福引
アレンは頭を抱えていた。
原因は、教会から届いた請求書だった。
「なんだよ、この金額……」
請求書を何度見直しても、金額が減ることはない。
もちろん、払えないわけではない。アレンのダンジョンには十分な資産がある。
しかし、ここで素直に支払えば、手持ちの資金が大幅に減ってしまう。
今後も何が起こるかわからない以上、使える金はなるべく残しておきたい。
「何か金策を考えないとな」
アレンは腕を組んで考え始めた。
新しい商品を開発して販売する方法もある。しかし、それでは商品の開発から販売までに時間がかかる。
もっと手軽に、短期間で稼げる方法はないだろうか。
考えること、しばし。
「そうだ、福引をやろう!」
アレンは名案を思いついた。
さっそく準備に取りかかる。
景品を用意し、福引器を設置し、会場を整える。
そして、ダンジョン内の一角に福引会場が完成した。
会場には豪華な景品がずらりと並んでいた。
最新の家電製品に、高性能な装備品。
美しい装飾品に、立派な家具。
冒険者が喜びそうなものから、一般客が欲しがりそうなものまで、幅広く取り揃えられている。
その中には、ひときわ目を引く豪華な景品もあった。
「おおっ、あれが一等か!」
「すげえな。あんなものまで景品にするのか!」
客たちが景品を眺めながら騒いでいる。
だが、豪華な景品ばかりではなかった。
棚の端には、タワシが置かれていた。
それも、堂々と景品の一つとして並べられている。
「……タワシ?」
「なんでタワシがあるんだ?」
客たちは首を傾げた。
豪華な家電製品や装備品の隣にタワシが並んでいるのだから、違和感があるのも当然だった。
しかし、アレンは気にしなかった。
福引にハズレはつきものなのだ。
もっとも、アレンの福引は厳密にはハズレなしなのだが。
今回の福引は、全部で七等級。
白が七等、青が六等、黄色が五等、緑が四等、赤が三等、紫が二等、虹が一等となっている。
色の並びに気づいた者がいたなら、立派なパチンカスである。
なお、七等の景品はタワシだった。
客にとっては、何としても避けたい景品である。
ただし、アレンは良心的な価格設定をしていた。
福引一回の料金に対し、白以外の景品は、どれが当たっても損をしないようにしてある。
六等でも、五等でも、四等でも、景品の価値を考えれば十分にお得。
三等以上ともなれば、大当たりだ。
つまり、白さえ引かなければ勝ちなのである。
この仕組みを説明すると、客たちは一斉に色めき立った。
「白以外なら得するのか?」
「そうだ。もちろん、景品は等級によって異なるぞ」
「なんだよ、それ! 楽勝じゃないか!」
「一回くらいなら試してみるか」
こうして、福引は営業を開始した。
最初に挑戦したのは、一人の冒険者だった。
「まあ、白以外ならいいんだろ?」
冒険者は福引器の取っ手を握り、勢いよく回した。
ガラガラガラガラ……。
コロン。
出てきた玉は、白だった。
「……」
冒険者は無言で玉を見つめた。
「おめでとうございます! 七等です!」
「おめでたくねえよ!」
会場に笑い声が響いた。
冒険者はタワシを受け取ると、恨めしそうに眺めた。
「いや、待てよ。まだ一回目だ」
彼は財布から金を取り出した。
「もう一回だ!」
ガラガラガラガラ……。
コロン。
白。
「なんでだよ!」
さらにもう一回。
白。
「おかしいだろ!」
またもう一回。
白。
「クソーッ!」
冒険者は頭を抱えた。
その様子を見ていた仲間が、肩を叩く。
「お前、日頃の行いが悪いから無理だろ」
「なんだと! 関係ないだろ!」
「じゃあ、次で白以外を引いてみろよ」
「見てろよ!」
冒険者は再び福引器を回した。
ガラガラガラガラ……。
コロン。
白。
「クソーッ! もう一回だ!」
こうして、冒険者は当たるまで福引を続けることになった。
もちろん、彼だけではない。
白を引いた客の多くが、悔しさから再挑戦していた。
白以外なら損をしない。
そう説明されているからこそ、余計に白を引いたときの悔しさが大きいのだ。
「次こそは!」
「今度こそ青以上を引いてやる!」
「いや、どうせなら一等を狙うぞ!」
福引会場は、いつしか熱気に包まれていた。
そして、その熱気をさらに高める出来事が起こる。
カランカランカラン!
「おめでとうございます! 二等、紫です!」
鐘の音が会場に鳴り響いた。
「うおおおおっ!」
当選した客が拳を突き上げる。
周囲からも歓声が上がった。
「二等だと!」
「本当に当たるんだな!」
「俺も一等を引いてやる!」
当選者は誇らしげに胸を張った。
「それで、二等の景品はどれなんだ?」
「二等の景品の中から、お好きなものをお選びください!」
「選べるのか?」
「はい。同じ二等でも、家電製品、装備品、装飾品、家具など、さまざまな景品をご用意しております」
当選者は景品の棚を見渡した。
確かに、二等の景品だけでもかなりの種類がある。
実用的な家電製品。
冒険者向けの装備品。
身につければ目を引く装飾品。
自宅を飾るための家具。
どれも魅力的で、簡単には決められない。
「うーん……どれにするかな」
「早く決めろよ!」
「うるさい! せっかく当たったんだから、じっくり選ばせろ!」
当選者は悩みに悩んだ末、装備品を選んだ。
「よし、これにする!」
「おめでとうございます!」
景品を受け取った冒険者は、満面の笑みを浮かべて会場を後にした。
その姿を見た客たちが、さらに福引に熱中していく。
「俺も当ててやる!」
「二等であれなら、一等はどんな景品なんだ?」
「虹を引けばいいんだろ? 簡単じゃないか!」
もちろん、簡単かどうかは別の話である。
それでも、豪華な景品を自分で選べるという仕組みは、客たちの心をつかんでいた。
福引会場には、連日大勢の客が訪れるようになった。
白を引いて悔しがる者。
青や黄色を引いて、景品を手に満足して帰る者。
赤や紫を引いて、周囲から羨望の眼差しを向けられる者。
そして、虹を引こうと何度も挑戦する者。
客たちはそれぞれの楽しみ方で福引を満喫していた。
一方、その様子を眺めていたアレンは、満足そうに頷いていた。
「よしよし、順調だな」
手元の帳簿には、福引による売上が記録されている。
景品の調達にはダンジョンポイントを使っているため、アレンが実際に支出する現金は少ない。
客から集めた金を使い、必要に応じて景品を用意する。
豪華な景品も、タワシも、アレンにとってはダンジョンポイントで交換できる品物にすぎない。
つまり、今回の福引は、ダンジョンポイントをお金に変換するための仕組みだった。
「これなら、教会への支払いも問題ないな」
アレンは請求書を見て、ようやく安堵の息を吐いた。
福引で客を楽しませながら、資金も確保する。
まさに一石二鳥である。
ただし、会場の隅では、まだ白を引き続けている冒険者がいた。
「クソーッ! 次こそは!」
ガラガラガラガラ……。
コロン。
「また白だああああっ!」
その叫びを聞きながら、アレンは静かに帳簿を閉じた。
「……あいつ、いつまでやるつもりなんだ?」




