ダンジョン探索1
ある日、アレンはふと思った。
「そういえば、俺って自分のダンジョンを歩いたことないな」
マスタールームからなら、ダンジョンの様子を見ることはできる。
しかし、実際に一階層を歩き回ったことはなかった。
ダンジョンを作った本人なのだから、一度くらい自分の目で見ておくのも悪くない。
アレンはダンジョンコアに尋ねた。
「仮初の肉体を作って、そこに俺の意識を移すことってできる?」
『可能です』
「できるんだ」
『マスターがダンジョン内を行動するための仮初の肉体を生成できます』
「じゃあ、それで行ってみよう」
こうしてアレンは、自分のダンジョンを探索することになった。
仮初の肉体を一階層に用意する。
意識を移す。
そして――。
「…………」
アレンは言葉を失った。
目の前に広がっていたのは、知っている一階層とはまったく違う光景だった。
「……広っ」
まず、端が見えない。
アレンは以前から一階層が広くなっていることを知っていた。
しかし、実際に地面に立って眺めてみると、その広さは想像以上だった。
遠くを見る。
建物がある。
さらにその先にも建物がある。
道路が伸びている。
人が歩いている。
荷車が走っている。
そして、アレンの目の前をバスが通り過ぎた。
「……町じゃん」
どう見ても町だった。
しかも、ただ家が適当に並んでいるだけではない。
商業施設が集まっている場所。
職人たちの工房が並ぶ場所。
住宅が集まっている場所。
採掘関連の施設がある場所。
冒険者が利用する施設。
それぞれが自然とまとまり、区画として分かれている。
「俺が作ったの、こんな町だったっけ?」
もちろん、そんなつもりはなかった。
人が増えた。
混雑した。
だから広げた。
また人が増えた。
だからさらに広げた。
それを繰り返しただけだ。
なのに、実際に歩いてみると、立派な都市計画が行われた町のようになっている。
アレンは近くの停留所から循環バスに乗り込んだ。
「これ、無料なのか?」
乗客を見る。
冒険者もいる。
買い物袋を持った住民もいる。
職人らしき人間もいる。
バスは静かに走り始めた。
窓の外を眺めていると、次々に景色が変わっていく。
「住宅街か」
少し進む。
「こっちは工房か」
さらに進む。
「商店が集まってる」
また進む。
「……ちゃんと町になってる」
アレンは感心してしまった。
自分がマスタールームから眺めているだけでは分からなかった。
実際に中を移動してみると、一階層は一つの巨大な生活圏になっていた。
「結構進んだ町だな……」
アレンは素直にそう思った。
だが、せっかく来たのだから、もう一か所見ておきたい場所があった。
モンスターの出現場所だ。
「そっちも見てみるか」
アレンが向かったのは、モンスターが出現する場所だった。
ここは、アレンが意図的に仕組みを作った場所だ。
モンスターを倒すのに時間がかかるようにして、冒険者のダンジョン滞在時間を伸ばす。
長く滞在してもらえば、それだけポイントも増える。
最初は、それが目的だった。
「どんな感じになってるんだ?」
モンスターが出現する場所へ入る。
そして、アレンはまた固まった。
「…………なんだ、これ?」
そこには子供たちがいた。
一人。
また一人。
さらに一人。
等間隔に並んでいる。
全員、モンスターが出現する方向を見ている。
そして、モンスターが近づいてくる。
子供の目の前まで来る。
ズバッ。
倒す。
次の子供のところへモンスターが移動する。
ズバッ。
倒す。
また次へ。
ズバッ。
倒す。
「……」
アレンは無言で眺める。
モンスターが出現する。
子供のところまで歩く。
倒される。
また出現する。
別の子供のところまで歩く。
倒される。
「…………」
アレンは頭を抱えた。
「これ、俺が考えた仕組みだよな?」
確かに、モンスターを倒すのに時間はかかっている。
確かに、ダンジョンに長く滞在している。
だが、アレンが想定していたのは冒険者が苦戦しながら戦う姿だった。
実際に起きていたのは違う。
子供たちは等間隔に並び、モンスターが自分のところまで来たら倒している。
それだけだった。
「待て」
アレンはもう一度見る。
モンスターが来る。
倒す。
次。
倒す。
次。
「……作業になってるじゃん」
もはや戦闘ですらない。
子供たちにとっては、モンスターが自動的に順番にやって来るだけの仕事になっていた。
「俺は敵を倒すのに時間をかけさせて、滞在時間を伸ばしたかったんだぞ?」
結果。
滞在時間は伸びた。
ポイントも増えた。
目的だけなら達成している。
だが、どうしてこうなった。
アレンは子供たちを眺めながら、深いため息をついた。
「……なんでこうなった?」
誰に聞くでもなく呟く。
当然、答えは返ってこない。
アレンは自分のダンジョンを見回した。
巨大な町。
循環バス。
整備された道路。
目的別に分かれた区画。
そして、モンスターを順番に処理する子供たち。
「俺、ダンジョンマスターだよな?」
自分のダンジョンなのに、アレンにはもう何が正解なのか分からなくなっていた。




