参加者多数
アレンは、一人でも多くの参加者を集めるため、大会の宣伝に力を入れていた。
大会を開催する以上、参加者が少なければ盛り上がらない。せっかく開催するのだから、大勢の人間に参加してもらいたい。
そこでアレンが宣伝の目玉にしたのは、怪我をした場合の補償だった。
大会中に怪我をしてもポーションが支給される。さらに、聖女による治療まで受けられるのだ。
「これなら参加者も増えるだろう」
アレンは満足していた。
ポーションが支給されるだけでも魅力的だが、聖女による治療まで受けられるとなれば、参加を希望する者も多いはずだ。
アレンは三千人ほどの参加者を想定していた。
しかし、宣伝を始めてしばらくすると、予想もしなかった事態が起こった。
「ねえ、アレン。大会の申し込みがすごいことになってるわよ」
アリスがそう言いながらやってきた。
「おお、やっぱり宣伝の効果があったか」
「効果があったどころじゃないわよ。申し込みが殺到してるの」
「それはいいことじゃないか。やっぱりポーションと聖女の治療は魅力的なんだな」
「そうね。特に聖女の治療が大人気みたいよ」
「まあ、聖女の治療を受けられる機会なんて滅多にないからな」
アレンは納得した。
大会で怪我をしても治療してもらえるのだから、参加者にとっては安心材料になる。
ところが、集まってきた参加者の中には、アレンが想定していたのとは違う目的を持つ者たちが大勢いた。
例えば、ある農村では老人たちが集まって大会の話をしていた。
「おい、聞いたか? 今度、ダンジョンで大会があるそうじゃ」
「聞いた聞いた。なんでも、怪我をしてもポーションがもらえるうえに、聖女様の治療まで受けられるそうじゃないか」
「それは本当なのか?」
「宣伝にそう書いてあったぞ」
老人たちは顔を見合わせた。
しばらくして、一人の老人がぽつりと言った。
「……わし、参加してこようかの」
「お前、若い頃から運動なんぞしておらんじゃろ」
「別に優勝する必要はないじゃろう?」
「そりゃそうだが……」
「開始と同時に降参すればええんじゃ。そうすれば聖女様に腰の痛みを診てもらえるかもしれん」
その言葉に、老人たちは一斉に反応した。
「なるほど!」
「わしは膝じゃ!」
「わしは肩が痛くてのう。最近じゃ、畑仕事もつらくなってきたんじゃ」
「それなら、わしらも参加するか!」
「待て待て、そんな簡単に参加できるのか?」
「参加資格を満たしておれば問題ないじゃろ。大会なんじゃから、申し込めばええんじゃ!」
老人たちの話は、あっという間に村中に広まった。
そして、参加申し込みが始まると、村の老人たちが連れ立って申し込みに向かったのである。
もちろん、彼らに大会で優勝するつもりなどなかった。
ただ、長年悩まされてきた体の痛みをどうにかしたかったのだ。
聖女という存在は、それほどまでに貴重だった。
各国の王都に一人いるかどうかというレベルであり、地方に住む人々にとっては、まず縁のない存在だった。
仮に王都まで出向いたところで、聖女に治療してもらえる保証はない。
そもそも、治療を受けるためのお金だって必要になる。
農民にとって、王都までの旅費も決して安くはない。腰が痛いからといって、気軽に出かけられる距離でもなかった。
それが今回の大会ならどうだろう。
参加資格を満たして申し込めば、聖女による治療を受けられる可能性がある。
戦闘で怪我をしてもポーションが支給されるのだから、治療を受けるためにわざわざ怪我をする必要もない。
大会が始まったら、すぐに降参すればいい。
「参加しない理由がないじゃろ!」
老人たちは、そんな結論に至ったのだった。
そして、この考えは老人たちだけにとどまらなかった。
農作業で腰を痛めた者、昔の怪我が治らずに悩んでいる者、長年膝の痛みに苦しんでいる者。
聖女の治療を受けられるかもしれないと聞けば、参加を考える者は少なくなかった。
中には、家族から参加を勧められる者まで現れた。
「おじいちゃん、大会に出てきたら?」
「わしが出ても勝てんぞ?」
「勝たなくてもいいんでしょ? 聖女様に診てもらえるかもしれないんだから」
「……それもそうじゃな」
こうして、大会の参加者は予想外の方向から増えていった。
一方、アレンはそんな事情を知る由もなかった。
「ところで、アリス。参加者はどれくらいになりそうなんだ?」
「それがね、もう三千人を超えてるわよ」
「おお、いいじゃないか!」
アレンは喜んだ。
三千人というのは、あくまでも事前に想定していた人数だ。
それを超えたのなら、宣伝は成功したといえる。
「最終的にはどれくらいになりそうだ?」
「まだ増えてるから、確定はできないけど……」
アリスは少し間を置いてから答えた。
「今のところ、一万五千人よ」
「……は?」
アレンは聞き返した。
「一万五千人」
「いや、待て。俺の聞き間違いか? 三千人じゃなくて?」
「一万五千人よ」
「五倍じゃねえか!」
アレンは思わず声を上げた。
三千人でも十分に大きな大会になると思っていたのに、まさか五倍にまで膨れ上がるとは予想していなかった。
「何があったんだよ!?」
「宣伝の効果でしょう?」
「いや、宣伝したのは分かってる! どうしてそこまで増えたんだ!?」
「聖女様の治療を受けられるという点が、特に好評だったみたいよ」
「……ああ、なるほど」
アレンは納得しかけて、首をかしげた。
確かに、聖女による治療は魅力的だろう。
だが、大会に参加する以上、ある程度は競技に興味があるものだと思っていた。
「参加者は、みんな優勝を目指してるんだよな?」
「もちろん、優勝を目指してる人も大勢いるわよ」
「そうだよな」
「でも、開始と同時に降参するつもりの人もいるみたい」
「……は?」
アレンの動きが止まった。
「今、なんて言った?」
「開始と同時に降参するつもりの人もいるって言ったのよ」
「なんでだよ!?」
「聖女様に腰や膝の痛みを診てもらいたい人が多いみたいね」
「大会を何だと思ってるんだよ!」
アレンは頭を抱えた。
確かに、怪我をしてもポーションが支給される。聖女による治療も受けられる。
だが、それはあくまでも大会で戦う参加者のために用意したものだ。
最初から戦う気がない者まで集まってくるとは、考えもしなかった。
「いや、でも……」
アレンは少し考え込んだ。
聖女の治療は貴重だ。普通なら受ける機会すらない。
そんな治療を受けられる可能性があるのなら、参加したいと思う人間が大勢いても不思議ではない。
むしろ、これまで聖女の治療を受ける機会がなかった人々にとっては、絶好の機会なのだろう。
「……宣伝の仕方を間違えたか?」
「いえ、参加者は増えてるんだから、宣伝としては大成功よ」
「そういう問題じゃないんだよ!」
アレンの目的は、大会を盛り上げることだった。
参加者が増えたのだから、目的は達成している。
ただし、参加者全員が大会そのものを目的にしているとは限らない。
この事実が、アレンにとっては完全に想定外だった。
「まあ、申し込んだ以上は参加してもらえばいいか……」
アレンは、半ば諦めたように呟いた。
すでに一万五千人もの申し込みがあるのだ。今さら大きく方針を変えるわけにもいかない。
こうして、ダンジョンで開催される大会は、予想を大幅に上回る規模となった。
一万五千人。
それは、ダンジョンに集まった人数として、過去最高記録を大幅に更新する数字だった。
大会を盛り上げるために宣伝した結果、集まったのは大会で優勝を目指す者だけではなかった。
聖女に長年の痛みを診てもらいたい者たちまで、大勢押し寄せてきたのである。
「……次からは、宣伝文句も考えないとな」
アレンはそう呟いた。
もっとも、これだけの人数が集まった以上、大会が盛り上がることだけは間違いなかった。




