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贅沢な悩み

十六階層から十九階層までを新たに作ったことで、ダンジョンの規模は一気に大きくなった。


当然、それだけ大きくなれば維持するためのポイントも必要になる。


アレンはしばらくマスタールームの画面を眺めていた。


「……お?」


ポイントの増加速度が、以前より明らかに遅くなっている。


「維持費が増えたからか」


これまでなら、数字が面白いほどの勢いで増えていた。


しかし、階層を四つ増やしたことで、その分だけ維持に必要なポイントも増えた。


入ってくるポイントから維持費が引かれる。


その結果、増加する速度そのものは緩やかになった。


「これは助かるな」


アレンは少し安心した。


ところが、しばらく眺めていると――。


「……いや」


数字は止まっていない。


少しずつではある。


だが、確実に増えている。


「思ったほど減ってないな」


四階層も増やした。


維持費もかなり増えた。


それなのに、ポイントはまだ増え続けている。


アレンは画面を見ながら腕を組んだ。


「そりゃそうか。入ってくる量そのものが多すぎるんだよな」


他のダンジョンから大量の魔石が持ち込まれている。


その魔石によって宝くじ箱が使われる。


そして、ダンジョンには次々とエネルギーが流れ込んでくる。


四階層増やした程度では、その流れを止めることはできなかった。


ただし、一つだけ大きな変化があった。


ダンジョンの規模が大きくなったことで、蓄えられるポイントの上限も増えている。


以前のアレンなら、ポイントが増えすぎること自体が問題だった。


上限まで貯まってしまえば、それ以上を受け入れられない。


しかし、十九階層まで拡張した今は違う。


「前よりかなり余裕があるな」


アレンは上限を確認する。


まだ余裕がある。


しかも、ポイントの増加速度は維持費によって多少抑えられている。


「これなら、すぐに限界ってことにはならないか」


アレンはようやく肩の力を抜いた。


だが、完全に安心できるわけではない。


「……それでも増えてるんだよな」


数字を見る。


また増えた。


「増えた」


少し時間が経つ。


また増える。


「また増えた」


アレンは画面から目を離した。


「なんなんだよ、このダンジョン」


普通のダンジョンマスターなら、こんなことで悩むことはないだろう。


ポイントが足りない。


新しい階層を作れない。


モンスターを増やせない。


罠も設置できない。


どうやって冒険者を呼び込んで、どうやってポイントを稼ぐか。


そんなことに頭を悩ませるはずだ。


なのにアレンは――。


「ポイントをどうやって減らすかで悩んでる……」


あまりにも贅沢な悩みだった。


「普通はポイントが欲しくて仕方ないんだろうな」


アレンは苦笑する。


「俺も最初はそうだったんだけどなぁ」


最初の頃は、少しポイントが増えるだけでも嬉しかった。


通路を一本作る。


モンスターを配置する。


階層を少し改造する。


それだけでもポイントを気にしていた。


それが今では――。


「四階層増やしても、まだ余る」


アレンは深いため息を吐いた。


その頃。


アレンの悩みとは正反対に、王宮では動きが活発になっていた。


「グズ魔石の買い付け状況は?」


「順調です。各地から集めています」


「価格は?」


「以前より上昇しています」


「それでも買い続けてください」


王家が欲しがっている。


その事実だけで、グズ魔石にはさらに需要が生まれていた。


冒険者が魔石を持ち帰る。


買い取り業者が買い取る。


王家がそれを買う。


そして、買い集めた魔石は――。


「あのダンジョンへ運びます」


特賞を狙うためだ。


特賞には、四つの二カラット宝石が用意されている。


ダイヤモンド。


ルビー。


サファイア。


エメラルド。


王家としても、あれをもう一度手に入れたい。


特賞を狙うためには、宝くじ箱を回す必要がある。


そのための魔石を、王家は惜しみなく買い集めていた。


「こちらもお願いします」


「はい」


魔石を積んだ荷車が動き出す。


一台。


二台。


さらに別の場所からも魔石が運ばれてくる。


それらはアレンのダンジョンへ持ち込まれ、宝くじ箱へ投入される。


王家にとっては、極めて合理的な行動だった。


価値の低かった魔石で、価値の高い景品を狙える。


しかも、当たれば王家の財産になる。


「もっと集めておきましょう」


そんな判断が繰り返されていた。


しかし――。


その魔石がどこから来ているのか。


それによってダンジョンがどうなっているのか。


王家は知らない。


魔石を一つ投入するたびに、アレンのダンジョンへエネルギーが流れ込んでいる。


ポイントが増える。


そして、増えたポイントによってダンジョンを維持する。


十九階層になっても、まだ余裕がある。


だが、それでもポイントは増え続ける。


「……またか」


マスタールームで、アレンが数字を見る。


増えている。


少し前に見たときより、また増えている。


「王家、まだ魔石買ってるのか?」


もちろん、アレンには王家の動きを直接知ることはできない。


ただ、魔石がダンジョンへ運び込まれている。


それだけは分かる。


「頼むから、もうちょっと落ち着いてくれ……」


アレンは頭を抱えた。


一方、王宮では――。


「次の魔石も準備しておきましょう」


「承知しました」


新たな魔石が買い集められていく。


そして、またダンジョンへ運ばれる。


王家は特賞を狙っている。


アレンはポイントを減らしたい。


両者の目的は、完全に噛み合っていなかった。


それでも結果だけは同じだった。


魔石がダンジョンへ入る。


ポイントが増える。


そして――。


アレンの苦悩は、まだまだ終わりそうになかった。

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