クズ魔石の価値
Gランクダンジョンで産出される魔石は、これまでほとんど価値がなかった。
魔石そのものにエネルギーがないわけではない。
Gランクのモンスターが落とす魔石一個に蓄えられているエネルギーは、例えるなら単三電池一本程度。
ただし、それを魔道具で使おうとすると話が変わる。
町で普及している魔道具は、もっと大きな魔石を使うものが多い。
小さな魔石を一個ずつ交換して使うくらいなら、最初から大きな魔石を使ったほうが楽なのだ。
そのため、Gランクの魔石は買い取り価格も微々たるものだった。
冒険者にとっては、モンスターを倒せば手に入るものの、わざわざ拾って持ち帰る手間に見合わない。
「こんなもの、グズ魔石だろ」
そんな扱いをされていた。
大量に集めても大した金にはならない。
町で利用するにしても、一個ずつ交換するのは面倒だ。
そのため、一部では石炭のように大量の魔石をまとめて消費し、そこからエネルギーを取り出すような使い方までされていた。
一個一個の価値を考えるのではなく、安い燃料として大量に使う。
それがGランク魔石に対する一般的な認識だった。
ところが――。
その認識が変わり始めた。
きっかけは、アレンのダンジョンだった。
他のダンジョンで産出された魔石でも、あのダンジョンの宝くじ箱に使える。
しかも、Gランクダンジョンより上位のダンジョンから産出される魔石だけでなく、Gランクの魔石も利用できる。
それを知った王家は、魔石を集め始めた。
「Gランクの魔石も買い集めるのですか?」
「ええ。使い道ができた以上、確保しておきなさい」
王家が買い始めれば、市場も反応する。
これまでほとんど値段の付かなかった魔石に買い手がついた。
需要が増えれば、価格も上がる。
「……前より高くなってないか?」
「王家が買っているらしいぞ」
「グズ魔石を?」
「そうらしい」
冒険者たちの間にも噂が広がっていった。
そして、その噂を聞きつけたのは現役の冒険者だけではなかった。
冒険者見習いたちだった。
Gランクモンスターなら、強い冒険者でなければ倒せないような相手ではない。
もちろん危険がないわけではない。
だが、適切な指導を受ければ、子供でも倒せる程度のモンスターもいる。
以前なら、倒しても魔石がほとんど金にならなかった。
しかし今は違う。
「魔石が売れるなら……」
「小遣いくらいにはなるんじゃないか?」
そんな話が広がり始めた。
すると、冒険者見習いになる者が増え始めた。
小さな依頼をこなしながら、Gランクモンスターを倒す。
魔石を集める。
それを売って金にする。
以前なら見向きもされなかった魔石が、子供たちにとって小遣いを稼ぐ手段になっていった。
もちろん、国は冒険者を正式な軍事戦力として数えてはいない。
冒険者は自由業だ。
普段から国の命令で動く兵士ではない。
だが――。
国同士の戦争となれば話は変わる。
自分たちの町が攻撃される。
家族が危険にさらされる。
そんな状況になれば、冒険者たちは家族や故郷を守るために武器を取ることが多い。
冒険者そのものを軍事力として計算することはできなくても、冒険者が増えれば、いざというときに国を支える人間も増える。
王家にとって、それは歓迎すべき変化だった。
「グズ魔石の価値が上がったことで、冒険者を目指す者まで増えているのか」
報告を受けた王妃様は、少し驚いたように呟いた。
「はい。以前なら魔石を拾っても大した収入になりませんでしたが、今は買い取り価格が上がっています」
「なるほど」
王妃様は頷く。
アレンのダンジョンで宝くじ箱が使われる。
そのために魔石が必要になる。
魔石を求める者が増える。
魔石の価値が上がる。
そして、その価値の上昇が新たな冒険者を生み出していく。
「一つのダンジョンが、ここまで影響を与えるとは……」
王妃様はそう呟いた。
あのダンジョンは、宝石や香水、酒を生み出すだけではない。
これまで価値が低いとされていた魔石に、新しい需要を生み出した。
その結果、冒険者を目指す若者まで増えている。
国にとっては、思いがけないところから国力を押し上げる変化だった。




