アリスの魔法
「なあ、アリス」
「なに?」
「お前って魔法を使えるのか?」
「使えるわよ。全属性ね」
「……は?」
思わず聞き返してしまった。
「全属性って、火も水も風も土も、全部使えるってことか?」
「そうよ。他にもいろいろ使えるわ」
「マジかよ。冒険者になろうとは思わなかったのか?」
「私は乙女ゲームのヒロインに転生したと思っていたから、学園に通わなければいけないと思っていたのよ」
「女神様にでも会ったのか?」
「いいえ。ある日、急に前世の記憶を取り戻したのよ」
「なるほどな。気がついたら乙女ゲームの世界だったわけか」
「そういうことよ」
俺はアリスをじっと見つめた。
全属性の魔法が使える。
それだけ聞けば、ものすごい才能の持ち主だ。
「しかし、全属性持ちなのにもったいないな」
「遺伝なのかしらね。魔力量が少なくて、ライトくらいしか使えないのよ」
「……ライト?」
「そう。明かりをつける魔法よ。それも出力が低いから、あまり明るくならないの」
「全属性使えるのに、ライトしかまともに使えないのか?」
「まともに使えるというより、他の魔法も同じくらいの出力しか出せないのよ」
なるほど。
才能はあるのに、燃料が足りないわけか。
「定番の、魔力を使い切って魔力量を増やす修行はやらなかったのか?」
「やるわけないでしょう!」
アリスが即座に叫んだ。
「あれがどれだけ苦しいか知ってる? 死ぬほど苦しくて、普通の人には耐えられないのよ!」
「そうなのか?」
「そうよ! 魔力が尽きるまで魔法を使うなんて、好き好んでやることじゃないわ!」
「なるほどなあ」
俺は腕を組んだ。
魔力が少ないなら、限界まで使って鍛える。
それで魔力量が増える可能性があるなら、俺だったら間違いなく挑戦するだろう。
苦しいからといって諦める理由にはならない。
「俺だったら、無茶苦茶頑張って魔法無双を目指してそうだな」
「あなたならそうでしょうね」
「なんだよ、その言い方は」
「だってあなた、ゲームでも効率を求めて無茶なことばかりするじゃない」
「効率がいいなら当然だろ」
「苦しさを無視して効率だけで考えるのが、あなたの悪いところよ」
「結果が出るなら問題ない」
「そういうところよ!」
アリスは呆れたようにため息をついた。
失礼な話だ。
俺は合理的な判断をしているだけなのに。
「ところで、アリスは何か目標でもあったのか?」
「目標?」
「そうだ。全属性の魔法が使えるなら、冒険者になってみたいとか、強くなりたいとか、何かあったんじゃないのか?」
「別に。乙女ゲームのヒロインとして、学園で攻略対象と出会って、恋愛イベントを進めるつもりだったもの」
「……それ、本気で言ってるのか?」
「本気よ」
「全属性の魔法が使えるのに、冒険者にならずに学園生活を優先したのか」
「だから、乙女ゲームのヒロインだと思っていたのよ!」
アリスは少しむっとした顔で言い返した。
「だいたい、あなたならどうしていたのよ?」
「俺なら学園より冒険者になるな」
「でしょうね」
「魔法が使えるなら、実戦で鍛えながら金も稼げる。強くなれば行ける場所も増えるし、手に入るものも増える。学園に通うよりよっぽど面白そうじゃないか」
「あなたの場合、魔法が使えなくても冒険者になろうとするでしょう?」
「まあ、そうだな」
「即答しないでよ……」
アリスは頭を抱えた。
「そもそも、あなたはマスタールームで日本と変わらない生活をしていたじゃない。そんな生活をしていたあなたが、この世界の文明レベルに耐えられたと思わないわ」
「……あ」
言われてみれば、そうだった。
電気もなければ、インターネットもない。
娯楽も限られているし、便利な道具だって簡単には手に入らない。
そんな世界で、冒険者として生きていく?
「いや、魔法があるから何とかなるだろ」
「何とかならないから、今のあなたはダンジョンで引きこもっているんでしょう?」
「引きこもりじゃない。ダンジョンの管理業務だ」
「はいはい」
アリスは適当に返事をした。
「そもそも、あなたが冒険者になっていたら、今頃どうなっていたかしらね」
「そりゃあ、最強の冒険者を目指して……」
そこまで言って、俺は考え込んだ。
この世界の文明レベル。
不便な生活。
魔法の習得に必要な訓練。
命懸けのダンジョン攻略。
「……やっぱり、ダンジョンマスターになって正解だったな」
「でしょう?」
アリスは満足そうに頷いた。
「快適な生活を捨ててまで冒険者になるなんて、あなたには無理よ」
「いや、魔法無双には未練があるぞ」
「今からでも魔法の練習をしてみたら?」
「……面倒だからいいや」
「ほらね!」
アリスの笑い声が、マスタールームに響いた。




