400話記念
アレンは、お祝いを受けていた。
ダンジョンマスター、四百話達成記念である。
とはいえ、当のアレンには何のことだかよく分かっていなかった。
「今日はアレンへのプレゼントを用意しましたわ」
クラリスが嬉しそうに言った。
「プレゼント? なんでまた?」
「四百話達成のお祝いですわ。いつもはアレンが私たちにプレゼントを贈ってくださいますから、今日は私たちから贈ろうということになりましたの」
「なるほど。そういうことか」
いつもは自分が贈る側だが、今回は受け取る側らしい。
せっかく用意してくれたのだから、ありがたく受け取ることにしよう。
「では、まずは私からですね」
クラリスが取り出したのは、二つのキーホルダーだった。
「お揃いのキーホルダーを用意しましたわ」
「お揃い?」
「ええ。アレンと私で一つずつ持てば、いつでもお互いを身近に感じられますでしょう?」
クラリスは満面の笑みを浮かべている。
アレンは二つのキーホルダーを見比べた。
デザインも同じで、二人で持つことを前提にした品物らしい。
「……ありがとう。大切にするよ」
めっちゃ恋人っぽいプレゼントだった。
いや、プレゼント自体は嬉しい。嬉しいのだが、これを見た人はどう思うだろうか。
事情を知らない人間が見れば、二人は恋人同士だと思われてもおかしくない。
もっとも、クラリスはそんなことを気にしていないようだった。
「ふふっ。お揃いですね」
「そうだな」
アレンは余計なことを考えるのをやめた。
「次は私ですね」
フローラが一歩前に出た。
「アレン、こちらをどうぞ」
差し出されたのは、丁寧に仕立てられた服だった。
「これは?」
「新しい執事服ですわ。今お使いになっているものも悪くありませんが、こちらのほうがアレンに似合うと思いまして」
「執事服……」
アレンは服を広げて確認した。
確かに立派な品物だった。生地も上質だし、仕立てもいい。プレゼントとしては申し分ない。
しかし、何かがおかしい。
「ありがとう。ありがたく使わせてもらうよ」
「気に入っていただけたようで何よりですわ」
フローラは満足そうに微笑んだ。
アレンは改めて服を見た。
俺の職業を勘違いしていないかな?
確かに、セレスティアたちのお茶会で給仕をすることは多い。
だが、アレンはダンジョンマスターである。
執事ではない。
……まあ、せっかくもらったものだ。使う機会がないわけでもないだろう。
「次は私ですわ」
今度はリリアがプレゼントを差し出した。
「お、リリアは何をくれるんだ?」
「こちらですわ」
手渡されたのは、エナジードリンクだった。
「……エナジードリンク?」
「はい。疲れたときに飲めば、元気が出ますから」
「いや、実用的だけどさ……」
アレンは手元のエナジードリンクを眺めた。
クラリスからはお揃いのキーホルダー。
フローラからは新しい執事服。
そして、リリアからはエナジードリンク。
確かに役には立つ。
疲れたときに飲めばいいし、ダンジョンの仕事で忙しいときにも重宝するだろう。
しかし、プレゼントにエナジードリンクというのはどうなのだろうか。
「お気に召しませんでしたか?」
「いや、そういうわけじゃない。ありがとう、ありがたくもらっておくよ」
「それならよかったですわ」
リリアは安心したように微笑んだ。
アレンはエナジードリンクをしまった。
実用性という点では、今回のプレゼントの中で一番かもしれない。
ただ、もう少しこう、プレゼントらしいものでもよかったのではないだろうか。
「次は私だよ!」
アリスが元気よく手を挙げた。
「アリスは何を用意したんだ?」
「ふふん、これだよ!」
アリスが差し出したのは、箱に入ったチーズケーキだった。
「おお、チーズケーキか! 手作り?」
「もちろん!」
「ありがとう。あとでみんなで食べようか」
「待って!」
アリスが慌てて止めた。
「これは特別なチーズケーキなんだよ!」
「特別?」
「そう! 品質を捨てて効力を高めた特別な一品だよ!」
「誰が分かるんだ、そのネタ!」
アレンは即座にツッコミを入れた。
「分かる人には分かるんだよ!」
「いや、分かる人がどれだけいるんだよ!」
「大事なのは品質じゃなくて効力なんだから!」
「食べ物で何を追求してるんだ、お前は!」
アリスは得意げに胸を張っている。
どうやら、本人は相当自信があるらしい。
アレンはチーズケーキの箱を見た。
見た目は普通においしそうだ。
少なくとも、品質を捨てたようには見えない。
「……まあ、食べてみるよ」
「うん! 感想を楽しみにしてるね!」
アレンは少しだけ不安になった。
いったい、どんな効力があるというのだろうか。
普通においしいチーズケーキであることを祈るばかりだった。
「最後は私ですわね」
セレスティアが微笑みながら前に出た。
「セレスティアも用意してくれたのか」
「ええ。私からのプレゼントですわ」
そう言って、セレスティアは一枚の紙をアレンに差し出した。
「……これは?」
「アリスさんに用意していただいた、私を好きにできる紙ですわ」
「なんだそりゃ」
アレンは受け取った紙を見た。
婚姻届の紙だった。
「なんてもんを用意するんだ!」




