃなかったのか……」
今さらながら、アレンは気づいた。
自分が人の増加に合わせて拡張してきたのは、一階層だけではない。
人が活動する階層は、それぞれ広げてきたのだ。
しばらく歩くと、二階層で活動する冒険者たちが見えてきた。
冒険者たちはモンスターを追いかけ、倒し、魔石を拾っている。
一階層では子供たちが等間隔に並び、近づいてきたモンスターを倒していた。
それに比べれば、二階層は少しだけ冒険らしい。
アレンはその様子を眺めながら考える。
「一階層が小学校で、二階層が中学校みたいな感じか」
一階層では安全な環境でモンスターを倒すことを覚える。
二階層では、それより価値の高い魔石を狙ってモンスターを倒す。
そして、強くなった者はさらに下を目指す。
「実際、そんな感じになってるな」
あれだけ一階層で効率よくモンスターを倒せるようになれば、もっと価値の高い魔石を求めて二階層へ来るのは自然な流れだ。
「俺、そんなつもりでダンジョンを作ったわけじゃないんだけどな」
アレンは苦笑した。
そして、さらに下へ向かった。
二階層から三階層へ。
「ここからか」
三階層に入った瞬間、近くにいたモンスターが冒険者へ向かって走っていった。
「うん。三階層からは襲う設定だった」
これもアレンが決めたことだ。
一階層と二階層は安全に経験を積める場所。
三階層からは、実際にモンスターと戦う。
だから、この階層で戦えるようになって初めて、冒険者を名乗れる。
周囲では冒険者たちが、襲いかかってくるモンスターを相手に戦っていた。
「よし!」
「もう少しだ!」
「次は四階層に行くぞ!」
戦いを終えた冒険者たちが、魔石を拾いながら話している。
その会話からは、さらに上の階層を目指していることが分かる。
「早く十階層で戦えるようになりたいな」
「ああ。俺たちもいつか十階層に行こうぜ」
三階層で戦えるようになった冒険者たちは、すでに十階層を目標にしていた。
アレンはその様子を見ながら、少し感心する。
「ちゃんと目標になってるんだな」
一階層で安全に戦い方を覚える。
二階層で、より価値の高い魔石を手に入れる。
三階層からは、襲ってくるモンスターと戦う。
そして、さらに下の階層を目指していく。
気づけば、ダンジョンそのものが冒険者の成長段階になっていた。
「これも俺が狙ったわけじゃないんだけどな」
アレンは苦笑した。
そして四階層へ。
「ここは三階層とあまり変わらないか」
モンスターが冒険者を襲ってくる。
冒険者たちも戦っている。
ぱっと見た限りでは、三階層との差はそれほど大きくない。
しかし、しばらく眺めていると違いが分かってきた。
「……戦い方がうまいな」
三階層の冒険者たちより、明らかに動きが洗練されている。
一人が敵を引きつけ、その隙に別の冒険者が攻撃する。
危なくなればすぐに位置を入れ替える。
無駄に走り回ることも少ない。
同じようなモンスターを相手にしていても、戦いに慣れているのが分かる。
「なるほど。三階層で戦えるようになって、四階層では戦い方そのものが上手くなっていくのか」
アレンは妙に感心した。
そして五階層へ。
「……ここは?」
アレンが階層に入った瞬間、違和感を覚えた。
冒険者たちが戦っていない。
そこら中で座っている。
食事をしている者。
装備を確認している者。
仲間と話している者。
横になって休んでいる者までいる。
「完全に休憩所になってるじゃん」
アレンは呆れた。
だが、考えてみれば不思議ではない。
ここまで来る冒険者にとって、五階層はちょうどいい休憩場所なのだろう。
そして、アレンが作ったエレベーターは一階層と十階層を直通で結んでいる。
五階層には止まらない。
それでも多くの冒険者がここで休んでいる。
「わざわざここまで来て休むのか」
アレンは周囲を見渡した。
戦闘の合間に食事をする者。
仲間と今日の戦いについて話す者。
武器や防具の手入れをする者。
疲れてそのまま横になっている者。
五階層は、いつの間にか冒険者たちにとって重要な中継地点になっていた。
アレンは少し離れた場所に腰を下ろし、これまで見てきた階層を頭の中で並べてみる。
一階層は街。
二階層は初心者が安全に戦う場所。
三階層から本格的な戦闘。
四階層で戦闘技術を磨く。
そして五階層は休憩所。
「……なんか、ちゃんとダンジョンになってるな」
アレンはしみじみ呟いた。
最初は、ただ冒険者に長く滞在してもらってポイントを稼ぎたかっただけだった。
それが人が増え、階層を拡張し、冒険者たちが使い始めた結果――。
いつの間にか、それぞれの階層に役割が生まれている。
「一階層だけ見たときは、俺のダンジョンって何なんだと思ったけど……」
アレンは少し考えた。
「一階層だけがおかしいんだ」
そう結論づけた。
だが、その一階層こそが今では、このダンジョンで最も多くの人間が暮らし、働き、行き交う場所になっている。
「……やっぱり分からないな」
アレンは頭を掻いた。
自分で作ったダンジョンなのに、階層を進むほど知らない顔が見えてくる。
アレンは五階層の冒険者たちを眺めながら、次は六階層へ行ってみようと思った。




