最強の冒険者決定戦
アレンのダンジョンで、冒険者世界一を決める大会の開催が持ち上がった。
珍しく、アレンの発案ではない。冒険者ギルドが主催する大会だった。
世界中から腕自慢の冒険者が集まり、トーナメント形式で最強の座を争う。優勝者には豪華な賞品が贈られる予定だ。
そんな話を聞いたアレンは、すぐさま協賛することにした。
「これは美味しいイベントだな」
大会には大勢の冒険者が集まる。激しい試合になれば、怪我人も多数出るだろう。
アレンは個人事業主として協賛を申し出た。素性を明かすつもりはない。
優勝賞品を提供するほか、怪我人の治療に必要な聖女の派遣費用やポーションも負担することにした。
もちろん、ダンジョンポイントを稼ぐためである。
さらに、大会の様子を映画館で放送し、各ブロックの勝ち上がりを予想して賭けを楽しめるようにすることも決まった。
大会の規模はどんどん大きくなり、開催に向けて準備が進められていった。
そして、大会の開催が近づくにつれ、冒険者たちの間では優勝候補の話題で盛り上がっていた。
その一角を占めるのがリリアだった。
本人も優勝を狙っている。世界一の冒険者という称号を手にする機会など、そうそうあるものではない。
しかし、リリアには一つだけ、どうしても解決しておきたい問題があった。
エレナである。
もしエレナが大会に出場したら、優勝してしまう可能性が高い。
リリアとしては、ぜひとも出場を遠慮していただきたかった。
そこで、エレナと顔を合わせたとき、さっそく確認することにした。
「エレナ、大会には出ませんよね?」
「大会?」
「冒険者世界一を決める大会です」
「ああ、あれですか。出場する予定はありませんが」
「本当ですか?」
「はい」
「出ないでくださいね。絶対ですよ?」
リリアは真剣な表情で念を押した。
エレナは不思議そうに首をかしげる。
「どうしてですか?」
「どうしてもです!」
「……そうですか」
リリアは理由を説明できなかった。
エレナが出場したら自分が優勝できなくなるから、などとは口が裂けても言えない。
せっかくの大会なのだから、自分だって優勝したいのだ。
「いいですか? 本当に出ないでくださいね。絶対ですよ?」
「分かりました。出ませんから安心してください」
「本当ですね?」
「はい」
リリアはようやく胸をなで下ろした。
これで優勝の可能性が残った。
一方、エレナはリリアの様子を見て、何やら考え込んでいた。
出ないでほしいと何度も念を押す。
普通なら、一度断ればそれで終わるはずだ。
それなのに、リリアはまるで自分が出場することを恐れているかのようだった。
いや、もしかすると……。
「……これは振りでしょうか?」
「はい?」
「いえ、何でもありません」
エレナは首を振った。
もしかすると、リリアは自分と戦いたいのかもしれない。
だからこそ、あえて出ないでほしいと言って、こちらの反応を確かめているのではないだろうか。
しかし、そうだとすると、ずいぶんと回りくどい。
「本当に出ませんからね?」
「はい。分かっています」
「絶対ですよ?」
「……はい」
リリアは念を押し、エレナは曖昧にうなずいた。
リリアは安心して大会の準備に意識を向けたが、エレナの疑念は消えていなかった。
果たして、リリアの言葉は額面どおりに受け取っていいのだろうか。
エレナはその後もしばらく悩み続けることになった。




