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圧倒的技術力

宝くじ箱の発表の時間だ。


 隣領の騎士団と近衛兵たちは、宝くじ箱の前に集まっていた。


 今回はいつもより人が多い。


 宝くじ箱から出てくる景品は、回を重ねるごとに変化している。


 そのため、発表の時間になると、何が出てくるのかを楽しみにする者まで増えていた。


「我々が当てた景品で、必要なものがあれば言ってください」


 隣領の騎士団長が近衛兵たちに声をかける。


「そうしてもらえると助かる」


 近衛兵の隊長も頷いた。


「ダンジョンが応募口数で景品を変えているなら、今回は何を出してくるのか楽しみだな」


「そうですね」


 そんな会話をしているうちに、宝くじ箱の表示が切り替わった。


「始まったぞ」


 周囲の視線が一斉に宝くじ箱へ集まる。


「まずは四等か」


「四等は酒ですね」


 表示された景品を確認する。


「酒は十分の一で出てきます」


「かなりの量になるな」


「国内の産業に影響が出る恐れがあります」


 近衛兵の一人が言う。


「大半は国外に輸出する予定だ」


「それなら問題ないな」


「魔石代は十分回収できます」


 酒を売れば、それだけでも相当な金額になる。


 しかも宝くじ箱から出てくる酒は、こちらの世界では珍しいものばかりだ。


 だが、国内に大量に流せば、既存の酒造業者に影響が出る可能性がある。


 だからこそ、大半は国外へ回す。


「宝石もかなり出ますよ」


「それでも、すべての貴族に行き渡る数ではない」


「同じ種類が出続けるわけじゃないから、値崩れはしないはずだ」


 宝石についても、すでに何度も話題になっている。


 アクアマリン、トパーズ、ルビー、サファイア、エメラルド、ガーネット、アメジスト。


 毎回同じものが大量に出るわけではない。


 そのため、今のところ市場価格が崩れるようなことも起きていなかった。


「さて、四等はここまでか」


 表示が切り替わる。


「三等だ」


 騎士たちが身を乗り出す。


「三等は便利グッズだったな」


「ここで当てたテントや水筒は、騎士団で重宝しています」


 騎士の一人が笑う。


「テントは特に便利だったな。野営の準備が楽になった」


「水筒もいい。普通の容器とは使い勝手が違う」


「今回は何だ?」


 表示された景品を見て、騎士たちが顔を見合わせる。


「香水セットか」


 箱に入った香水が表示されている。


「これは……」


 近衛兵たちも景品を確認する。


「王妃様も喜ぶな」


 その言葉に、何人かが頷いた。


 宝石ほど高価ではない。


 だが、王妃へ届ける品としては十分すぎる。


「三等も悪くないな」


 そして、いよいよ二等の発表へ移る。


「二等か」


「ここは宝石ですね」


 表示された宝石を見て、騎士たちが声を上げた。


「翡翠か」


 緑色の宝石が光を反射する。


「相変わらず見事な品だ」


 近衛兵も宝石をじっと見る。


 大きさ、色、透明感。


 どれを見ても、一目で価値のある品だと分かる。


「千口応募すれば確実に取れますから、これはいただきですね」


 その言葉に、騎士団側も頷く。


 今回も二等の宝石は王妃のもとへ届けられることになる。


「いよいよ一等か」


 表示が切り替わる。


 その瞬間、周囲の空気が少し変わった。


「一等は私どもも確実には取れません」


「最低六個は当たるな」


 近衛兵たちは連番で六万口を持っている。


 だからといって、何でも確実に取れるわけではない。


 それでも一等を複数確保できる可能性は高い。


「一等の傾向は技術力です」


「今回は何が出る?」


 全員が表示を見つめる。


 そして、景品が表示された。


「……アタッシュケース?」


 誰かが呟いた。


 四角いケース。


 一見すると、ただの箱にしか見えない。


「これが一等か?」


「何に使うものなんだ?」


 騎士の一人が実物を手に取った。


 そして床に置く。


 ケースを引くと――。


 コロコロ。


 小さな音を立てて、ケースが動いた。


「……ん?」


 騎士が足を止める。


 もう一度、引く。


 コロコロコロ。


「なんだこの転がりは」


 別の騎士が近づいてくる。


「どうなってるんだ?」


「持ち上げなくても運べるぞ」


 ケースを押してみる。


 今度は横へ動かす。


 さらに方向を変える。


 ケースは車輪の向きを変えながら、滑るようについてくる。


「車輪が動いている?」


「いや、車輪そのものが回るだけじゃない」


「向きまで変わっているぞ」


 騎士たちがケースを囲む。


 誰かがしゃがみ込み、車輪を覗き込む。


「この構造を調べれば……」


 騎士が顔を上げる。


「馬車の車輪に応用できるんじゃないか?」


「確かに」


「方向転換が楽になるなら、馬車にも使える」


「これは面白いぞ」


 いつの間にか、アタッシュケースそのものより車輪の構造を調べることに夢中になっている。


 アレンはその様子を見ていた。


「……よかった」


 思わず息を吐く。


 最近は一等の景品を考えるのも、少しネタ切れ気味だった。


 それだけに、喜んでもらえたことにアレンはほっとしていた。


 だが――。


「一等が終わったのに、終わる雰囲気がないぞ」


 アレンがそう思った直後だった。


「……特賞だと?」


 宝くじ箱の表示が、まだ切り替わっていた。


 その場にいた全員が顔を上げる。


 一等が終わった。


 なのに、まだ続いている。


「特賞なんてあったのか?」


 近衛兵たちも表示を見つめる。


「特賞の番号を発表します」


 番号が一つずつ表示されていく。


 近衛兵たちは、自分たちの持っている連番を確認する。


 六万口。


 そして重要なのは、番号の頭だった。


「頭の数字が二より大きければ確定だ」


 表示が止まる。


「四万六千二百三十七」


 一瞬、静かになった。


「……四」


 近衛兵の一人が番号の頭を見る。


「よし、特賞を確保だ!」


 近衛兵たちの間に歓声が上がる。


 そして、いよいよ特賞の景品が表示された。


「一等を超える物はなんだ?」


 全員が表示を見つめる。


「宝石セットだと?」


 そこに表示されたのは、四種類の宝石だった。


 ダイヤモンド。


 ルビー。


 サファイア。


 エメラルド。


 しかも――。


「二カラット?」


「四つとも二カラットなのか?」


 近衛兵たちの表情が変わった。


「これは……数億の価値になるぞ」


 大粒の宝石が四つ。


 それぞれが二カラット。


 これだけの品が一度に揃えば、とんでもない価値になる。


「王妃様にすぐ持ち帰って報告だ」


 近衛兵たちは、景品を慎重に扱う。


 今回の発表で最も驚かされたのは、最後に出てきた特賞だった。


 一等のアタッシュケースですら騎士たちを驚かせた。


 だが、それを超える景品が最後に隠されていたのだ。


 その頃、アレンはマスタールームで満足そうに発表を眺めていた。


「人工宝石セットにしておいてよかった」


 アレンが使っているのは、人工宝石だ。


 地球でも大きな天然ダイヤモンドなどは簡単に手が出せるものではない。


 それを景品として大量に用意するのは、さすがに金がかかりすぎる。


 だからこそ、人工宝石を使った。


「これでかなり金を浮かせられたな」


 アレンにとっては、数億の価値がある宝石を作ったという感覚ではない。


 必要な品質と大きさを確保しながら、景品にかかる費用を抑えた。


 その結果が、今回の特賞だった。

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